メグルユメ
9.地獄温泉街食道楽A
街に入るのに、一切の障害がなかった。ただ職業と名前、入街理由を話しただけで入れてもらえた。それでいいのか警備。
街に入った途端、馥郁たる匂いが鼻腔を擽った。鼻から脳に抜け、腹を大いに刺激してくる。何の料理か分からないが、とてもいい匂いだ。
「どっかで宿決めて、速攻で食事だな」
目がギラギラしていて怖い。コストイラ程狂っていないが、アレン達も食事がしたい。アレンはまず宿取りに全力を注いだ。
宿をあっさり取ることに成功した一行は、エントランスで別れた。
アレンは一番最初に目に入った店に入る。『食事処ヨウム』と看板に書いてあるので、食事ができるはずだ。店内はカウンター式になっている。店主はキモノを着ている。不愛想に顎で席を指す。座れということだろう。態度は悪いが、こういう店の料理が美味かったりするのだ。
アレンはメニュー表(お品書きと書いてある)を手に取り、ざっと中を見る。八割以上が分からない料理だ。この地独特の郷土料理か。
刺身。拷問の名前か? 身を刺すなんて恐ろしすぎる。
親子丼。何の親子だ? 海鮮丼は海産物だ。牛丼は牛の肉だ。では、親子丼に入っているのは、親子? だから何のだよ?
もってのほかのお浸し。以ての外は思いもよらないほど、けしからんことを言い表す言葉だ。そのお浸しってどんな料理だ?
「お客さん。何にしやす?」
悩んでいると、店主に話しかけられてしまった。アレンは驚いて咄嗟に目にしていた料理名を言ってしまった。
ドキドキしながら待っていると、一分ほどで出てきた。小鉢からふわりと出汁の匂いがして美味しそうだ。中を覗くと、淡紫色で鮮やかな料理が入っていた。言葉にしづらい独特な匂いがしているが、出汁や調味料の匂いで気にならない。
東方独自の文化の象徴である箸が出されたが、アレンは箸を使えないので、フォークで食べ始める。花っぽいので苦いのかと思ったが、そこまで苦味がない。シャキシャキとした歯ごたえが癖になりそうだ。
コストイラは一人でバーに入った。大人な雰囲気が漂う空間が売りの、黒を基調とした店だ。コストイラの格好に全く合っていない。
綺麗にしたとはいえ冒険者の格好そのままなので、周囲の客から白い目で見られる。コストイラは一切気にせずにカウンター席に座った。
「アラウンド・ザ・ニューワールドを」
バーテンダーは注文に対して、何も言わずに会釈して、カクテルを作り始める。ここは荒々しい冒険者向けの酒場ではない。わざわざ話しかける奴など稀だ。コストイラも誰かと話すつまりはない。
コストイラは酒場で騒ぐのも好きだが、静かなバーで飲むのも好きだ。特に気分が沈んでいる時にはぴったりだ。
バーテンダーがコストイラの前にカクテルを出す。コストイラはキラキラと輝く緑の酒を手にして、いざ飲もうとする。
「貴様は冒険者か?」
話しかけられた。面倒そうな視線を向けると、妖艶な女がいた。薄紫色の髪を流し、アメジストの眼をこちらに向けてきている。かなり豊満な胸をしていて、男の欲情を掻き立ててくるが、生憎コストイラの好みではない。
「買わねェぞ」
「ホ?」
女が丸くする。予想していた答えではなかったのだろう。女はすぐに目元を曲げ、くつくつと口元に手を当てながら、上品に笑った。
「ヴェーは売女ではない。ヴェーは単に貴様が冒険者かどうかを聞いたのだ」
目が本気だ。面倒なので適当に扱っていこう。
「そうだ。冒険者だとも」
「フム。バーマン、新しいカクテルを貰おう」
「……再びジンライムですか?」
「いや、バイオレットフィズにしよう」
