メグルユメ

トラフィックライトレイディ

19.誇り高き勇者

 アストロ達女子組はアレン達がサウナしている間、家の裏で濡れた体を拭いていた。

「服デッカ。あのジョンとかいう剣士の奴じゃん」

 アストロがジョンから渡された服を抓み上げ、眉根を寄せた。

「な、な、何かこの2つのサー、サイズしかないみたいですよ」

 エンドローゼが自分にちょっと大きめな服をもぞもぞと着ている。

「ぴったり」

 シキは自分で服を着た姿を見下ろす。アストロとエンドローゼを見ると、確かにピッタリだ。

「シキって身長いくつだっけ?」
「152㎝」
「じゃあ、住人の一人はそれぐらいの身長で、もう一人はジョンで2m越えと」

 アストロが太腿まで隠す大きなシャツを指でつまみ、パタパタと振る。エンドローゼも太腿まで隠れている。2人は完全に下着まで隠れており、むしろ上の方が危なそうだ。アストロは大きな送球がシャツを止めているが、エンドローゼは起伏がほぼないのでストンと落ちてしまうので、胸が見えてしまうそうだ。必死に胸の部分を集めて握り締めている。シキはシャツがピッタリよりもやや小さいくらいなので、パンツが見えてしまっている。

「これ腰に捲けば?」

 アストロが渡したのは、使っていない布だ。シキはそれをパレオのように捲いて結んだ。

「ジョン? ここか?」

 裏口の戸が開いた。アストロ達はすでに着替えが終わっているので、それを静かに見守っていた。エンドローゼも服を絞って調整している。
 しわがれた声の主は戸を半分ほど開け、こちらを見た。薄着な若い娘達を見て、目を丸くした。

「おぉ、済まない。着替えを覗いてしまうとは紳士にあるまじき失態だ」
「ちょっと待って」

 車椅子に乗った老人が枯れ木のような手で扉を閉めようとして、アストロが止めた。

「ん?」
「着替えなら終わっているわ。私達は勇者一行として旅をしているの」
「そこの私の服がピッタリなお嬢さんが勇者だね」

 エンドローゼが小首を傾げ、アストロが眉根を寄せ、シキが腰元に手を伸ばす。

「おいおい。私には敵対する意思はないよ。そのナイフをしまっておくれ。肝が冷えて、ただでさえ近いトイレがさらに近くなってしまう」

 老人は面白そうに笑いながら手をヒラヒラ振る。

「何でわかったの?」
「ん?」
「何でこの子が勇者だと?」

 アストロの問いにしばし目を瞑ったまま不動となる。

「私が元勇者だからかもしれない」
「勇者」

 アストロが老人を睨み、深く考える。ひとつ前のグリードはもう会った。その前のテスロメルは現在は50前後、その前のロマンスは70前後、その前のオイボースは90前後くらいだったはずだ。それよりも前はすでに齢100を超えてしまう。もう生きてはいないだろう。
 オイボースは女勇者だ。目の前にいる爺さんにはならないだろう。ロマンスは2m越えの巨漢だと言われている。学舎の資料が間違いでなければ、だが。

 そういえば、とアストロは思い出した。テスロメルは脚のない勇者で有名だムラセンが言っていた気がする。

「答えは出たかな? さぁ、私は誰でしょう」

 心を見ているのかと思うほどのタイミングで老人は楽しそうに問題を出した。

「…………テスロメル」
「正解だ。ところでジョンを知らないか? 私は奴を探していたのだが」
「わ、わ、私が案内しますね。お、お、お爺ちゃん」
「ハッハッハッ。お爺ちゃん。お爺ちゃんかぁ」

 50代という微妙な年齢でのお爺ちゃん呼びはかなり効いたようだ。今の時代、平均寿命は60代だと考えると、十分お爺ちゃんだろう。
 エンドローゼが進んで車椅子を押す。絶妙に押す力が上手い。慣れているのか?
 嬉しそうに車椅子を押すエンドローゼの前をアストロが歩く。シキはエンドローゼの後ろからついて行った。エンドローゼは鼻歌を歌いそうだ。

「何かあそこから熱が漏れてない?」
「あそこはリビングだな。暖炉に火でも入れているのか?」
「今日ってそんなに寒くないでしょ?あ、服を乾かしているのか」

 勝手に自己完結したアストロが扉のノブに手をかけた。ドアを開けた隙間から、むわりと生暖かい風が顔を叩く。

「うわっ!? 暑っ!!」

 覚悟していたことだが、それを超えてくるほどに暑い。中の男達は上裸で汗だく、口が半開き。何してんだ?

「少し室温を下げてくれ。老いぼれの体には少し堪える」

 テスロメルがしわがれた声で笑った。ジョンは申し訳なさそうな顔をして窓を開けた。

「ブカブカじゃね?」
「サイズが合う服がないのよ」

 大きなサイズの服一枚にあと下着だけなので、かなり無防備だ。コストイラの視線が泳ぐ。

「ここはしばらく暑いままだな。別の部屋に行こうか」

 テスロメルがエンドローゼに目線を送り、指で行く方向をさした。エンドローゼがそっと車椅子を押して廊下を移動し始めた。

「汗噴いてから来なさいよ」

 アストロにびしりと指を向けられ、男達が疲れたように肩を落として項垂れた。






 ジョンに新しい服を出してもらい、汗を拭き取ってから服を着る。水をコップ2杯飲み、アストロ達の元に向かう。

「つまり、これは苦渋の決断だったのだ。アイツがついてきてくれたことにはとても感謝している」
「す、す、素晴らしいです」

 テスロメルが何を話していたのか分からないが、エンドローゼが感動しているのか涙を流している。何の話か気になってくる。

「おっと来たね。これから私達はお話しと指導の2種行う。どっちかしか受けられないが、どっちを受けたい? 話ならここに残り、指導ならジョンに付いて行きたまえ」

 テスロメルは車椅子に肘をついて頬を乗っけている。ジョンは何も文句を言わずに部屋を出て行った。その後ろをコストイラとアシドとレイドがついていった。他の4人は残っている。

「てっきりアストロさんはあっちだと思っていました」
「多くの世界を見てきた人の意見を聞きたかったのよ。むしろそっちじゃない?」

 アストロはアレンの横にチョコンと座っているシキを指した。

「私アッチ?」
「別にいいのよ、どっちでも」
「ん」

 行けと命令されていないシキはその場に留まった。

「よし、では話をしよう」

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