メグルユメ

トラフィックライトレイディ

26.―闇の試練―

「見ていなかったんですか?」

 アレンが上の服を捲し上げ、青痣となっている箇所を消毒液で濡らしながら、口の端をヒクつかせている。

「私は見ていたぞ」

 レイドが名乗り出るが、結局は一人だ。

「僕が戦っている間、何をしていたんですか?」

 少し怒りながら聞くと、エンドローゼがあわあわとシキのことを見る。

「私の治療をしていた」
「オレ達はシキの方が大事だからな」

 アレンはすごい勢いで両手で顔を覆った。

「じゃあ、私は出番だから行くわね」
「悪かったって。ほら、お前も見に行こうぜ」

 アレンは唇を尖らせたまま、素直にアストロの試合を見に観客席に向かった。






 久し振りに見た敵だ。魔王城で見たのが最後だろうか。緑の甲冑に茶色の肌のミノタウロスのような見た目。
 ダークジェネラルは完全近接戦闘型だ。アストロにとっては一番やりづらい相手である。アストロはそれなりに身体能力があるのだが、近接戦闘に対してで言えば、中の上ほどだ。最近出会う相手の近接戦闘能力は上の中以上でしかないから光れない。

 下着が見えてしまうのを考慮して、長ズボンを履いているアストロがキックボクシングの構えのような態勢をとる。ダークジェネラルの武器を見る。

 丸太のように太い腕。ぶつけられた時点で背骨が粉々だろう。

 アストロの肩幅ほどある足。蹴られた途端、肉体が爆発四散してもおかしくない。

 斧の代わりなのだろう棍棒。殺傷禁止であるはずの闘技場だが、ダークジェネラルの筋力があれば簡単に人を殺せるだろう。

 アストロがじっと動かないことに苛立ちを覚えたダークジェネラルが、一気に距離を詰めてくる。アストロはその時を待っていて、魔力を器用に兜の眼の位置に当てる。目潰しをしながら逃げる。
 棍棒が空振り、地面を強く叩く。同心円状に床が砕け、沈んでいく。地面が波のようにたわみ、アストロの膝がガクンと落ちる。倒れはしなかったが、バランスが崩れてしまったので、すぐに追いつかれてしまう。

 振り下ろされる棍棒を横に飛んで躱す。アストロは転がりながら炎を間に挟む。

 ダークジェネラルは距離を失いながらも、棍棒を下から上に振り上げる。アストロは直撃を免れるが、風圧によりさらに飛ばされる。
 アストロは地面に尻を着けたまま、右の人差し指でダークジェネラルの顎を狙う。ダークジェネラルとて無抵抗で受けるほど馬鹿ではない。左右に頭を振りながら突進してくる。

「稚拙」

 アストロはダークジェネラルを睨みながら、魔力を発射する。高速に迫る魔力を避けることができず、頭が後ろに持っていかれる。

 ダークジェネラルの体はそれでも前に進み続けていたため、当然のように仰向けに倒れる。アストロは立ち上がり、臀部に付いた砂を叩きながら、ダークジェネラルを見つめる。ダークジェネラルはしばらくビクンビクンと動いていたが、ある程度ジタバタすると動かなくなった。

「ん?」

 アストロが不思議そうに見つめる中、アナウンスが入った。




「勝者、アストロ!」




 アストロは珍しく狼狽えながら、ドッキリを疑ったという。

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