やり直したい傲慢令嬢は、自分を殺した王子に二度目の人生で溺愛される
魔法陣から出てきたもの
コスピラトーレに来て、数日が経ってしまった。
私はベッドに腰掛けたまま、窓から見える空をぼんやりと見つめる。そして怪我をした足と左手首を動かしてみた。
駄目……まだ痛いわ。これじゃ逃げられない。
すぐにコスピラトーレ王の側室にされるのではないかと怯えていたが、実際はそんなことはなく放置されている。
でも、時間の問題だと思う。
それに、コスピラトーレがイストリアに何かを仕掛けているなら、こんなところでじっとなんてしていられない。早くイストリアに戻って、迎え撃たないと。
私はぐっと拳を握り込んだ。
痛いなんて言っている場合じゃない。どれだけ痛くても我慢しなきゃ。
「アリーチェ、気分はどうかしら?」
覚悟を決めて立とうとした途端、王妃が部屋に入ってくる。彼女が入ってくると、部屋の中にきつい香水の匂いが漂って、一瞬顔を顰めてしまった。でも慌てて表情を作って微笑む。
「王妃陛下、おはようございます」
「アリーチェ。貴方、お父様を誘惑したの? 私は貴方のことをサヴェーリオの妃に迎えようと思っていたのに、突然貴方のことを欲しいと言うのよ。困ったものだわ」
「は? ゆ、誘惑なんてしていません!」
「まあいいわ。今は久しぶりの再会に喜んでいるだけで、そのうち飽きるでしょう。その時に、サヴェーリオに下げ渡せばいいだけだし、別に構わないわ」
王妃の言葉にカッとなって言い返すと、彼女は興味なさげにベッドに座ったままの私を見下ろす。その目はコスピラトーレ王と同じ。道具を見るような目だった。
その目を見ていると、こんな人達が国を治めていて、本当に大丈夫なのだろうかという不安が頭を擡げる。
イストリアに戻ったら、コスピラトーレの民がどういう暮らしをしているのか確認したほうが良さそうだ。
そう心の中で考えながらじっと王妃を見ていると、彼女が満足そうに笑った。
「帰ってきた時の威勢の良さはもうなくなったようね。この数日で己の立場を理解したのかしら」
そう言いながら、王妃が私の腕を引く。でも立てなくて、床に座り込んでしまうと、王妃が舌打ちをする。
「愚図な子ね。早く立ちなさい」
「……はい」
息を整えるように小さく吸って吐く。そして歯を食いしばり、ベッド脇の棚で体を支えながら、ぐっと立ち上がった。でも、痛みで変な汗がぶわっと出てくる。
痛い……!
「それでいいのよ。ついて来なさい。貴方に役目をあげるから」
そう言って、背中を向けて歩き出す王妃についていくために一歩踏み出すと、痛みで体がぐらりと揺れる。
「っ!」
駄目よ。少し歩くだけで痛がっていては駄目。
逃げるためには痛みに耐えて走れるようにならなければならない。これはその時のための訓練だ。私には怪我が治るのを待っている時間なんてないのだから。
そう自分に言い聞かせて、冷や汗をかきながら痛みに耐えて歩いていると、王妃が遅いと私に叱責を飛ばす。そして騎士に私を抱えるように命じた。
怒鳴りつけられるのも、騎士に抱きかかえられるのも悔しくてたまらない。怪我の痛み以上に、胸が痛んだ。
騎士に抱きかかえられ、連れていかれたところは地下だった。そこは真っ白な空間の中に魔法陣が描かれた台座のみがある不思議な場所で、空気もひんやりとしている。
ここは何?
