メグルユメ

トラフィックライトレイディ

11.氷雪世界

 夕飯を食べたばかりのエンドローゼは早速チェチッシャとともに書斎に入っていった。こうなってはもう今日は泊まるしかない。ナゾールは綺麗に掃除された空き部屋に案内してくれた。

「エンドローゼは連れていかれちゃったし、暇ね。シキももう寝る?」
「武器の整備してから。一日でも怠けたら使い物にならなくなる」
「何で皆の前だと一言しか喋んないのよ」

 指摘され、シキがモゴモゴと口を動かす。

「緊張」
「アンタも分かってないのね」

 アストロはベッドに腰を下ろし、靴下を脱ぎ、ベッドに身を投げ出す。

「私もう寝るわよ」
「お休み」
「おやすみなさい」

 アストロが掛け布団を頭から被っても、シキのメンテナンスは続いた。






 部屋に着くと早速コストイラはベッドに身を投げた。アシドも続く。

「すげぇふかふか」
「干したてみてェだな」

 コストイラは枕に、アシドはシーツに鼻を突っ込み、匂いを嗅ぐ。

「太陽の臭いはしねェな」
「天日干しじゃねェんだな」

 一通りベッドを楽しむと、2人は立ち上がり自身の武器を手に取る。

「武器の整備をしねェとな」
「疲れたけどこれだけはしねェとな」
「そこは弁えているのだな」

 自身の武器を整備し始める2人に、レイドが感想を述べる。正直、アレンもレイドもメンテナンスすることなく寝るものだと思っていた。

「アレンはさ、いつになったら矢が当たるようになるんだ?アルミラージ含めて数えるほどしか当たってなくね?」
「ぐっ」

 痛いところを突かれ、アレンは息を詰まらせる。なぜこのタイミングで聞いてくるんだ。

「明日一日暇だろ。お前の弓矢の修行を手伝ってやるよ」

 あまり披露する機会がなかったが、すでにアンドリューとの訓練があるのだが、ここで言うのは野暮か。

「ありがとうございます。僕が本気を出せば百発百中ということを見せてあげますよ」
「ならいつも本気でやれよ」
「ごめんなさい。見栄張りました」

 本気で睨まれたアレンは速攻で全力で謝った。






『読んでほしいのはまずーー、これ』
「き、き、教祖とその名をの、の、遺した勇者」







 庭には壊れた的が散乱していた。その光景にコストイラもアシドもアストロでさえ、口を塞ぐのを忘れた。ここにいる誰もが同じことを心に思った。百発百中じゃん。

 アシドは割れた的を拾う。

「何だろ。的が動くから当たんねェのかな?」
「じゃあ、次はオレが的持って走ってみるか」

 コストイラが割れていない的を持ち、サイドステップを始める。そのうえで腕も動かし、的がランダムで動く。アレンは文句も言わずに弓を射る。アレンの手を離れた矢は真っ直ぐに進み、的を外した。外したというより避けられたに近いだろう。

 コストイラが動きを止める。

「アレンの当たんねェ理由、分かったわ」
「お?」
「矢、見てから回避余裕だわ」

 カラン。アレンは弓を落とし、四つん這いになった。

「つまり、アレンは矢で牽制は出来るんだが、決定打になれないんだ。死角から、とか、追い詰めるため、とかに役立つってことは補足しておくわ」

 フォローしてもらい、少し元気が戻った。シキが背を擦ってくれる。元気が戻った。レイドが顔を覗き込む。

「アレンはすでに我々に指示を出すという点で役に立っている。そこまで弓矢に関しては気負う必要はない。むしろ、あまり使わないからこそ切り札になりえるのだ」
「その切り札、切りどころねェぞ」

 アレンは再び元気を失った。その様子にレイドが焦る。

「なぜそんなことを言うんだ」
「いや、切り札って切った時点で追い込まれてるんだぜ。そんなの来ねェ方がいいって」
「む、確かに」

 コストイラの言い分にレイドも納得してしまう。アレンも納得し、元気を取り戻す。アストロは両手を腰に手を当て、溜息を吐いた。






『成る程ね』
「ね、ね、眠い」
『次はこれね』
「えっと。? えッと? よ、よ、読めないです。ご、ご、後藤? ごめんなさい。わー、分かんないです」
『これは違う言語ってわけね。じゃ、こっちは読める人は別に探すべきね』
「ご、ご、ごめんなさい」
『じゃあ、こっち』
「えっと。あ、ン? を、ヲルクィトゥの強さとそー、その考察」






「でも切り札にするには時間がかかりすぎじゃない?」

 アストロの発言に動きを止める。確かに狙いを定めるのに時間がかかってしまっている。引いている時に見られてしまえば警戒されてしまう。

「狙う時間を短くするか、そもそも速攻で撃つか、知られても必中で当たるような技を開発するかよね」
「的置くから速攻で撃ってみようぜ」
「分かりました」

 アレンが弓を拾い上げる。

『あれって何やってんの』
『修行じゃないですか?私達には関係ないことじゃないですかね』

 ナゾールは執務室の机に肘を付き、窓の外を眺めていると、フイソレが続きを書くように促す。ナゾールは研究者であるため定期的に論文を書かなければならなかった。現在は死を魔素によってなかったことにする研究をしている。いわゆる死者蘇生だ。まったく進行していないが。

『あ、滑った』

 アレンは急いだ結果、矢を弦に当て、引っ張った際に指を滑らせてしまった。十分に引き切れず宙で矢が踊り、地面に刺さった。

「これは練習が必要ね」






「それでは僕達は行きますね」
『ええ、いつでも戻ってきてもいいわよ。研究手伝って』

 アレン達は最後の言葉を無視し、にこやかな笑みのまま手を振り、立ち去る。すでに一晩が経っているにも関わらず、エンドローゼは疲弊していた。徹夜しての本読み2本は体に応えたのだろう。アレン達がガチャリと城の扉を開けると、そこには銀世界が広がっていた。

「は?」

 思わず間抜けな声が出てしまった。だってそうだろう。来る時に雪がなかったのに、帰る時にはもの凄い積雪だ。

『ごめん。これは私のせい』

 ナゾールが手を挙げている。

『研究中に魔素が爆発しちゃって。二日三日で直ると思いますので、申し訳ない』
「もうそろそろ寒い時期になるんだ。ちょっと早まったって考えときゃいいだろ」

 コストイラは雪を踏み締め、こちらを見てくる。アレン達も後を追って雪の中に消えていった。

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