メグルユメ
5.研究の末
金仮面ことカブツガムは一度熱中すると周りが見えなくなるタイプだ。
雲に興味を持てば食事を忘れて親に怒られ、魔力が気になっては睡眠を忘れて失神した。
親のことも目に入らず、研究に没頭する姿は、何人も諦めさせた。庇う者がいなくなってもカブツガムは研究し続けた。
雲を観察し、オレンジに色めく空を見て、なぜオレンジになるのかを考え始めた。オレンジを追い求めていくうちに、魔力に辿り着いた。
魔力はオレンジだ。火や水に色を変えようと、色を抜けばオレンジ色になる。どれだけ手を尽くそうとも必ずオレンジだ。それが不思議だった。原因を探して、探して探し求めれば、カブツガムは魔石に辿り着いた。
白色の魔石だ。オレンジの魔石に魔力を込めれば、その魔力になる魔石が白だ。何の魔力が込められているのか気になり、不用心にも触れてしまった。
その瞬間、大爆発が起きた。触れた右手が弾け飛び、服が裂け、岩に顔をぶつけて歪ませた。じくじくと痛みが熱に代わる。痛みに叫び転げまわりたいのに、体は動いてくれない。
この時、カブツガムは死んだ。
はずだった。
超常的速度で手が伸ばされ、コストイラは咄嗟に跳んで躱す。そのまま抜いたままの刀を振り下ろすと、金仮面の手を覆うグローブの甲に付けられた鉱石に当たる。
その瞬間、爆発的なエネルギーが生み出され、コストイラは彼方へぶっ飛ばされ、金仮面の巨体でさえ飛ばされ、脊柱の一本に激突する。石柱に凭れる姿勢のまま、マントの下の方がモゴリと盛り上がり、すぐに納まる。
アシドとシキが追い打ちをかけようとすると、金仮面がパァンと手を合わせた。その瞬間、水色のオーラが両手を包み込み、金仮面が空に跳び上がる。空に飛んだことでマントがはためき、内部が明らかになる。
黒い蛹のような見た目をしていて、下半身が存在しておらず、オレンジの泡のようなものがボコボコ鳴っている。内側から膨らんでは萎むを繰り返している。膨らんだ瞬間にマントに盛り上がり、元に戻る。
アシドの槍は空振り、金仮面が凭れていた石柱を砕く。シキは砕けた石柱を足場に宙を舞う。そして、近くなった的に対して、跳ぶ前に拾っていた石を3個投げる。3個はそれぞれ膨らんだオレンジ色の泡にぶつかり、泡が破裂する。
カブツガムは超人的な速度でシキを掴み取ろうとする。シキはナイフを抜き、手袋に包まれた肉に突き立てる。少し緩まった瞬間にオレンジと黒の混じった煙が噴き出し、カブツガムが掴むよりも早く脱出する。
シキとしては指の力を弱めさせて力づくで脱出するプランを考えていた。そのため、想定の範囲外だったが、良しとしよう。
金仮面がふわりと下りてくると、その位置に合わせてアストロが魔術を撃ち込む。魔術が当たり、金仮面が再び石柱に背をぶつける。その衝撃で仮面がズレた。
それにより、抑え込まれていた死臭やグズグズになった肉が露出する。
『仮面が……』
ゆっくりと仮面に手を伸ばすと、炎を纏い神速でもって近づいてきたコストイラに腕を切られる。体から離れた腕はオレンジと黒の混じった煙にかわり、目くらましになる。
残った方の手でコストイラを叩き飛ばす。3つの石柱を破壊した後、ようやく止まる。叩いた姿勢のままの状態のカブツガムを真正面から槍で貫く。槍は右手首と共に右胸を貫いた。それはまるで磔にされた昆虫のようだ。
カランと仮面が完全に落ちる。肉がグズグズになり、鼻の横にまで垂れた眼で、アシドを見る。そして、その後ろのシキの姿を。
ナイフを持つ姿を目にした。カブツガムは素直に死を受け入れた。無駄に抵抗をしない。カブツガムは自分の死にすら関心がない。だからこそなのか、カブツガムが一言をポツリと呟いた。