得体の知れない空間に、肌が粟立つ。そんな私を見ながら、王妃がにやりと嫌な笑みを浮かべた。
「この部屋はね、貴方の魔力を奪うための部屋よ」
「魔力を……奪う?」
「ええ。そこにある台座に貴方を乗せると強制的に魔力を奪い、溜めておけるの」
そして王妃は台座の横に据えられている水晶を指差した。困惑気味に、その水晶を見つめると王妃が楽しそうに言葉を続ける。
イストリアに対抗するために、今までは側室が産んだ子達の魔力を奪い、溜めていたのだと。
「でも全然溜まらないのよね。不甲斐ないことだわ。貴方は魔力量も多いし、きっと溜められるわよね?」
水晶は溜まっている魔力量を色で示すと王妃は言うが、まったく色が変わっていなかった。王妃が望む量がどのくらいなのかは分からないが、今まで何人も挑戦して溜められなかったのだから、私にも無理だと思う。
私は水晶を見つめながら、首を横に振った。
「私にも無理です。それに一度に大量の魔力を失うと命に関わります」
「あら、大丈夫よ。今までの者達だって死ななかったもの。毎日頑張って、たくさん溜めてちょうだい」
彼女は私の言葉を一蹴する。そして騎士に私を台座に乗せるように命じた。
「やめてっ! やめてください!」
「ああ、もう! うるさいわね! 今までなんの役にも立っていなかったのだから、少しくらい役に立ちなさいな。それに、貴方には魔力なんていらないわ。ないほうが大人しくできていいでしょう!」
私が抵抗すると、彼女が私の頬を打ち、声を荒げる。その声に怯んでしまった瞬間、騎士は私の手足を縛り、台座に乗せた。怪我をしているところを容赦なく縛られて、傷口が引き攣るように痛む。
「期待しているわよ、アリーチェ。見事溜められたら、帰ってきた日の無礼くらいは許してあげても良くてよ」
王妃は私の魔力を封じる首輪を外し、高笑いしながら騎士と一緒に出ていった。
助けて、と声を出そうとしても出ない。私の意思に反して、魔法陣が私の魔力を勢いよく吸っていく。
いや……こんなの、いや。
どんどん失われていく魔力と、それに呼応するように遠くなっていく意識に、私は恐怖で体が震えた。歯の根が合わないくらいガチガチと鳴る。でもいつしか、指一本すら動かせなくなり、体の震えも止まる――私の意識が暗転した。
◆ ◇ ◆
その日から、昼食後くらいにまたそこに連れて行かれ、台座に乗せられる日々が続いた。
乗せられるたびに、魔力をぎりぎりまで吸い取られ意識を失ってしまう。いつもそれの繰り返しだった。
乗るたびに意識がなくなってしまうのが怖くてたまらない。いつか本当に死んでしまう気がする。
逃げたい……。でも、逃げられない。
少し回復してはまた奪われる。そんな日々を繰り返している私の体は、鉛のように重くて、まともに動けない。そのせいか、魔力を封じる首輪は外されたままだった。
こんなことをしている場合ではないのに。早く逃げる手立てを講じないといけないのに。私はもう自分で体を起こすこともできなかった。転移するほどの大きな魔力も、もうない。
辛くて悔しくて、涙が頬をつたう。
「アリーチェ。父上と母上が喜んでいたぞ。予想以上の結果が得られているそうだ」
すると、王太子がノックもせずに部屋へ入ってきた。視線だけを動かし、嫌悪感に満ちた目で睨む。けれど、王太子は気にする様子もなくベッドに腰掛け私の涙を指で拭った。
「やめてください」
「そのような態度は己の首を絞めるだけだぞ。……というより、アリーチェ。なぜ、父上なのだ? アリーチェは私の所有物のはずだ」
誰が所有物よ!
けれど、言い返す間もなく、王太子が私の頬をなぞる。それが途轍もなく気持ち悪く感じて、震える手で彼の手を押し返そうとした。すると、彼は私の顔の横にナイフを突き立てる。
その瞬間、頬が切れて血がつたう。
恐ろしさのあまり、顔を動かせないまま視線だけでナイフを見る。
「ああ、血が出てしまったな……」
「っ!!」
王太子が突然その血を舐めた。一瞬何が起こったのか分からず、目を見開いたまま硬直してしまう。が、すぐに身を捩った。
気持ち悪い……!
「やめてっ!」
「どうせまともに動けないのだろう? ちょうどいいじゃないか。私のほうが父上よりいいと教えてやろう」
「いや、ぜったいに……いや……」
私は昨日から少しだけ回復している魔力を振り絞り、王太子の体を弾き飛ばした。が、壁に激しく打ちつけられた王太子は、ゆらりと立ち上がる。その表情は殺意に満ちていた。
このままでは殺されてしまう。でも、何もしないまま好き放題扱われるのはもっといやだ。
どうせ殺されるのなら、前と同じがいい。イヴァーノ――貴方の手で、貴方の腕の中で、逝きたい。
私は決意を固めた。ここで殺されるくらいなら、相打ちになってもいい。魔力をすべて失って死んでしまったとしても、この男の手で死ぬのだけはいやだ。
「サヴェーリオ、いけないわ。どうせすぐ飽きるのだから、お父様が飽きるまで待ちなさい」
私が残っているなけなしの魔力を集めようとした瞬間、王妃の制止の声が聞こえる。その言葉に王太子が渋々頷いて、引いた。
「母上、最初から私にアリーチェをくださると約束したではありませんか。なぜ、父上が先なのですか?」
「だって、気に入ったと言っているのだから仕方がないでしょう。それが嫌なら貴方がお父様と話し合ってちょうだい。私は面倒事はいやよ」
「ですが……」
その会話を聞きながら、好き放題しているように見える王妃も、コスピラトーレ王には頭が上がらないのだと分かった。
一矢報いるのなら、やっぱりコスピラトーレ王相手のほうがいいかしら。でもどうやって?
