メグルユメ

トラフィックライトレイディ

3.ディーノイの伝説

 アストロが訝しみながらファルシオンを手に取る。柄の部分に羊皮紙が巻き付けられていた。
 カサカサと紙を広げると、急いで書いたのか、読める程度に乱れている字が書かれていた。

 私の名前はディーノイ。敵じゃないよ。詳しくはそこのエンドローゼに聞いてくれ。

 アストロはくしゃくしゃと羊皮紙を握りつぶして、エンドローゼを見る。エンドローゼはなぜ見られているのか分からず、曖昧な笑顔で返した。

 アストロはズンズンとエンドローゼに近づく。エンドローゼの曖昧な笑顔が引きつり始める。

「な、な、何でしょうか?」
「ディーノイって”月の使者”の隊長よね。私ってそれ以上知らないのよね」
「でぃ、ディーノイ様ですか?」

 ディーノイの名を知らないアレン達はキョトンとしている。コストイラは後頭部をガリガリと掻いた。

「ディーノイっていえば母さんに、キレさせたら切り刻まれるよって言われた記憶があるな」
「えっ、アンタもディーノイを知っているの? 」

 コストイラが答えたので、アストロが目を丸くする。

 岩の陰でディーノイが頭を抱えた。フラメテの奴、いったい何を吹き込んだんだ。私は彼女の前でキレたことなんてないぞ。というか最後にキレたのは480年前の魔王ボールとの抗争の時だ。バラしたのはフォンか? あいつめ。

「で、ディ、ディーノイ様は、フォン様が神様に成られる前からの、お、お、おー、幼馴染です。ふ、フォン様と同じくらい強いというお、お話です」

「あれと同じくらい」

「あ、あ、あれって何ですかっ!?」

 自分の信仰する神様をあれ呼ばわりされて、頬を膨らませて猛抗議した。それを受けたアストロは可愛いという感想しか持っていない。

「ディーノイ様は、ふ、フォン様がかー、神様に成られるときもい、一緒にいたようです。と、とってもお強くて、10年戦争の時も、つ、つ、常に最前線に立ち続けたようですよ」
「10年戦争といえば、魔王グレイソレアとフォンの戦争よね。結局あれってどう終わったのかしら」
「さ、さぁ。私もそ、そ、それは知りません」

 アストロは肩を竦めると、そのまま歩き出した。流石にずっと停滞しているわけにはいかない。

 ディーノイは10年戦争のことを話に出され、少し思い出す。
 当時を共に戦った仲間はすでにもう死んでいる。戦争で亡くなった者もいれば、戦争で受けた傷で亡くなった者もいる。両者の兵が減ってきたところに、第3者が止めに入ったのだ。
 それが原因で10年戦争が終わった。
 もう少し思い出に浸っていたいが、勇者一行が動き出してしまった。ディーノイは自身の剣の柄に触れながら後を追う。

 月特有の大きいのに軽くて穴だらけの岩に苦戦しながら、上り下りしている。ディーノイはそれを見ながら、平坦な道でも歩いているかのようにするする進む。
 ディーノイは勇者一行の進む先を眺める。高さ2m弱の普通の扉だ。しかし、その後ろは明らかに下に下がっている。

 大丈夫だろうか。警戒せずに入っていけるだろうか。

 ディーノイが観察する中、アレン達が扉に辿り着いた。
 体力のないアレンは膝に手をついて、肩で息をしている。コストイラがドアを少し調べ、周りも調べ始めた。流石にいきなり中に入らないか。

 全員がドアの前から消えたタイミングで、ドアの中に入る。

『さて、奴等が倒せる敵を選定してやるか』

 ディーノイは剣を抜いて、目の前の敵を殺していった。

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