メグルユメ

トラフィックライトレイディ

14.古代遺跡の謎を追え⁉

 落ちた穴の先には、柔らかい砂が坂を作っていた。そこに顔を突っ込んだかと思うと、坂に沿ってゴロゴロと転げていった。顔全体に砂が塗されて気持ち悪い。
 顔を何度も手で拭いながら、顔を振って立ち上がる。以前、ピラミッドに侵入した時を思い出す。あの時は魔物も落ちてきたが、今回は大丈夫なようだ。それなりに考える頭があるらしい。

「ぺっぺっ」

 必死に口の中の砂を吐き出すが、じゃりじゃりした感触が消えない。

「皆さん、大丈夫ですか?」
「大丈夫だ」
「こっちは平気よ」
「今回ははぐれねェし、埋まってもねェたァ優秀だな」
「あの時埋まったのはお前だろ」

 アレンの確認に、まずレイドが反応し、アストロは女子3人を纏めて返事する。コストイラが軽快に笑うと、アシドがツッコミを入れた。

「さて、あの時同様、この空間に出入り口は一つ。そして何かが来るのも一緒」

 コストイラが自信の腰に佩かれた刀に手をやる。シキももうすでにナイフを抜いていた。気付いていなかったアレンは咄嗟に魔眼を発動させる。
 出入り口の壁に手が置かれる。恋人の肩に置く手のような、ふわりと優しい手の置き方だ。

 しかし、手で掴んだ瞬間、ゴシャリと壁を握り潰した。マズイ。魔眼で見たせいで興奮状態に陥ったか?

「ミノタウロスか」

 鼻息を荒くしている相手に、コストイラが唇を舐める。

 まず動いたのはミノタウロス。

『ブモォオオオオオ!!』

 開戦を宣言するように大きく啼いた。エンドローゼは大声にビビってシキに抱き着いた。戦いに参加しようとしていたシキはグイーと頭を押すが、離れない。これ以上力を入れてはポキッと逝ってしまいそうなので、自然と離れるのを待つことにした。

 次に動いたのはアシドだった。最近できるようになった初速で最高速で、その上鉄さえ貫く突き。しかし、完成したばかりの組み合わせ技は、アシドの制御の範囲外にいる。

 腹に風穴を開けようとした槍の先端は僅かに逸れており、その差はどんどんと開いていく。最終的にアシドが辿り着いたのは、ミノタウロスの脇腹だった。ミノタウロスの脇腹が爆発した。胴回りの5分の1が消し飛び、中に納められていた贓物は空中へと弾け飛んだ。
 ミノタウロスは止まらない。持っていた血の固まった大剣を大きく振るった。普段であれば躱せたであろう一撃だが、今のアシドは技を放った後だ、すぐには躱せない。
 必死に槍を引き戻し、長い柄の先端で何とか防ぐ。しかし、そのまま止まることなく、圧倒的な膂力で持ち上げられ、天井に吹き飛ばされる。

 コストイラはレイドに合図を送り、ミノタウロスと相対する。コストイラから漏れ出る精錬された殺気に、ミノタウロスは一瞬にして敵と認識した。

 アシドにはだいぶ劣るが、ミノタウロスからしたら十分に速いスピードに肉薄し、刀を振るった。ミノタウロスの硬い腹筋が斬れる。内部が覗ける方の腹筋から斬ったからだろう。
 アシドの二の舞にならないよう、刀をすぐに胸元まで戻し、ミノタウロスの行動を観察する。ミノタウロスは大剣を振ろうと腕に力を込めていた。コストイラは余裕をもって回避しようとする。

『ブン!』

 しかし、力を込めていたのは腕だけではなかった。足に込められてた力は地面へと伝播し、コストイラの足元を爆ぜさせた。一切の傷がつくような攻撃ではない。しかし、僅かに足元が浮き、回避行動に移ることができなくなった。

 刀で何とかガードするが、アシドの二の舞となる。コストイラは人工的な壁を突き破り、その向こうに消えていった。
 レイドとエンドローゼはコストイラが対峙した時点でアシドの元に向かっている。アレンとアストロはコストイラの元へと向かおうとしている。アストロがシキの肩に手を置いた。

「頼んだわよ」

 それだけでシキには頑張る理由になった。






「イテテ」

 瓦礫から体を起こし、後頭部を擦る。まさか、あのタイミングで地面を隆起させるとは。あのミノタウロス闘い慣れていやがる。

 コストイラは楽しそうに唇を舐める。

 強くなりたければ、自分に嘘を吐き、体を動かせ。

 母に言われた言葉だ。こんなところで立ち止まっているわけにはいかない。体を動かせ。心を燃やせ。命を焼べろ。

「ぜってー美味しく頂いてやる」

 今晩の飯を筋肉質な牛肉にしてやろうと立ち上がり、ふと後ろを見た。
 そもそも触れてこなかったが、なぜここに人工的な史跡があるのだろうか。帝国歴何年の遺跡だろうか。歴前だとすれば歴史的大発見だ。

「これ、石像だよな」

 今、コストイラの目の前にはこの遺跡に取り残された石像があった。石というか、鉄というか。何というか、ボルトとかいう歴史的遺物が使われている。昔博物館で見た事がある。
 コストイラは嫌な予感がした。石像だろうが鉄像だろうが安心できないのを知っていた。動く像を知っているからだ。
 耐えきれず、口にしてしまう。

「ゴーレム?」

 その瞬間、ビカーと鉄像の眼の部分が光った。間違いない、これは動きだしている。

「コストイラ、アンタ」

 コストイラが作った穴から呆れた声が聞こえてきた。

「いや、これオレか?」

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