理想の出会いたち(第1回 ノベルバ・ショートストーリーコンテスト)

水曜

理想の出会いたち

 この街へ引っ越してきてからの転校初日。
 寝坊した私は、パンをくわえながら通学路を走っていた。新しい高校生活の最初の一歩から躓くなんて縁起でもない。

「やばい、遅刻遅刻!」
 慌てて曲がり角を駆けると……誰かとぶつかってしまう。
「きゃ!」
「危ないな。ちゃんと前を見て歩け!」
 思わず尻もちをつく私に、制服姿の男の子が怒鳴ってくる。運動部系の部活にでも入っているのか、精悍な顔立ちをしていて背が高く逞しいシルエット。
 いや、それはこっち悪かったけど。
 一方的な物言いに、私もカチンときた。
「そっちこそ、気をつけなさいよ!」
 舌を出しながら私はその場を走り去った。
 まったく余計な時間をとられてしまった。
「やばい、遅刻遅刻!」
 慌ててまた曲がり角を駆けると……また誰かとぶつかってしまう。
「きゃ!」
「ふっ。この角での一日の事故率は22%以上。安全確認もせずに走りこむとは非常識な」
 思わず尻もちをつく私に、制服姿の男の子が冷笑する。鋭い眼光によく似合う眼鏡をかけた、見るからに頭が良さそうな風貌だ。
 いや、それはこっちも悪かったけど。
 一方的な物言いに、私もカチンときた。
「そっちこそ、気をつけなさいよ!」
 舌を出しながら私はその場を走り去った。
 まったく余計な時間をとられてしまった。
「やばい、遅刻遅刻!」
 慌ててまたまた曲がり角を駆けると……またまた誰かとぶつかってしまう。
「きゃ!」
「おや、貧相な子が僕の車にぶつかってきたね。危ないなー」
 思わず尻もちをつく私に、制服姿の男の子が高級車の後部座席から見下ろしてくる。いかにもお金持ちのお坊ちゃまといった浮世離れした雰囲気だ。
 いや、それはこっちも悪かったけど。
 一方的な物言いに、私もカチンときた。
「そっちこそ、気をつけなさいよ!」
 舌を出しながら私はその場を走り去った。

 それからも私は角を曲がるたびに、誰かとぶつかり続けた。
 それでも諦めずに走って、何とか遅刻は免れる。ほっと安堵の息を吐いて、今日から通うことになる教室へ入ると。
「あ、お前は!」
 クラスメイトの男子たち全員が運命の再会に叫びあがった。

「理想の出会いたち(第1回 ノベルバ・ショートストーリーコンテスト)」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く