メグルユメ

トラフィックライトレイディ

21.霧に咽ぶ夜

 シキがこれに参加したのは、コストイラに煽られたからだ。

「あれ? シキは参加しないのか?」

 と言われ、シキは燃えた。は? 私もやるし。
 その意気込みのもと、シキは戦場に入っていった。

 目の前にいる女は震えていた。この女は相当な実力者だと分かる。だからこそ、震えていた。

 今はもうないクリープラントの斥候を務めていた女だ。一人で百人分の仕事をしていたとされる人物。その最期は主を護れなかったことに絶望し、自害したとされている。ゆえに、無敗。生涯無敗と銘打たれる女。

 その姿は一般に知られていない。それが原因なのか分からないが、会場の熱はいまいちだ。

 静かに佇む二人。その二人の瞳に宿るモノの違いに気付いた者は、果たしてこの場にいるのだろうか。
 シキのそれは明確な殺気。生涯無敗の斥候を震え上がらせ、逃げたくさせる程のものだ。何かを見せつけようとする目。
 エスシーオーのそれは明確な敵意。生かすか殺すかは置いておいて、あれを目の前から排除しなければならない。その意思が籠った目。

 そして、意志おもい意志おもいがぶつかり合う。

 何かかっこいい風に書いたが、起こった事態は単純だ。両者のナイフが交わった。ただそれだけだ。

 結果、エスシーオーのナイフが砕けた。驚異の動体視力で迫るナイフを躱す。しかし、腹筋に赤い筋が走った。この瞬間に悟った。まともに真正面から行ったら死ぬわ、これ。

 すでに死を経験しているにもかかわらず、恐怖が生まれる。

 とりあえず、まずは手の中に煙幕用のボムを仕込んでおく。

 そこで、シキが動いた。反射的にボムを地面に叩きつける。
 
 チュドッと煙幕が張られた。これで少しは足止めになる。欲を言えば騙されてくれるといい。

 エスシーオーの戦い方は基本が嘘つきはったりだ。強いと思わせることや武器、戦い方に至るまでの何もかもを嘘で翻弄して、いつの間にかで殺す。それこそが戦術。

 だからこそ、最初の嘘が肝心。

 最初の衝突での印象と煙幕で、逃げ、弱腰、そう思わせたところを一発叩き込む。その一発で終了。時間をかけてはいけない。この娘に時間を与えてはいけない。

 煙幕に乗じて潰す。

 エスシーオーが前に出ようとした瞬間だった。

 サクッ。

 その音が確かに聞こえた。敵の足音だ。しかも近づいている。

 え? 警戒していない? 近づいている? え? マジで言ってる?

 エスシーオーはもう一つのボムを地面に叩きつけた。今度のは特殊な液体達を巡り合わせたオリジナル。歯の中に仕込んだカプセル状解毒剤がなければ、確実に動きを封じられる。麻痺や催涙を促し、引き起こす代物だ。

 足を止めた瞬間にる。

 サクッ。

 その音は止まっていない。

「ゴホ」

 咳き込む声が聞こえた。ってことは効いている? 効いているのに止まらないの?

 煙幕を割って白銀の悪魔が現れた。
 その時、冥界で言われた一言を思い出した。

 こいつが白銀の悪魔か。

 白銀の悪魔がナイフを振った。倒れながら見えた悪魔の顔には涙が浮かんでいた。





「うっうっ」

 シキは無表情のままえずき、涙を流し続ける。

 医務室では、アストロの前で泣き続けている。シキが珍しい、と思いながら、アストロが涙を拭ってやる。

「止めて」
「目を洗ってみれば?」
「うん」

 コストイラとアシドがベッドの中に籠っている。シキを見送ってから、そのベッドを見た。
 めちゃくちゃにエンドローゼにキレられている。後で私も説教を食らうと考えると、少しブルッときた。
 体は動くのだから、レイドの戦いでも見に行くか。

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