女が新しいカクテルを注文する。注文を待つ間に、再び会話が始まる。
「なぜ冒険をしているのだ? 自分の育った街に留まろうと思わなかったのか?」
「好きなんだよ、新しいことを知るのが」
「ヴェーにも覚えがあるぞ」
女が腕を伸ばし、カクテルグラスを受け取り、早速紫の酒をコストイラに渡した。
「飲むと良い。ヴェーの奢りだ」
コストイラは紫の酒と緑の酒を見比べる。鼻を鳴らして緑のカクテルを呷り、紫の酒を受け取る。
「バーテンダー、モッキンバードを彼女に」
「ホウ」
バーテンダーが静かにモッキンバードを作り始めた。
「この地は”異世界人”ゴートが治めていたらしい。じゃから見た事も味わった事もない料理を口にできる」
「ホウ、ゴートが」
互いに交換した酒を一口含む。
「ウム。勇者に選ばれた者共は、誰も例に漏れずに数奇な人生を歩む。貴様はどう思う?」
「ハッ。どうせ、勇者なんて大層なもんを背負わされて、他の人ができない何かもしなきゃ、なんて思ったんだろ」
「ホウ、貴重な意見じゃな」
女が席から立ち上がり、ドレスのスカート部分を押さえる。
「ここの会計はヴェーが払ってやろう。ヴェーは気分が良い。それに魔法で金を相当量得ているのでな」
「あ、おい」
コストイラが止めるのを聞かず、女がバーを去った。コストイラはガリガリと頭を掻き、バイオレットフィズを飲み干す。そして、コストイラも2人の分を支払った。
「余分は資金にでもしておけ」
金髪碧眼の者が宿の中で伸びをした。歳は10,11程度に見え、男の子にも女の子にも見える。声変わりの迎えていない呻き声が漏れる。この場にはその者以外に3人いた。
一人は2m越えの長躯を窮屈そうに曲げ、丸くなって眠っている。
一人は部屋の中でもローブに身を包んでいる状態で、壁に凭れかかっている。
一人は3mの身長を丸めて机に向かい、これから向かおうとしている場所を調べている。
「オイィィ。ヴェーが帰ったぞー」
ほろ酔いのレイヴェニアは、豊満な体を惜しげもなくサーシャに密着させる。酒の臭いが鼻を刺激してくるので、精一杯力を込めて押し返す。
しかし、サーシャの力はレイヴェニアに及ばず、抱き着かれたままだ。
「で、決まったのかえ?」
『うん。僕達はこのまま真っ直ぐ次元の狭間に向かおうと思うよ。正規の行き方じゃないから時間がかかるかもしれないけど、いいかな?』
「佳が良ければ、ヴェーは良いぞ」
街に入った途端、馥郁たる匂いが鼻腔を擽った。鼻から脳に抜け、腹を大いに刺激してくる。何の料理か分からないが、とてもいい匂いだ。
「どっかで宿決めて、速攻で食事だな」
目がギラギラしていて怖い。コストイラ程狂っていないが、アレン達も食事がしたい。アレンはまず宿取りに全力を注いだ。
宿をあっさり取ることに成功した一行は、エントランスで別れた。
アレンは一番最初に目に入った店に入る。『食事処ヨウム』と看板に書いてあるので、食事ができるはずだ。店内はカウンター式になっている。店主はキモノを着ている。不愛想に顎で席を指す。座れということだろう。態度は悪いが、こういう店の料理が美味かったりするのだ。
アレンはメニュー表(お品書きと書いてある)を手に取り、ざっと中を見る。八割以上が分からない料理だ。この地独特の郷土料理か。
刺身。拷問の名前か? 身を刺すなんて恐ろしすぎる。
親子丼。何の親子だ? 海鮮丼は海産物だ。牛丼は牛の肉だ。では、親子丼に入っているのは、親子? だから何のだよ?
もってのほかのお浸し。以ての外は思いもよらないほど、けしからんことを言い表す言葉だ。そのお浸しってどんな料理だ?