『そうか。こうなるのか』
「これが反応したのか」
コストイラは煙として消えた腕から落ちた青色の石を拾い上げる。それを炎で照らしながらポツリと呟いた。アシドが研究棟を発見する。
「中まで探るか?」
「あの石について知りたいから、私は知りたいわ」
「よっしゃ。じゃあ行こうぜ」
アシドの問いにアストロは肯定で示し、コストイラは石を指で弾き、パシリと捕って歩き出す。
アレンは不安に思いながら、聞こえなくなった左耳をいじりながら付いて行った。
浮遊石。
100万リラほどの値段で買える魔石。用途が明らかになっていないが、力を加えるとものを浮かせる魔力を発生させる。希少価値は月天石や秘封石よりあるのだが、用途が分かっていないので安い。
そこに目を付けたカブツガムは常時空を飛べるようにするための研究を始めた。
しかし、すべては失敗に終わった。
どうしてもうまくいかない。何がいけないのだろうか。実験で確かめなければ。
「ここで日記が終わってんな」
「気持ちは分かるわ」
アストロが浮遊石を手に取り、指先で弄ぶ。
「何かに利用できそうなのよね」
「持って行きますか?」
「止めておくわ。誤爆しそうですもの」
「ん」
アストロが肩を竦め、浮遊石を元の場所に戻そうとするが、シキが横から奪い懐に入れる。
「欲しかったの?」
「ん」
「そう」
アストロは怒るでも咎めるでもなく、鼻から息を吐き、シキの頭を撫でる。シキは気持ちよさそうに目を細め、ムフーと息を吐く。
「それ以上は何もなさそうだ。もう行くか」
コストイラの言葉に頷くアレン達は、研究棟を後にした。
「夢はなかなか叶わねェもんな。オレもなかなか敵わねェよ」
棟を出る際に日記はコストイラの手によって燃やされた。
雲に興味を持てば食事を忘れて親に怒られ、魔力が気になっては睡眠を忘れて失神した。
親のことも目に入らず、研究に没頭する姿は、何人も諦めさせた。庇う者がいなくなってもカブツガムは研究し続けた。
雲を観察し、オレンジに色めく空を見て、なぜオレンジになるのかを考え始めた。オレンジを追い求めていくうちに、魔力に辿り着いた。
魔力はオレンジだ。火や水に色を変えようと、色を抜けばオレンジ色になる。どれだけ手を尽くそうとも必ずオレンジだ。それが不思議だった。原因を探して、探して探し求めれば、カブツガムは魔石に辿り着いた。
白色の魔石だ。オレンジの魔石に魔力を込めれば、その魔力になる魔石が白だ。何の魔力が込められているのか気になり、不用心にも触れてしまった。
その瞬間、大爆発が起きた。触れた右手が弾け飛び、服が裂け、岩に顔をぶつけて歪ませた。じくじくと痛みが熱に代わる。痛みに叫び転げまわりたいのに、体は動いてくれない。
この時、カブツガムは死んだ。
はずだった。
超常的速度で手が伸ばされ、コストイラは咄嗟に跳んで躱す。そのまま抜いたままの刀を振り下ろすと、金仮面の手を覆うグローブの甲に付けられた鉱石に当たる。
その瞬間、爆発的なエネルギーが生み出され、コストイラは彼方へぶっ飛ばされ、金仮面の巨体でさえ飛ばされ、脊柱の一本に激突する。石柱に凭れる姿勢のまま、マントの下の方がモゴリと盛り上がり、すぐに納まる。
アシドとシキが追い打ちをかけようとすると、金仮面がパァンと手を合わせた。その瞬間、水色のオーラが両手を包み込み、金仮面が空に跳び上がる。空に飛んだことでマントがはためき、内部が明らかになる。
黒い蛹のような見た目をしていて、下半身が存在しておらず、オレンジの泡のようなものがボコボコ鳴っている。内側から膨らんでは萎むを繰り返している。膨らんだ瞬間にマントに盛り上がり、元に戻る。
