紙芝居屋

紫 李鳥

紙芝居屋


  

 夕焼けの空から
 自転車でやって来る
 紙芝居屋かみしばいや




 紙芝居屋には
 公園で遊ぶ
 たくさんの
 こどもたちが
 見えるのです




 でも
 そこには
 ブランコを揺らす
 一人の少年しかいません






 少年にも
 聞こえました









 カチッ! カチッ!

「ほらほら、紙芝居が始まるよ! みんな、みんな、よってらっしゃい、見てらっしゃい! あめ玉は、2コで10円だよ」

「おじちゃん、ぼく、5円しかないんだぁ。1コでもいい?」

「ああ、いいとも。カンロにイチゴにミルク、どれがいいかな?」

「んとね……ミルク」

「はいよ、ミルクだ。さて、きょうはどんなお話かなぁ――」





 ――少年に笑顔を
 プレゼントした
 紙芝居屋は
 自転車をぎながら
 茜色あかねいろの空に
 のぼって行った


 少年が
 見上げていると


 突然とつぜん
 消えた






 やがて
 オレンジ色の夕日が
 瓦屋根かわらやねの向こうに
 静かに
 沈んで行った










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