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やり直したい傲慢令嬢は、自分を殺した王子に二度目の人生で溺愛される

Adria

ライモンド兄様の卒業

 イヴァーノと想いを通わせて少ししたあと、ライモンド兄様がノービレ学院のすべてのコースで『優』を取り、主席で卒業した。卒業後は、お父様の跡を継ぐべく領地でしばらく領主代行を務めながら、学ぶそうだ。

「ライモンド兄様って素晴らしいわよね。どうすればすべてのコースで優をとれるのかしら? 恐ろしいわ」
「あら、姫様も神殿で頑張っておられるではないですか。今から頑張ればできますよ」
「ダーチャ、無理よ。兄様は根っからの勉強好きだし、とても優秀だから……」
「姫様。挑戦する前から無理などと決めつけてはなりません」

 いや、でもライモンド兄様と私を一緒になんかしたら失礼だと思う。兄様は、以前も今も私以上の努力家だし天才だ。

 私はダーチャのお小言が始まりそうな予感に、部屋から退散しようとした。すると、ライモンド兄様が「アリーチェは神殿業務もあるのだ。無理を言ってやるな」と言いながら、部屋に入ってきた。


「ライモンド兄様っ、おかえりなさい!」
「ただいま、アリーチェ。神殿から帰ってきていたのだな」
「はい! ライモンド兄様に会いたくて帰ってきました!」

 嬉しくなってライモンド兄様に飛びつくと、兄様は笑顔で受け止めてくれる。

 ああ、久しぶりの兄様だ。あたたかい。それに、消毒薬のいい香りがする。兄様ったら、宰相よりお医者様のほうが似合っているかも。

 私がそんなことを考えながら、兄様の匂いを嗅いでいると、兄様が私の頭をがしっと掴んだ。

「アリーチェ、レディーが走ってはならぬし、そのように匂いを嗅いではならぬ。それに其方は顔に出やすい。嬉しさを全面に押し出して飛びついてくるなど、貴族の令嬢としては減点だ。もう少し隠せるようになっておけ」
「兄様……。そんなことよりも、久しぶりに帰ってきたのですから、楽しい話をしましょう。お小言はいりません」
「ふっ、そうだな。領地に赴けば、しばらくは帰って来られぬのだから、今日はやめておこう」

 私が頬を膨らませると、兄様は私の頭を撫でてくれながら、小さく息を吐いて微笑んだ。

 領地……。そうよね、しばらく王都を離れるのよね……。寂しいなと思い、兄様の胸に頬擦りをした。


「ライモンド兄様は、卒業後はお父様について宰相のお勉強をすると思っていました。領地は今もベルトランド叔父様がうまく治めてくれているじゃないですか。それじゃ駄目なんですか? 私、これから兄様にいっぱい教えていただこうと思ったのに……」

 正直な話、帰ってきたら色々教えてもらいたいこともいっぱいあった。領主代行は名誉なことなのだから、こんなわがままを言ってはいけないのも分かっている。でも、やっぱり寂しい。

「叔父上も、もう年だ。領主代行としても、そろそろ隠居させてやらねばならぬ。叔父上が元気なうちに色々教えを乞い、引き継がねばならぬことが山積みなのだ」

 ベルトランド叔父様は、私たちのお祖父様の弟で、実際には大叔父にあたる。お祖父様亡きあとも、現役でとても元気な方なので隠居など考えたこともなかった。

 あの叔父様が隠居……なんだか信じられないわね。年齢を感じさせない筋肉のせいかしら?


「でも、兄様はいずれお父様の跡を継いで宰相になるのですよね? では領地は叔父様引退後、どなたに任せるんですか? やっぱりルクレツィオ兄様ですか?」
「いや、ルクレツィオは領地の運営には向いていない。領地に行かせるよりは、王となった殿下の側に仕えさせたほうがよい。父上もそのつもりで、幼い頃より殿下の側にいさせているのだろう。なので、おそらくフィオレンツォに任せることになる」
「フィオレンツォ兄様に?」

 フィオレンツォ兄様は、お父様の兄の子で私たちの従兄だ。さきのコスピラトーレとの戦争で亡くなってしまった伯父様に代わり、ベルトランド叔父様が親代わりとなっている。

 フィオレンツォ兄様はライモンド兄様より三つほど上だし、穏やかで公正な方なので適任といえば適任かしら? 

