メグルユメ

トラフィックライトレイディ

9.死者が行き着く波止場

 コストイラの気分が絶望的なまでに沈んでいる。ドライアドの首を斬った際に、樹液というべきか体液と言うべきか分からない液体を全身に浴びたのだ。
 粘性がある程度あるため、ポタポタではなくボタボタと落ちていた。誰も近寄ろうとしない。

「体を洗いてェなァ」

 ボソリと呟くコストイラの眼が遠くを見ている。フォローの声をかけてやりたいが、何も言えない。
 コストイラを連れて水場を探す。森を抜けた時、水場が見えた。その水場の光景の中に築造物が見える。太陽の塔もそうだが、ここには人工的な物が多い。太陽の塔に石柱、シキの身長ほどある石板。そして、今目の前にある波止場。ここは人の手がかなり入っている。今もまだ、誰かいるのだろうか。いや、いたな。包帯の少女が。

「なんだ、これ」

 コストイラがテンション低めで呻く。アレン達も近づき、水場を覗く。えげつないくらい汚れている。何も見えない。透き通っていないどころか、ヘドロが凄い。これで汚れが落ちるとは思えない。むしろ病気になりそうだ。

「臭い凄すぎて、鼻曲がりそうだな。手を付ける気が起きねェ。この……何て言ったらいいんだ?」

 コストイラはこれを水場とは認識したくないようだ。アレンもしたくないのか、水場から離れた。

「これで顔を洗ったら病気確定だろ」
「し、し、しないでくださいね」
「しねェよ!? 自分から病気になるって何者だよ」

 未だにボタボタと粘液を垂らしている。

「しょうがないわね。器を用意しなさい。出力弱で水魔術を撃ってあげるわ。レイド、受け止めて。アシド、テクニカルポイントのために殴られて」
「よし、器はこれでいいな」
「え~、殴られんの? しょうがねェなァ」

 嫌そうな顔をしながらアシドがアストロに近づく。アストロは無表情でアシドの肩を2回殴った。そして、出力を極力弱めた水魔術をレイドの楯に向かって放つ。バシャバシャと威力の低い水鉄砲が楯に反射して器に収まっていく。

「ほら、コストイラ。これを使いなさい」
「おぉ、すまねェ」

 コストイラが綺麗な水を手で掬い、顔に当てる。

 ボゴリとヘドロが泡を吹いた。ヘドロは水ほどサラサラしていないので、すぐには泡が消えない。その泡を割るように魔物の頭が現れた。
 重いヘドロのせいですぐには何の魔物か分からない。ダボダボとヘドロが落ちていき、ようやく何の魔物かが明らかになる。

 ディープドラゴン。12m級の首長竜。ドラゴンの口からブレスではない水の光線が放たれた。水の中にコストイラが巻き込まれる。レイドが楯をぶつけ、コストイラに当たる水の量の供給をストップさせたが、コストイラは吹っ飛ばされた後だ。
 アストロが炎の魔術を速射砲のように放つが、ヘドロで疎らに覆われているディープドラゴンの肌は焼かれない。アレンが矢を放つと、ヘドロに塗れた首長竜のヘドロのない部分の肌を貫き、ダメージを与えた。






 ドゴォンと音を立てた後、建築物が揺れて、崩れていった。その光景を包帯だらけの女が目撃する。

「太陽の塔が」

 包帯の隙間から覗く目が、折れて崩壊していく瞬間を映している。塔の先端がゆっくりと重力に従い落ちていく。森の向こうに消えていく塔を追うように、女が走り出す。すぐに体は痛みだし、熱が高まるが、我慢をしながら走った。

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