メグルユメ

トラフィックライトレイディ

12.簡素な道のりと聞いたのに

 街に来ないか、と誘いを受けた。あまりにも焦りすぎると失敗すると考え、一時的に休憩を入れることにした。

「チェシバルの街はここから三時間くらいですかね。魔物の出現頻度はそこまで多くないので、大丈夫ですよ」

 メントモールがそんなことを言うもんだから、安心したが、それが悪かった。

 街へ行くために目を付けていた穴に男衆が入っていく。コストイラもウッキウキで入ろうとすると、ガルムの死体を担いでいた男衆が出てきた。
 瞬発的に刀を抜く。何か見て行動したわけではない。ただの直感だ。
 刀に何かぶつかり火花が散る。小さな火の粉のおかげで、少しだけ敵が見えた。

 人馬一体。ケンタロスだ。

 よく最初の一撃を防げたものだ。こういう時の運はあるのだな。

 斧で弾かれたコストイラが刀を構える。そこで男衆が気になることを言った。

「何だ、こいつ!」

 え? こいつがケンタロスって知らないの? つまり、ケンタロスはこの近くに住んでいない個体? こいつ、どこから来たのだ?

『ヴェキェロロロロロロローーーーーーー!!』

 かなり特殊な啼き声を叫びながら、ケンタロスは斧を振り回し、前足をドシドシと踏み鳴らす。そして、右の楯を突き出し、走り出した。

「フゥー」

 息を細く吐き出し、真正面から突っ込んだ。

「あ」

 メントモールが止めようと手を伸ばすが、コストイラは止まらない。
 ケンタロスの横をスレスレで躱し、人馬の境目を一閃する。境目が半分まで斬れ、血が溢れているにもかかわらず、まだ死んでいない。
 そう思い、もう一閃しようとして、ふと気づく。普通痛くて叫ばないか?

 上からポタリと粘り気のある液体が落ちてきた。鉄臭い液体だ。

 コストイラの刀はそこまで届かない。つまりコストイラではない。では、誰か? いや、遠回しな言い方はやめよう。絶対シキだ。
 コストイラが上を見る。シキが堂々とケンタロスの髪を掴んで、傷口の上に立っていた。
 綺麗な白銀の髪や陶磁器のように白い肌が真っ赤に染まっている。そういうところ無関心だな、と思いつつ、大事な戦力を削ぐような行為な気がするので、指摘するのはやめておく。

 男衆はすっかり委縮してしまい、腰を抜かしている。
 邪魔だったのか、シキは無造作に生首を手放した。重力に従って落ちた首はズドンと大きな音を立ててバウンドする。
 その後を追うようにシキが静かに着地した。
 視線が集中していることに気付いたシキが男衆に顔を向ける。すると、彼等は見てはいけないものでも見てしまったかのように視線を逸らした。

 シキはそれが分からず、助けを求めるようにアストロを見る。アストロは眉間の皺を揉み解しながら、手招きして呼び寄せた。
 シキは素直にアストロに近づく。アストロは何と声を掛けるかを考えながら、頭を撫でた。シキは抵抗することなく頭を差し出し、目を細める。

「あれよ。貴方が強くてびっくりしちゃったのよ」

 成る程とリアクションすると、頭から手が離れる。もう少し撫でてほしかった。

 魔物がいないことを確認し、穴の中に人が消えていく。

「さっき、あの人馬見たことない、みたいなリアクションとってたよな」
「実際に初めて見たからな。今にして思えば、心当たりがあったりするんだけど、いかんせん見たことはないからな」
「心当たり?」

 メントモールの話し方が砕けてきている。ボロが出てきているようだ。外を詰めていきたいが、それよりも心当たりの方が気になる。

「あぁ、実は」

 何か、その心当たりが発覚する前に壁が破壊された。土埃の中に浮かんでいるシルエットを見る限り、それは体長五m近くあり、手には棍棒を持っている。

「おい、魔物の出現頻度は低いんじゃなかったのか?」
「そ、そのはずだったのだけど、あれ? どうなってんだよ」

 メントモールが焦り散らしながら他の男衆に顔を向ける。他の男衆は首をブンブン振っている。

「普通はこんな巨大なモンスターに出会わねぇんだよ。出会っても一体、逃げられる距離で見つけられるんだ」

 コストイラはキレている男に同情しながら、刀を構えた。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品