メグルユメ
12.ヨロヅセナノ
サーウィン・フェイドースは帝国歴2090年の夏季に産まれた。そのためサーウィン・フェイドースは夏季が好きで、海が好きだ。
フォンは帝国歴2089年の冬季に生まれた。そのためフォンは冬季が好きで永い夜が好きだ。
2人は同い年であり、かつ同じ村の出身として仲が良かった。
しかし、ある時、その2人の仲を引き裂く出来事が起きた。フォンが生まれる100年前に誕生した神選民グレイソレアも驚くほどの神力を有した存在が確認されたのだ。
それがフォンだった。神選民であるフォンとはその時から会えなくなった。どれだけ泣いて頼んでも、こっそりと会いに行っても会わせてもらえない。
会えない後悔を残したまま、サーウィン・フェイドースは20歳の時、海で死んだ。気分が落ち込んでいた時はいつも海に行った。その日は暑くて海に裸足で浸かっていった。気分が浮かないサーウィン・フェイドースは海にザブザブと入っていき、遂には仰向けで浮かんでいた。
この時にはもう命を諦めていた。風の噂でフォンは戦争で亡くなったと聞いた。
「フォン。もう一度逢いたいわ」
そう呟いた時、大きな波がサーウィン・フェイドースを襲った。サーウィン・フェイドースは抵抗することなく波を浴び、海に沈んでいった。
死体がどうして肉や皮を残したままなのかは明らかになっていない。少なくとも400年はそのままになっていた。
ペタペタと歩く様は幽鬼のようで、どこか恐怖を感じてしまう。しかし、その眼は真っ直ぐ、誰かを見ている。その視線から守るようにレイドがエンドローゼの前に出る。サーウィン・フェイドースはピタリと止まり、髪を上げていた手を離し、だらんと垂らした。
『フォンじゃない』
「あ?」
『そこにいるのはフォンじゃない?』
「何言ってんだ?」
濡れ女の言っていることが分からず、コストイラが聞き返す。コストイラの発達した視覚は、女をきちんと見つめた。女の眼球に色素がほぼ見えない。弱視、もしくは盲目だ。エンドローゼのことが見えていない。だからこそフォンと間違えているのか?
「わ、わ、私はエンドローゼです。ふ、フォ、フォン様ではありません」
『でも、貴女からフォンが感じる。何で?』
ぼんやりとしか見えていない目からツーと涙が流れた。エンドローゼがギョッとしてオロオロしだす。
「トッテム教って知っているかしら?」
『知らない』
「トッテム教は神フォンを主神とおく宗教よ。エンドローゼは敬虔なる信徒。それだけよ。まぁ、加護とかたんまりありそうだけど」
「ふぇ?」
『フォンが神様になったの?』
「えぇ、まぁ、そういうことね」
『そっか』
濡れ女は力が抜けたように膝を地面につけた。長い髪の中に手を突っ込むと、花の髪飾りを取り出し、両手で包み込んだ。
『あぁ、フォン。もう一度逢いたいわ』
神事をする信者のように祈りを捧げる。
『エンドローゼにこれをあげる』
ペタペタと近づいた濡れ女がゆっくりとエンドローゼに腕を伸ばす。エンドローゼは目を瞑って受け入れる。
『大事にしておくれ。願わくばこれを、フォンに見せてあげて』
サーウィン・フェイドースはエンドローゼの両頬を両手で挟み、顔を近づける。
『あぁ、綺麗な眼』
『あ~~、全く。何で私が行かなきゃいけないんだよぉ』
『しょうがないでしょ。新しい国営施設の開業記念なんだ。王が出席すべきだろう』
月の姫であるフォンが執務室に戻ってきた。疲れたアピールする様に首に手を当てて曲げている。ディーノイのお小言はいつも通り過ぎて誰も気にしない。
フォンは家に帰ってきた瞬間にテレビをつける主婦が如き動きで、遠視の鏡を起動させた。
『お、お? いつの間にエンドローゼちゃんが髪飾りつけている。これって前にサーウィンにあげたやつなんだけど』
『サーウィン? あぁ、あの夏季になると毎日のように海に誘ってきていたアイツか』
『そう、そのサーウィン』
フォンとディーノイは外套を脱ぎながら遠視用の鏡を見つめる。