このままでは、そのうち魔力切れを起こして死んでしまいそうだ。一矢報いるためには、どうにかして逃げて身を隠し、体と魔力を回復させなければならない。
「この話は終わりよ。アリーチェ、今日も行ってきなさい」
「……はい」
面倒くさそうに命じて、王妃は部屋を出ていく。すると、交代に騎士が入ってきて私を抱き上げ、いつものように地下にあるあの部屋へ連れて行った。
最近では私に抵抗する力がないのを分かっているのか、縛りつけられることもない。
縛られてもいない。監視もない。この時こそ逃げるチャンスなのだ。それなのに、結局は思うように動けなくて魔力を好きなように奪われ、気を失ってしまう。
なんとかして……体を動かせないかしら?
台座からおりることができれば、魔力を吸われない。だから、なんとか暴れて台座から落ちればいい。
頑張るのよ、私。
イヴァーノ、鬼司教。どうか私に力を貸して。
私を台座に乗せて、騎士が去っていく。それを確認した私は、魔力が吸われて力がなくなっていく体を気力だけで、動かした。ずりずりと這いずるように動く。
「!」
でもその瞬間、魔法陣が光り出した。
部屋いっぱいに神々しい光が満ちる。その光に包まれた瞬間、失われていた魔力が満ち、傷が癒えていくのが分かった。
「な、何? 何が起こったの?」
まさか必要な魔力が溜まったの?
わけが分からず、恐怖に身が竦み、歯がガチガチと鳴る。そのまま動けないでいると、私の目の前にとても大きな狼が現れた。
とても神々しくて畏怖の念すら感じる狼に、見入ってしまう。すると、狼が私の顔をじっと見た。
「其方が我が主か?」
私はベッドに腰掛けたまま、窓から見える空をぼんやりと見つめる。そして怪我をした足と左手首を動かしてみた。
駄目……まだ痛いわ。これじゃ逃げられない。
すぐにコスピラトーレ王の側室にされるのではないかと怯えていたが、実際はそんなことはなく放置されている。
でも、時間の問題だと思う。
それに、コスピラトーレがイストリアに何かを仕掛けているなら、こんなところでじっとなんてしていられない。早くイストリアに戻って、迎え撃たないと。
私はぐっと拳を握り込んだ。
痛いなんて言っている場合じゃない。どれだけ痛くても我慢しなきゃ。
「アリーチェ、気分はどうかしら?」
覚悟を決めて立とうとした途端、王妃が部屋に入ってくる。彼女が入ってくると、部屋の中にきつい香水の匂いが漂って、一瞬顔を顰めてしまった。でも慌てて表情を作って微笑む。
「王妃陛下、おはようございます」
「アリーチェ。貴方、お父様を誘惑したの? 私は貴方のことをサヴェーリオの妃に迎えようと思っていたのに、突然貴方のことを欲しいと言うのよ。困ったものだわ」
「は? ゆ、誘惑なんてしていません!」
「まあいいわ。今は久しぶりの再会に喜んでいるだけで、そのうち飽きるでしょう。その時に、サヴェーリオに下げ渡せばいいだけだし、別に構わないわ」
王妃の言葉にカッとなって言い返すと、彼女は興味なさげにベッドに座ったままの私を見下ろす。その目はコスピラトーレ王と同じ。道具を見るような目だった。
その目を見ていると、こんな人達が国を治めていて、本当に大丈夫なのだろうかという不安が頭を擡げる。
イストリアに戻ったら、コスピラトーレの民がどういう暮らしをしているのか確認したほうが良さそうだ。
そう心の中で考えながらじっと王妃を見ていると、彼女が満足そうに笑った。
「帰ってきた時の威勢の良さはもうなくなったようね。この数日で己の立場を理解したのかしら」
そう言いながら、王妃が私の腕を引く。でも立てなくて、床に座り込んでしまうと、王妃が舌打ちをする。
「愚図な子ね。早く立ちなさい」
「……はい」
息を整えるように小さく吸って吐く。そして歯を食いしばり、ベッド脇の棚で体を支えながら、ぐっと立ち上がった。でも、痛みで変な汗がぶわっと出てくる。
痛い……!
