メグルユメ

トラフィックライトレイディ

17.死を拒む魔人

 廊下から射す光にシルエットが入った。部屋の中にいたプリディケイト・アウーダは扉の方を見た。
 ナイト・クレアかフィリス・クレアか。しかし、影はそのどちらも違う。ナイトもフィリスも身長が180㎝程だが、影は200㎝を超えている。

『誰だ?』
「お前がこの施設の長か?」
『こっちの質問に答えろよ、ぼんくら。私は貴族だぞ。しかも、子爵。アウーダ家だ』
「アウーダ。人形作家の一族か」

 プリディケイトの眉が上がる。

『知っているならば話が早い。とっとと去れ』

 プリディケイトの発言とともに、レイドが動いた。
 一気に距離を詰めて、大剣を振るう。貴族が腕を振るうと、腕と体の間に存在する被膜が広がり、大剣を防ぐ。

 プリディケイトの目は8割がオレンジ色で2割が青色になる。その常人の時から変化した目で、レイドを睨む。お取込み中を邪魔されて、腹立たしいのだ。鍔迫り合いをする没落貴族の腹を蹴飛ばす。

『子爵に手を出すとは、どうなるのかわかっているのか? お前の家族ごと殺してやる。名乗れ』
「レイド・クレア!」

 名乗りと同時に大剣を振るう。名を聞いて納得した。レイド・クレアといえばクレアの狂犬だ。野蛮人とも呼ばれている。
 とはいえ、自分は上位の魔物だ。勇者一行など聞こえはいいが、ただの冒険者のレイドなど相手になるまい。ベリアスを壊したくないので、魔術は使いづらいが、体術だけでもなんとかなるだろう。
 プリディケイトは被膜を利用して大剣を掴み取り、レイドを蹴飛ばした。レイドは部屋から飛び出し、廊下の壁にぶつかった。

 プリディケイトは大剣を放り投げ、レイドを仕留めにかかる。レイドの顔面を掴み取り、力を籠める。頬骨がピシリといったことが、指から伝わる。口角を上げると、おもちゃを手にした子供のように、レイドを床や壁に叩きつけた。

 10、20も叩きつけると、プリディケイトは満足し、レイドの体を掲げた。

 道の奥から誰かが来た。ナイトとフィリスとあとは知らない連中だ。きっとレイドの冒険者仲間なのだろう。仲間の目の前でレイドの頭を潰してやる。
 そう思った時、ガシリと頭を掴まれた。

『え?』

 バキブチと、頬が砕かれた。

『ギュゥウウウウウウ!?』

 激痛に目を白黒させて、レイドの手首を掴む。片手では解放されない。レイドの顔を掴んでいた手まで使う。それでも解放されない。
 砕けた骨が顔内を移動し、頬骨の形が変形していく。
 ブチュリと右目が飛び出した。神経や血管まで出ている。頬骨が砕けて、全身をくまなく痛めつけられているのに、どうしてこんな力が出せるのか。

「兄上』『兄貴』

 レイドはプリディケイドを振りかぶり、床に叩きつけた。叩きつけられた勢いのまま、床にめり込んでいき、プリディケイトの頭も砕けた。

 レイドの姿は、あの時のものよりも恐ろしく、ナイトとフィリスは震え上がった。返り血を浴びて、半分以上が赤く染まった体は、猟奇的な殺人鬼そのものだ。目がギンギンで近づき難い。

「レイド」
「レイドさん」

 家族の足取りがゆっくりになる中、仲間は速度を緩めるどころか、走り出した。本当に緩めることなくエンドローゼがタックルした。
 ドグンと腹に突っ込まれたが、レイドは一切動じない。血のついていない手でエンドローゼの後頭部を撫でた。

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