メグルユメ

トラフィックライトレイディ

28.―理の試練―

 エンドローゼには恐いものがある。それは仲間を失うことである。逆に言えばそれ以外に恐いものがないのだ。

 よく悲鳴を上げたり、レイドやアストロにしがみついたりしているが、それは驚愕から来るもので恐怖から来るものではない。

 それゆえに一対一の戦いにおいて、臆することがない。

 闘技場の中心に立つ前にアストロがローブを剥がせた。いつも着ていたローブだったので、取り戻そうとするが、アストロが譲らない。

「アンタがローブに巻き込まれて倒れる未来しか見えないわ」

 取り戻そうとするエンドローゼが止まり、ぎこちない動きで闘技場に入っていく。

 観客席からは、エンドローゼの俯き具合が凄く、髪の毛が顔を隠しているようにしか見えない。皆覗き込もうとして、ガヤを飛ばす暇すらない。ビクビクしたままのエンドローゼに、野次は飛ばした方がいいのだろうか。
 敵であるマインドフレアも開始していいのか分からない。カードを回すことなく1枚を引き抜く。魔力の塊をエンドローゼに向け放つと、エンドローゼは一目散に逃げだした。魔力の塊を何発も放つが、エンドローゼはそれを上回る逃げ足で回避していく。

 全体攻撃をしたくてもテクニカルポイントがない。5mの巨体を前のめりにし、エンドローゼを掴もうとする。

「ピィッ!?」

 エンドローゼの進行方向が直角に曲がり、マインドフレアの股下を抜ける。

 逃げる。逃げる。逃げ続ける。戦っているからこそ逃げる。しかし、今ここには一人を除いて敵を倒してくれる者はいない。

 その一人はもちろんエンドローゼだ。逃げ続けるエンドローゼもいつかは向き合わなければならない。敵を討つという対応だけは、今だけは向き合わなければならない。

 エンドローゼがマインドフレアに両手を向ける。今までこの両手からは人を癒す光しか出されたことがない。
 手から月の光にも似た、星の光にも似た魔力が放たれた。その柔らかな光はゆっくりとマインドフレアに向かい、そしてぶつかった。

『あやつめ』

 どこかで声がしたような気がした。しわがれた声が大気に溶ける。声を出したのはどこの魔王なのか、誰の耳にも届かない。
 半径2㎝程の光の珠なのだから、とマインドフレアは甘んじて受け入れた。しかし、それがいけなかった。その魔力塊は大きさに合わない威力を有しており、5m、320㎏を超える体格をしている巨体が浮かび上がり、壁に激突した。

 そのままマインドフレアは気絶した。




「え、あ、しょ、勝者、エンドローゼ!」

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