「それでいいのよ。ついて来なさい。貴方に役目をあげるから」
そう言って、背中を向けて歩き出す王妃についていくために一歩踏み出すと、痛みで体がぐらりと揺れる。
「っ!」
駄目よ。少し歩くだけで痛がっていては駄目。
逃げるためには痛みに耐えて走れるようにならなければならない。これはその時のための訓練だ。私には怪我が治るのを待っている時間なんてないのだから。
そう自分に言い聞かせて、冷や汗をかきながら痛みに耐えて歩いていると、王妃が遅いと私に叱責を飛ばす。そして騎士に私を抱えるように命じた。
怒鳴りつけられるのも、騎士に抱きかかえられるのも悔しくてたまらない。怪我の痛み以上に、胸が痛んだ。
騎士に抱きかかえられ、連れていかれたところは地下だった。そこは真っ白な空間の中に魔法陣が描かれた台座のみがある不思議な場所で、空気もひんやりとしている。
ここは何?
得体の知れない空間に、肌が粟立つ。そんな私を見ながら、王妃がにやりと嫌な笑みを浮かべた。
「この部屋はね、貴方の魔力を奪うための部屋よ」
「魔力を……奪う?」
「ええ。そこにある台座に貴方を乗せると強制的に魔力を奪い、溜めておけるの」
そして王妃は台座の横に据えられている水晶を指差した。困惑気味に、その水晶を見つめると王妃が楽しそうに言葉を続ける。
イストリアに対抗するために、今までは側室が産んだ子達の魔力を奪い、溜めていたのだと。
「でも全然溜まらないのよね。不甲斐ないことだわ。貴方は魔力量も多いし、きっと溜められるわよね?」
水晶は溜まっている魔力量を色で示すと王妃は言うが、まったく色が変わっていなかった。王妃が望む量がどのくらいなのかは分からないが、今まで何人も挑戦して溜められなかったのだから、私にも無理だと思う。
私は水晶を見つめながら、首を横に振った。
「私にも無理です。それに一度に大量の魔力を失うと命に関わります」
「あら、大丈夫よ。今までの者達だって死ななかったもの。毎日頑張って、たくさん溜めてちょうだい」
彼女は私の言葉を一蹴する。そして騎士に私を台座に乗せるように命じた。
「やめてっ! やめてください!」
「ああ、もう! うるさいわね! 今までなんの役にも立っていなかったのだから、少しくらい役に立ちなさいな。それに、貴方には魔力なんていらないわ。ないほうが大人しくできていいでしょう!」
私が抵抗すると、彼女が私の頬を打ち、声を荒げる。その声に怯んでしまった瞬間、騎士は私の手足を縛り、台座に乗せた。怪我をしているところを容赦なく縛られて、傷口が引き攣るように痛む。
「期待しているわよ、アリーチェ。見事溜められたら、帰ってきた日の無礼くらいは許してあげても良くてよ」
王妃は私の魔力を封じる首輪を外し、高笑いしながら騎士と一緒に出ていった。
助けて、と声を出そうとしても出ない。私の意思に反して、魔法陣が私の魔力を勢いよく吸っていく。
いや……こんなの、いや。
どんどん失われていく魔力と、それに呼応するように遠くなっていく意識に、私は恐怖で体が震えた。歯の根が合わないくらいガチガチと鳴る。でもいつしか、指一本すら動かせなくなり、体の震えも止まる――私の意識が暗転した。
◆ ◇ ◆
その日から、昼食後くらいにまたそこに連れて行かれ、台座に乗せられる日々が続いた。
乗せられるたびに、魔力をぎりぎりまで吸い取られ意識を失ってしまう。いつもそれの繰り返しだった。
乗るたびに意識がなくなってしまうのが怖くてたまらない。いつか本当に死んでしまう気がする。
逃げたい……。でも、逃げられない。
少し回復してはまた奪われる。そんな日々を繰り返している私の体は、鉛のように重くて、まともに動けない。そのせいか、魔力を封じる首輪は外されたままだった。
こんなことをしている場合ではないのに。早く逃げる手立てを講じないといけないのに。私はもう自分で体を起こすこともできなかった。転移するほどの大きな魔力も、もうない。
辛くて悔しくて、涙が頬をつたう。
「アリーチェ。父上と母上が喜んでいたぞ。予想以上の結果が得られているそうだ」
すると、王太子がノックもせずに部屋へ入ってきた。視線だけを動かし、嫌悪感に満ちた目で睨む。けれど、王太子は気にする様子もなくベッドに腰掛け私の涙を指で拭った。
「やめてください」
「そのような態度は己の首を絞めるだけだぞ。……というより、アリーチェ。なぜ、父上なのだ? アリーチェは私の所有物のはずだ」
誰が所有物よ!
