メグルユメ

トラフィックライトレイディ

13.ドラゴンパレード

 アシド達はかなり疲弊していた。この体はすでにこれ以上戦いたくないと悲鳴を上げていた。
 しかし、そんなもの黙らせる。こんなもの、魔王インサーニアの時の戦いを思えば何ともない。インサーニアと戦った時は、5体がぐちゃぐちゃになっていたではないか。

 己を鼓舞して、四肢を震わせ、再び戦場へと舞い戻る。






 音を立てずに水中から頭を出す。その様はまさに神業というにふさわしいだろう。安易に突っ込んだりしない。グレートドラゴンに気付かれてしまうからだ。

 滴る水を置き去りにして、砂も鳴らさず、走り出す。一歩止まった瞬間、ギュガと砂が爆発した。
 グレートドラゴンがコストイラを見やるが、コストイラが止まった瞬間の砂が波となり、ドラゴンの眼を襲う。
 目玉の痛みにより、顔を上空へと向けようとする。シキがその小さな体躯で踵落としを繰り出す。10倍もの差があり、体重であれば25倍以上はある。だというのにグレートドラゴンの頭が沈んだ。下顎すべてが砂の中だ。

 グレートドラゴンが砂に下顎を埋めたまま、迫ってくるアシドとレイドに頭を振る。アシドとレイドが吹っ飛ばされ、シキはナイフを刺して振り落とされないようにする。
 レイドの手から大剣が離れた。シキは今まで一度も使ったことのない糸を放ち、大剣を手元に引き寄せる。

 ナイフとは比べ物にならない刃渡りの大剣を手にして、一瞬、シキの体勢が崩れそうになる。しかし、これだけの大きさであれば、首裏からでも重要な血管を断つことができる。
 シキが大剣を引き絞る。グレートドラゴンはそのことに気付いていない。その細く小さな体のどこにそんな力があるのか疑いたくなるほど、容易く大剣を突き出した。

 ブチブチと肉の繊維が千切れていき、重要な血管を寸断した。こうなっては、いくら耐久力のあるグレートドラゴンといえど、耐えることは出来なかった。
 アストロ達が合流する。

「ふぃ~~。毎回こんなに戦闘があっちゃ、体がもたねぇぞ」

 コストイラがぐるぐると肩を回す。今回のコストイラの言い分に納得する。確かに毎度戦闘が終わるたびにボロボロになっている。どうにか安全に立ち回る術を身に付けなくてはなるまい。

「話しているところ悪いのだけれど、まだ終わっていないわよ」
「あ~、やっぱり?」

 コストイラは終わったような雰囲気を出していたが、結局駄目なようだ。見たくない現実に目を向ける。

 数十体のグランドプスに一体のティタノサウルス。これは無理だ。許容量を超えている。背伸びをしたら届くとか、頑張ればなんとかなるとかの次元を超えている。人間が羽生やして飛ぶとか、鰓つくって海で暮らせとか、魔法で何とかなる範囲ですらない。
 魔素を使わず魔力を作れとか、一切合切の行為をせずに子をつくれとか、そのレベルの話の不可能さだ。

「これはマジでヤベェ! 走れ! 逃げんぞ!」

 勇者一行は足場の悪い砂浜を全力で走る。死なないためにただひたすらに走った。

 先頭を走るのはエンドローゼだ。砂丘の中でもその逃げ足は健在で、誰よりも早く一目散に走った。誰よりもといっても、コストイラの号令を聞いて走り始めているので、別段責められることではない。むしろシキよりも反応速度が速かったのではないだろうか。

「まずい」

 アレンの横でシキが呟いた。一番後ろから走ったにもかかわらず、シキはアレンを追い抜いた。ステータスの格差はもう諦めかけているので、心の中は凪だが、まずいとは何に対しての言葉なのか気になる。

 ガクンとエンドローゼの頭が下がった。一瞬転んだのかと思った。しかし、直後に間違いだと気づいた。

 砂浜に穴が開き、そこに落ちたのだ。エンドローゼはフォンに護られている。しかし、それは助けない理由にならない。
 シキを先頭に、勇者一行はエンドローゼの後を追って穴に入っていった。

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