メグルユメ

トラフィックライトレイディ

15.気虚の相

 人馬が斧を地面に引きずりながら走ってくる。コストイラが射程範囲に入った時、斧を瞬間的に振り上げた。
 コストイラは横に跳んで躱した。すでに真正面には敵がいない。

 人馬は速度を緩めながら方向転換する。頭を振って人を探す。気弱そうな女も弱そうな男もいない。大柄な楯持ちも槍持ちもいない。

 どこに行った?

「こっちを見ろよ」

 コストイラが刃を振るう。斧も楯も鎧も抜けて、刃が肉に辿り着く。運動量の多い、分厚く筋肉質な肉だが、簡単に切り裂いた。

 人馬は斧を振り上げた。コストイラは避けようとも防御しようともしない。諦めたか?

 トッと異常なまでに軽い音がした。震動が手に伝わってくる。
 何かが斧に乗った?
 人馬が斧を見る。斧の先には白銀の悪魔がいた。

 身を低くしているシキが一気に飛び出した。シキの強烈な膝がクンタロスの顔に刺さる。骨の顔に罅が入り、砕けた。

 庇うように両腕を顔に持っていく。
 防御が来ないと確認したコストイラが、一気に距離を詰め、刀を振った。

 痛がった人馬が両前足を振り上げた。巻き込まれないように少し距離をとる。

 鉱石の埋まっている岩の陰からアストロが腕を伸ばして狙いを定める。人馬が気付いた頃にはもう遅い。指先からは魔力が放たれた。
 魔力は人馬の上半身に当たり、一瞬で破砕した。

「頭を狙ったつもりだったのに、ブレたわ」
「片手の弊害か?」

 アストロが右手を見ながら悔しそうに呟く。レイドはストレートにその原因を追究する。
 アストロもレイドの言う通り、原因は片手であることだと思っている。しかし、片手になったことによる精神的なものも影響しているのかもしれない。

「慣れるまで時間かかりそうだわ」
「手伝うぜ。いつまでだってな」

 溜息を吐くアストロにアシドが元気づける。

 アストロに今までのような元気さが見られない。いくらアストロと言えど、片手喪失は割り切ることができないのだろう。
 当たり前だ。もしアレンだったら落ち込むだけでは済まない。今は奇跡的に四肢すべてがくっついている状態だが、両手に関しては奇跡を超えている。まともに動かないが、存在している。これだけでかなりの幸せなことだ。

 アストロの不安が通じているのか、エンドローゼも落ち込んでいる。自身の力が万能ではないことは知っている。しかし、それが仲間に訪れてしまうのは、心にきてしまっている。

 全体的に元気がない。

「いつまでもここにいれねェ。行こうぜ」

 こういう時に時間が解決する。そう信じているコストイラは急かすように歩きだした。コストイラの不器用なところを微笑みながら、一行は歩き出した。

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