1．【入り口】

　目が覚めると、真っ黒な世界で本当に目を開けているのか不安になった。震える手を、目の前に持ってくるが、それでも見えない。

　視覚は光の反射によって起こる現象を感知する感覚だ。つまり、今は無光状態ということだ。

　これが初めての出来事だったなら間違いなく発狂していただろう。

　アレンは静かに息を吐き、耳を澄ませてみる。

　何も聞こえない。何か聞こえると期待していたが、仕方ない。
　鼻を働かせてみる。聴覚は片耳の耳介が失われているからこそ、何も聞こえなかったのかもしれない。鼻は正常だ。何か感じ取れるだろう。
　期待は簡単に裏切られる。おかしい。ここまで何も感じ取れないのは不安でしかない。

　まだ手は残っている。これが駄目なら本格的にマズイが。

「フゥー」

　息を吐きながら心を落ち着かせる。大丈夫だ。成功する。

　アレンは魔眼を発動させた。魔眼であれば、見えるもののステータスを表示させることができる。それは光など関係なく、魔力によって相手をスキャンし、表示させるのだ。
　もし周りが魔物で囲まれている場合、アレンでは対処できないため、間違いなく袋叩きで死ぬ。

　だからこそ、この手は切りたくなかった。

　そして、アレンの目に映った情報は。

　”壁”。

「か、壁？」

　少し手を伸ばすと、少しザラザラした感触の壁があった。





『まったくもって運のいい奴等だ』

　ブルーベリー色をした5ｍ大の巨人が、片手で頭を押さえながら、くつくつと笑う。
　巨人は箱を目の前にして、苦い顔をしている。

　頭についている太い角を触りながら、何とか対抗策を考える。あれに対抗するのなら、今の戦力では心許ない。

『運のいい奴等がいるから、我々が苦労を掛けられるのだ。なぜ私がこんな目に』

　ブルーベリー色をした巨人は箱の中を覗き込んだ。

『何とか戦力をそろえなければ、”天界の使徒”に殺される』






『ぐ、ぬ』

　炎を灯した尾が地面へと垂れた。その尾にはもう炎はない。生気は完全に失われ、その生は完全に終えたことを告げていた。

『ペテロシウス様』
『あぁ、どうした』
『これが本当に”滅天隊”なのですか？　これなら我々だけでも』
『驕るな』

　決して大きな声ても怒鳴り声でもなかった。しかし、その声で全員が黙った。

　ペテロシウスは手にしていたハンマーを地面に置き、”滅天隊”の一員を屈葬した。

『この者は”滅天隊”の中でも下っ端な人員だ。こいつだけで戦力を計ることはできない。だからこそ、絶対に驕るな』
『は、はい』

　部下の1人が慌てて返事をする。しかし、部下はペテロシウスの言葉を聞き入れることはなかった。自分達の方が優れていると思っているからだ。

『このままゴイアレの元に向かう』

　ペテロシウスの言葉を受けて、部下達は気を引き締めた。