アシドの槍は空振り、金仮面が凭れていた石柱を砕く。シキは砕けた石柱を足場に宙を舞う。そして、近くなった的に対して、跳ぶ前に拾っていた石を3個投げる。3個はそれぞれ膨らんだオレンジ色の泡にぶつかり、泡が破裂する。
カブツガムは超人的な速度でシキを掴み取ろうとする。シキはナイフを抜き、手袋に包まれた肉に突き立てる。少し緩まった瞬間にオレンジと黒の混じった煙が噴き出し、カブツガムが掴むよりも早く脱出する。
シキとしては指の力を弱めさせて力づくで脱出するプランを考えていた。そのため、想定の範囲外だったが、良しとしよう。
金仮面がふわりと下りてくると、その位置に合わせてアストロが魔術を撃ち込む。魔術が当たり、金仮面が再び石柱に背をぶつける。その衝撃で仮面がズレた。
それにより、抑え込まれていた死臭やグズグズになった肉が露出する。
『仮面が……』
ゆっくりと仮面に手を伸ばすと、炎を纏い神速でもって近づいてきたコストイラに腕を切られる。体から離れた腕はオレンジと黒の混じった煙にかわり、目くらましになる。
残った方の手でコストイラを叩き飛ばす。3つの石柱を破壊した後、ようやく止まる。叩いた姿勢のままの状態のカブツガムを真正面から槍で貫く。槍は右手首と共に右胸を貫いた。それはまるで磔にされた昆虫のようだ。
カランと仮面が完全に落ちる。肉がグズグズになり、鼻の横にまで垂れた眼で、アシドを見る。そして、その後ろのシキの姿を。
ナイフを持つ姿を目にした。カブツガムは素直に死を受け入れた。無駄に抵抗をしない。カブツガムは自分の死にすら関心がない。だからこそなのか、カブツガムが一言をポツリと呟いた。
『そうか。こうなるのか』
「これが反応したのか」
コストイラは煙として消えた腕から落ちた青色の石を拾い上げる。それを炎で照らしながらポツリと呟いた。アシドが研究棟を発見する。
「中まで探るか?」
「あの石について知りたいから、私は知りたいわ」
「よっしゃ。じゃあ行こうぜ」
アシドの問いにアストロは肯定で示し、コストイラは石を指で弾き、パシリと捕って歩き出す。
アレンは不安に思いながら、聞こえなくなった左耳をいじりながら付いて行った。
浮遊石。
100万リラほどの値段で買える魔石。用途が明らかになっていないが、力を加えるとものを浮かせる魔力を発生させる。希少価値は月天石や秘封石よりあるのだが、用途が分かっていないので安い。
そこに目を付けたカブツガムは常時空を飛べるようにするための研究を始めた。
しかし、すべては失敗に終わった。
どうしてもうまくいかない。何がいけないのだろうか。実験で確かめなければ。
「ここで日記が終わってんな」
「気持ちは分かるわ」
アストロが浮遊石を手に取り、指先で弄ぶ。
「何かに利用できそうなのよね」
「持って行きますか?」
「止めておくわ。誤爆しそうですもの」
「ん」
アストロが肩を竦め、浮遊石を元の場所に戻そうとするが、シキが横から奪い懐に入れる。
「欲しかったの?」
「ん」
「そう」
アストロは怒るでも咎めるでもなく、鼻から息を吐き、シキの頭を撫でる。シキは気持ちよさそうに目を細め、ムフーと息を吐く。
「それ以上は何もなさそうだ。もう行くか」
コストイラの言葉に頷くアレン達は、研究棟を後にした。
「夢はなかなか叶わねェもんな。オレもなかなか敵わねェよ」
棟を出る際に日記はコストイラの手によって燃やされた。
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