メグルユメ

トラフィックライトレイディ

11.故郷の星が映る海

 郷愁。故郷から離れたところにおいて、故郷を懐かしく思うこと。郷愁を感じるのは故郷に関連するものを見聞きしたタイミングだ。故郷の特産品や題材にした劇を見た時などに起こる感情の一つ。

 似たような言葉に、ホームシックというものがある。

 ホームシックは長く住んだ土地から離れた者が、その地を病的な程に思い、寂しがり、恋しがる状態のこと。何かを見ていない時にさえ、ふと寂しがることがある。ホームシックにシックがあるとおり、病の一つだ。

『キュオーン』

 ネイビーブルーが啼いた。

 その瞳には青い星が見える。それは多くの生物が暮らし、様々な種類の生き物が生きる星。そして、このネイビーブルーも暮らしていた星。

 その昔、このネイビーブルー(以降NBBと呼ぶ)は、シキ達のいた星に住んでいた。なんやかんやあって月に来た。
 そう、なんやかんやあって、だ。何が起きたのか一切把握していない。最後の記憶は戦争をしていたことだ。ナンバエッタ教のNBBは、クロゴロ教との宗教戦争を行っていた。それがすべてだった。

 魔術を浴びて、次に目を覚ました時、すでに月にいた。身体は巨大になっており、魔物になっていた。

 もう戻れない。過去には戻れない。身体も戻らない。もう、何もかもが手遅れだ。

 NBBはもう啼くことしかできない。
 だから今日も啼く。ただ、故郷の星を見て、啼く。

『キュオーーン』

 NBBが再び啼く。

 アレン達が腰を低くして様子を見守る。NBBは何かするわけでもなく、ただ宙を見守る。

「横、通れるか?」
「海から出てこないなら、行けるかもしれないけど、陸に出てこれるなら危険じゃない?」
「オレが先頭かな?」

 コストイラが身を低くしながら、刀を少しだけ抜いておく。

 ゆっくりと歩くコストイラの前で、NBBは動かない。緊張で唾が飲めない。

『キュオーーン』

 急にNBBが啼く。アレンの心臓が飛び出しそうになる。
 バレたかと思ったが、違う。先程からNBBのしている行動は、常に一つ。懐郷の思いを声に乗せて啼いている。それだけだ。

 コストイラが横を抜け切る。気付かれていない? それとも相手にされていない? どちらにせよ、平気なことに変わりない。

 コストイラが手を招く。アレン達が追って、NBBの後ろを通る。

『キュオーーン』

 哀しげな声だ。いったい何を悲しんでいるのだろう。

 アレンがNBBの視線の先を見る。そこには青い星があった。その星が何の星か、アレンには分からない。
 しかし、魔眼には星の名前や国の名前、山や海の名前が見える。そこにははっきりと書かれていた。

「魔大陸、クリープラント
『キュオーーン!!』

 アレンが読んだ名前に反応して、NBBが啼いた。

 今日もまた、NBBはクリープラントに啼く。

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