けれど、言い返す間もなく、王太子が私の頬をなぞる。それが途轍もなく気持ち悪く感じて、震える手で彼の手を押し返そうとした。すると、彼は私の顔の横にナイフを突き立てる。
その瞬間、頬が切れて血がつたう。
恐ろしさのあまり、顔を動かせないまま視線だけでナイフを見る。
「ああ、血が出てしまったな……」
「っ!!」
王太子が突然その血を舐めた。一瞬何が起こったのか分からず、目を見開いたまま硬直してしまう。が、すぐに身を捩った。
気持ち悪い……!
「やめてっ!」
「どうせまともに動けないのだろう? ちょうどいいじゃないか。私のほうが父上よりいいと教えてやろう」
「いや、ぜったいに……いや……」
私は昨日から少しだけ回復している魔力を振り絞り、王太子の体を弾き飛ばした。が、壁に激しく打ちつけられた王太子は、ゆらりと立ち上がる。その表情は殺意に満ちていた。
このままでは殺されてしまう。でも、何もしないまま好き放題扱われるのはもっといやだ。
どうせ殺されるのなら、前と同じがいい。イヴァーノ――貴方の手で、貴方の腕の中で、逝きたい。
私は決意を固めた。ここで殺されるくらいなら、相打ちになってもいい。魔力をすべて失って死んでしまったとしても、この男の手で死ぬのだけはいやだ。
「サヴェーリオ、いけないわ。どうせすぐ飽きるのだから、お父様が飽きるまで待ちなさい」
私が残っているなけなしの魔力を集めようとした瞬間、王妃の制止の声が聞こえる。その言葉に王太子が渋々頷いて、引いた。
「母上、最初から私にアリーチェをくださると約束したではありませんか。なぜ、父上が先なのですか?」
「だって、気に入ったと言っているのだから仕方がないでしょう。それが嫌なら貴方がお父様と話し合ってちょうだい。私は面倒事はいやよ」
「ですが……」
その会話を聞きながら、好き放題しているように見える王妃も、コスピラトーレ王には頭が上がらないのだと分かった。
一矢報いるのなら、やっぱりコスピラトーレ王相手のほうがいいかしら。でもどうやって?
このままでは、そのうち魔力切れを起こして死んでしまいそうだ。一矢報いるためには、どうにかして逃げて身を隠し、体と魔力を回復させなければならない。
「この話は終わりよ。アリーチェ、今日も行ってきなさい」
「……はい」
面倒くさそうに命じて、王妃は部屋を出ていく。すると、交代に騎士が入ってきて私を抱き上げ、いつものように地下にあるあの部屋へ連れて行った。
最近では私に抵抗する力がないのを分かっているのか、縛りつけられることもない。
縛られてもいない。監視もない。この時こそ逃げるチャンスなのだ。それなのに、結局は思うように動けなくて魔力を好きなように奪われ、気を失ってしまう。
なんとかして……体を動かせないかしら?
台座からおりることができれば、魔力を吸われない。だから、なんとか暴れて台座から落ちればいい。
頑張るのよ、私。
イヴァーノ、鬼司教。どうか私に力を貸して。
私を台座に乗せて、騎士が去っていく。それを確認した私は、魔力が吸われて力がなくなっていく体を気力だけで、動かした。ずりずりと這いずるように動く。
「!」
でもその瞬間、魔法陣が光り出した。
部屋いっぱいに神々しい光が満ちる。その光に包まれた瞬間、失われていた魔力が満ち、傷が癒えていくのが分かった。
「な、何? 何が起こったの?」
まさか必要な魔力が溜まったの?
わけが分からず、恐怖に身が竦み、歯がガチガチと鳴る。そのまま動けないでいると、私の目の前にとても大きな狼が現れた。
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