『ていうか、何でエンドローゼちゃんは雪国にいるわけ? あれ? 私達が出かける前はテスロメルのお家にいた気がするんだけど、え? 気のせい?』
フォンは帝国歴2089年の冬季に生まれた。そのためフォンは冬季が好きで永い夜が好きだ。
2人は同い年であり、かつ同じ村の出身として仲が良かった。
しかし、ある時、その2人の仲を引き裂く出来事が起きた。フォンが生まれる100年前に誕生した神選民グレイソレアも驚くほどの神力を有した存在が確認されたのだ。
それがフォンだった。神選民であるフォンとはその時から会えなくなった。どれだけ泣いて頼んでも、こっそりと会いに行っても会わせてもらえない。
会えない後悔を残したまま、サーウィン・フェイドースは20歳の時、海で死んだ。気分が落ち込んでいた時はいつも海に行った。その日は暑くて海に裸足で浸かっていった。気分が浮かないサーウィン・フェイドースは海にザブザブと入っていき、遂には仰向けで浮かんでいた。
この時にはもう命を諦めていた。風の噂でフォンは戦争で亡くなったと聞いた。
「フォン。もう一度逢いたいわ」
そう呟いた時、大きな波がサーウィン・フェイドースを襲った。サーウィン・フェイドースは抵抗することなく波を浴び、海に沈んでいった。
死体がどうして肉や皮を残したままなのかは明らかになっていない。少なくとも400年はそのままになっていた。
ペタペタと歩く様は幽鬼のようで、どこか恐怖を感じてしまう。しかし、その眼は真っ直ぐ、誰かを見ている。その視線から守るようにレイドがエンドローゼの前に出る。サーウィン・フェイドースはピタリと止まり、髪を上げていた手を離し、だらんと垂らした。
『フォンじゃない』
「あ?」
『そこにいるのはフォンじゃない?』
「何言ってんだ?」
濡れ女の言っていることが分からず、コストイラが聞き返す。コストイラの発達した視覚は、女をきちんと見つめた。女の眼球に色素がほぼ見えない。弱視、もしくは盲目だ。エンドローゼのことが見えていない。だからこそフォンと間違えているのか?
「わ、わ、私はエンドローゼです。ふ、フォ、フォン様ではありません」
『でも、貴女からフォンが感じる。何で?』
ぼんやりとしか見えていない目からツーと涙が流れた。エンドローゼがギョッとしてオロオロしだす。
「トッテム教って知っているかしら?」
『知らない』
「トッテム教は神フォンを主神とおく宗教よ。エンドローゼは敬虔なる信徒。それだけよ。まぁ、加護とかたんまりありそうだけど」
「ふぇ?」
『フォンが神様になったの?』
「えぇ、まぁ、そういうことね」
『そっか』
濡れ女は力が抜けたように膝を地面につけた。長い髪の中に手を突っ込むと、花の髪飾りを取り出し、両手で包み込んだ。
『あぁ、フォン。もう一度逢いたいわ』
神事をする信者のように祈りを捧げる。
『エンドローゼにこれをあげる』
ペタペタと近づいた濡れ女がゆっくりとエンドローゼに腕を伸ばす。エンドローゼは目を瞑って受け入れる。
『大事にしておくれ。願わくばこれを、フォンに見せてあげて』
サーウィン・フェイドースはエンドローゼの両頬を両手で挟み、顔を近づける。
『あぁ、綺麗な眼』
『あ~~、全く。何で私が行かなきゃいけないんだよぉ』
『しょうがないでしょ。新しい国営施設の開業記念なんだ。王が出席すべきだろう』
月の姫であるフォンが執務室に戻ってきた。疲れたアピールする様に首に手を当てて曲げている。ディーノイのお小言はいつも通り過ぎて誰も気にしない。
フォンは家に帰ってきた瞬間にテレビをつける主婦が如き動きで、遠視の鏡を起動させた。
『お、お? いつの間にエンドローゼちゃんが髪飾りつけている。これって前にサーウィンにあげたやつなんだけど』
『サーウィン? あぁ、あの夏季になると毎日のように海に誘ってきていたアイツか』
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