「お客さん。何にしやす?」
悩んでいると、店主に話しかけられてしまった。アレンは驚いて咄嗟に目にしていた料理名を言ってしまった。
ドキドキしながら待っていると、一分ほどで出てきた。小鉢からふわりと出汁の匂いがして美味しそうだ。中を覗くと、淡紫色で鮮やかな料理が入っていた。言葉にしづらい独特な匂いがしているが、出汁や調味料の匂いで気にならない。
東方独自の文化の象徴である箸が出されたが、アレンは箸を使えないので、フォークで食べ始める。花っぽいので苦いのかと思ったが、そこまで苦味がない。シャキシャキとした歯ごたえが癖になりそうだ。
コストイラは一人でバーに入った。大人な雰囲気が漂う空間が売りの、黒を基調とした店だ。コストイラの格好に全く合っていない。
綺麗にしたとはいえ冒険者の格好そのままなので、周囲の客から白い目で見られる。コストイラは一切気にせずにカウンター席に座った。
「アラウンド・ザ・ニューワールドを」
バーテンダーは注文に対して、何も言わずに会釈して、カクテルを作り始める。ここは荒々しい冒険者向けの酒場ではない。わざわざ話しかける奴など稀だ。コストイラも誰かと話すつまりはない。
コストイラは酒場で騒ぐのも好きだが、静かなバーで飲むのも好きだ。特に気分が沈んでいる時にはぴったりだ。
バーテンダーがコストイラの前にカクテルを出す。コストイラはキラキラと輝く緑の酒を手にして、いざ飲もうとする。
「貴様は冒険者か?」
話しかけられた。面倒そうな視線を向けると、妖艶な女がいた。薄紫色の髪を流し、アメジストの眼をこちらに向けてきている。かなり豊満な胸をしていて、男の欲情を掻き立ててくるが、生憎コストイラの好みではない。
「買わねェぞ」
「ホ?」
女が丸くする。予想していた答えではなかったのだろう。女はすぐに目元を曲げ、くつくつと口元に手を当てながら、上品に笑った。
「ヴェーは売女ではない。ヴェーは単に貴様が冒険者かどうかを聞いたのだ」
目が本気だ。面倒なので適当に扱っていこう。
「そうだ。冒険者だとも」
「フム。バーマン、新しいカクテルを貰おう」
「……再びジンライムですか?」
「いや、バイオレットフィズにしよう」
女が新しいカクテルを注文する。注文を待つ間に、再び会話が始まる。
「なぜ冒険をしているのだ? 自分の育った街に留まろうと思わなかったのか?」
「好きなんだよ、新しいことを知るのが」
「ヴェーにも覚えがあるぞ」
女が腕を伸ばし、カクテルグラスを受け取り、早速紫の酒をコストイラに渡した。
「飲むと良い。ヴェーの奢りだ」
コストイラは紫の酒と緑の酒を見比べる。鼻を鳴らして緑のカクテルを呷り、紫の酒を受け取る。
「バーテンダー、モッキンバードを彼女に」
「ホウ」
バーテンダーが静かにモッキンバードを作り始めた。
「この地は”異世界人”ゴートが治めていたらしい。じゃから見た事も味わった事もない料理を口にできる」
「ホウ、ゴートが」
互いに交換した酒を一口含む。
「ウム。勇者に選ばれた者共は、誰も例に漏れずに数奇な人生を歩む。貴様はどう思う?」
「ハッ。どうせ、勇者なんて大層なもんを背負わされて、他の人ができない何かもしなきゃ、なんて思ったんだろ」
「ホウ、貴重な意見じゃな」
女が席から立ち上がり、ドレスのスカート部分を押さえる。
「ここの会計はヴェーが払ってやろう。ヴェーは気分が良い。それに魔法で金を相当量得ているのでな」
「あ、おい」
コストイラが止めるのを聞かず、女がバーを去った。コストイラはガリガリと頭を掻き、バイオレットフィズを飲み干す。そして、コストイラも2人の分を支払った。
「余分は資金にでもしておけ」
金髪碧眼の者が宿の中で伸びをした。歳は10,11程度に見え、男の子にも女の子にも見える。声変わりの迎えていない呻き声が漏れる。この場にはその者以外に3人いた。
一人は2m越えの長躯を窮屈そうに曲げ、丸くなって眠っている。
一人は部屋の中でもローブに身を包んでいる状態で、壁に凭れかかっている。
一人は3mの身長を丸めて机に向かい、これから向かおうとしている場所を調べている。
「オイィィ。ヴェーが帰ったぞー」
ほろ酔いのレイヴェニアは、豊満な体を惜しげもなくサーシャに密着させる。酒の臭いが鼻を刺激してくるので、精一杯力を込めて押し返す。
しかし、サーシャの力はレイヴェニアに及ばず、抱き着かれたままだ。
「で、決まったのかえ?」
『うん。僕達はこのまま真っ直ぐ次元の狭間に向かおうと思うよ。正規の行き方じゃないから時間がかかるかもしれないけど、いいかな?』
「佳が良ければ、ヴェーは良いぞ」
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