 時が巻き戻った五歳の時から、領地に帰っていないので、今回はあまり関わりがない。今度、ライモンド兄様に会いに行きがてら、ご挨拶に行ってもいいかもしれない。


「ということは、フィオレンツォ兄様と一緒に引き継ぎのお勉強をするということですか?」
「ああ、そうなるだろう。宰相として中央の政治に関わるからといって、陛下から賜った領地を疎かにしてはならぬ。仮にも領主が、領主代行よりも何も知らず、分からずでは通らぬから、しっかり学んでこようと思う」
「確かにそうですね! なら、私、たまには兄様たちを応援しに領地に遊びに行きますね!」
「いつでもおいで。たまには神殿から離れて息抜きをしてみるのもよい」

 まあ、実際はベルトランド叔父様にほぼ任せきりだけれど、任せっぱなしにしないところが、兄様のいいところだと思う。さすが、私の兄様だ。

 私は誇らしげに胸を張り、元気良く「はい! イヴァーノとルクレツィオ兄様をつれて、遊びに行きますね!」と言った。すると、兄様の眉がぴくりと動く。


「イヴァーノ……? 其方、いつのまに殿下とそこまで仲良くなったのだ」
「え? え?」

 突然、私の肩をがしっと掴んだライモンド兄様に気圧されつつ、兄様が不在の間のイヴァーノとのことを報告した。
 もちろん、人質云々の話はできないので、そこは伏せてだ。

「……まさか、このようなところに馬の骨がいるとは」
「え? 何ですか?」

 兄様が眉間に皺を寄せながら、深い息を吐いたので、私は首を傾げ、兄様の顔を覗き込んだ。

 やっぱり私には、イヴァーノの恋人は荷が重いって思っているのかもしれない。

「兄様。私にまだ色々足りていないのは分かっています。なので、これからもっと励みます。イヴァーノの隣に立っても恥ずかしくないように、もっと研鑽を積み、立派な人間になってみせます」
「アリーチェ……そうか。其方は覚悟を決めたのか……」
「はい! 私は次期首座司教と次期王妃の両方を目指します。前例がないなら打ち立ててこそ。私は、イヴァーノを支えた良き王妃として首座司教として、後世に名を残せる人間になってみせます」

 私の言葉に兄様が小さく目を見張る。でも、すぐに私の頭を優しげに撫でて、抱き締めてくれた。

「兄様……」
「其方が覚悟を決めたというのなら、私もできる限りサポートをすると約束しよう」
「ありがとうございます!」
「おそらく、困難な道となるだろう。其方にとって、つらく投げ出したくなるようなことが起きるやもしれぬ。だが、それでも殿下と二人、手に手を取り合い、乗り越えていきなさい。そのための協力ならば我が家は惜しまない」
「はい!」

 その後、王妃となるのは生半可なものではないという有り難いお説教を受けながら、私は久しぶりに兄様から勉強を教えてもらった。

 兄様も鬼司教も教え方がうまいので、とても勉強になるのよね。

「ふむ、見違えるようだな。やはり、首座司教様は素晴らしい方だ。領地へと旅立つ前に、兄として一度ご挨拶とお礼に伺わねばならぬな」

 兄様は私の成長を褒めてくれ、鬼司教についても感嘆の声をあげていた。

 ふふん。私の成長で師が認めてもらえるのは、素直に嬉しいものだ。これからも、師の名を汚さないように頑張ろうと、私は心の中で拳を握りしめた。


「アリーチェ! 帰ってるんだって?」

 その瞬間、部屋の扉がバーンと開いて、ルクレツィオ兄様が入ってくる。そのルクレツィオ兄様にライモンド兄様が顔をしかめた。

「ルクレツィオ、ノックをしなさい」
「そんな細かいことは気にしないでくださいよ、兄上。それよりも、久しぶりに帰ってきたのだから、私ともお茶をしようか?」
「はい。勉強が終わったら、皆でお茶にしましょう」

 私が頷くと、ルクレツィオ兄様が明らかに不満を示し、私の肩に手をまわした。

「アリーチェ、いつもいつもそんなに勉強ばかりしてると、馬鹿になっちゃうよ。たまには遊ばないと」
「え? 馬鹿に?」
「ルクレツィオ! そのようなことがあるわけがないだろう! 其方も我が家に恥じぬように努力をしなさい」
「大丈夫ですよ。これでも剣の腕は兄上には引けを取らないつもりですから」
「ほう」

 え? え?
 何、この雰囲気? どうしよう?

 今にも喧嘩が始まってしまいそうな雰囲気に私は二人の服を引っ張った。

「お願いですから、仲良くしてください。喧嘩は駄目ですよ」
「喧嘩ではない。愚弟を鍛え直すだけだ」
「吠え面かくのはどちらかな?」
「やめてください! そんなことより、私お茶が飲みたいです。勉強して喉渇きました! 兄様たちは可愛い妹が喉渇いたままでいいんですか?」

 私がそう叫ぶと、二人は「それはいけないな」と言い出し、喧嘩をやめ、庭にお茶の用意をするようにと侍女に命じはじめた。

 ふぅ、よかった。
 喧嘩になったらどうしようかと思ったわ。

 私は胸を撫で下ろし、軽い足取りで中庭へと向かった。


 その後はライモンド兄様とルクレツィオ兄様の剣のお稽古を肴にお茶を飲んだ。

 ライモンド兄様もルクレツィオ兄様も、どちらも強かった。今はまだライモンド兄様のほうが強いけれど、近いうちにルクレツィオ兄様が追い越してしまうだろう。そんな気がした。だって、ルクレツィオ兄様の剣のセンスはとてもいい。

 私は二人の剣技をわくわくしながら、楽しんだ。

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