メグルユメ

トラフィックライトレイディ

10.腐っても竜

 バサバサと音が聞こえる。この音は人から出ているものではない。そこで、この緊張感の意味をようやく理解した。

「ドラゴン」

 ポツリと呟いたシキが、手の中でナイフを弄んでいる。もう攻めた方がいいのか悩んでいるのだろう。僅かな光のおかげで、暗闇にも適応した視界は、目の前のブラックドラゴンを映していた。レッドドラゴンと同じ姿。同じ見た目で同じ大きさ。違うのは色ぐらいだろうか。

 暗闇に紛れるように彩られた黒色の鱗を持つ竜はガポと口を開けた。内部に魔力が集まり、渦巻いていく。それを瞬時に感じ取ったアストロが反射的に魔力を撃ち込むが、それよりも早くブラックドラゴンの魔力が発射される。

 魔力同士がぶつかり合い、爆音とともに爆発した。突風に顔を覆い目を細めた時、本能的に気付いた。ブラックドラゴンはアンホーリーテラーの叫び声を聞きつけた。つまり、今の爆発で集まる可能性が高まったということか。

 コストイラはバッと辺りを見渡す。いる、ブラックドラゴンが。しかもたくさん。ワイバーン等を除き、ドラゴンは群れることがない。だというのにたくさん。
 全部が襲い掛かってくると、数瞬身構えたが、ドラゴン達は向かってこない。ただ、そこにいて、見て、動かずに観察している。

 これは、あれだ。今戦っている個体への敬意だ。群れない種が故の配慮だ。

 相対しているブラックドラゴンが口角に魔力を溜める。先と同じ展開。しかし、爆発に身を隠していたシキが最速でドラゴンの首を刈る。鋭いナイフの一戦は見事に鱗の間に滑り込み、切り開いた。
 その瞬間、アレンは勝ったと思った。しかし、その確信を裏切るドラゴンの尾がシキの体を叩いた。首が半ばまで斬られ、ブラブラと安定せず、傷からはオレンジと黒の混じった煙が噴出されている。

 これがオルトロスだったなら、ここで倒れていただろう。しかし、彼はドラゴンだった。そこで耐えたのだ。
 ギョロギョロと余裕のないオレンジの瞳がその場にいる者達を映す。痙攣を繰り返す眼球から、理性の光が消えていく。不規則に痙攣している眼球を気にも留めずに、天井を向き雄叫びを上げる。その威圧感に縛られたのはアレンとエンドローゼくらいなものだ。

 雄叫びが突然途切れた。勇者達がが何かしたわけではない。真横からブレスが飛んできたのだ。ブレスの発射元を見る。

 そこには、口から昇る白い煙にオレンジの瞳がぼやける竜がいた。闇に同化するような暗い紫色の竜は、ドロドロとした何かを被っていた。それが何かは分からないし、更に今被ったのか元からなのかも分からない。
 このドラゴンは四足歩行だ。なのに、闇に浮かぶオレンジの位置が高い。5mはありそうだ。ということは体長は10m以上はあるだろう。

『ゴォアアアアアアアッッ!!』

 カオスドラゴンは開戦の宣言をした。

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