メグルユメ

トラフィックライトレイディ

8.暗き森

 アレンを探してすでに何日も経っている。だというのに、未だにヒントさえ見つけられない。

「あ、ア、アレンさんはどこに行ったのでしょうか」
「分からん。ここまで探しても何も見つからないのは初めてだ」

 エンドローゼが不安そうな声を出す。レイドは初めての事態に心を乱される。アストロも難しい顔をして腕組をしようとして、舌を打った。片腕しかない。片腕の時の腕組みは違和感しかない。この腕はどこにおいておけばいいのだ?

「困ったわね。ここまでヒントも姿も、それらしい影さえないわ。自分の無力さを実感するわ」
「泣き言を言っても仕方あるまい。必ず見つかるぞ」
「当たり前だ、仲間だぞ」

 珍しく弱音を吐くアストロの後ろでは、レイドが太い腕を組んで力強く宣言する。それに呼応するようにコストイラが吠えた。
 もし、このやり取りをアレンが見ていたとしたら、感動のあまり涙を流しただろう。僕はこんなにも必要とされているんだ、と考え、一生ついて行こうと思ったかもしれない。

 ところで、このパーティ内のアレンの役割は何なのだろうか。立場は指揮官、司令塔ということになっている。しかし、本当にその立場としての仕事がこなせているのか?

 答えは否である。もちろんアレンはさぼっているわけではない。アレンは根がまじめな男だ。与えられた以上、司令塔として仕事をしようとしている。しかし、司令塔に向いている人物が他にいるのだ。その為、アレンは仕事ができていない。

 今一度、先ほどの疑問を投げよう。

 アレンの役割って何?

 戦闘面ではほとんど期待されていない。身体能力は並みだし、特殊な技能だってない。正直な話が、足手纏い。
 魔眼という特異物を所持しているが、実際にはそれがなくても対処できてしまう。

 では、アレンは何の役に立っているのか?

「さっきまで明るかったのに、急に暗くなったな」

 コストイラが刀で蔓を払いながら進む。アストロも嫌そうに大きな葉を避けていた。

 コストイラ達はいつの間にか森の中に入っていた。完全に陰樹林が茂っている。林冠を洩れる光がほとんどないほどに生い茂っており、林床部分にいるコストイラ達は光を享受できていない。

「こちら側が暗いと、光がはっきりと見えるわね」

 アストロ達の目線の先には、光が集中しているところが見える。柔らかく優しい太陽の光だ。

「とりあえず、行ってみるか」

 コストイラ達はアレンと出会うための歩みを止めない。




 奈落、そこに聳える絶対的な象徴。闘技場。
 廊下を歩くのは先日まで無敗だったチャンピオンのアリスだ。アリスを破った、本来新チャンピオンとして君臨すべきだった少女がここにいない。
 シキはここではないところに旅に出てしまった。空席となっているチャンピオンの枠を争って、再び無敗でチャンピョンになった。

 今も無傷かつ十数秒で瞬殺した帰りだ。

「シキ、強かったな」

 アリスは左手首を押さえながら、当時の戦いを思い出してプラプラ揺らす。

 もう一回戦いたい。もう一度、あの感動を味わいたい。

「シキ、どこにいるのかな」
「おや? 恋煩い?」

 廊下にある柱の陰から白髪の少女が姿を現した。開いた眼はオッドアイになっており、白髪と合わせって可愛らしさを演出している。

「そうね。寝ても覚めても彼女のことを考えている。こんな感情は初めて」
「私も、シキ、好き」
「ということは、私達はライバルということだね」

 アリスとフウが互いに口角を上げる。友人同士の楽しい会話に見えるが、互いの視線の間にはバチバチと火花が散っている。
 要はどちらがシキに会いに行くのかということだ。

 どちらも会いに行きたくて仕方ないのだ。

 フウが腰元で拳を固める。

「成る程、そいつで決めようってことか」
「勝負!」

 どうやら両者の間には、一緒に行くという発想はないらしい。とはいえ、どちらか片方でもいなくなった場合の損害は多大なものになるため、この発想を実行した際には闘技場主人が泡を吹いて倒れるだろう。

「「最初はグー!!」」

 2人は最近流行りのじゃんけんで、

「「じゃんけん、ポン!」」

 幸せに決着がなされた。

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