【完結】2番ではダメですか?~腹黒御曹司は恋も仕事もトップじゃなきゃ満足しない~

霧内杳

最終章 私の一番は……5

事件は一応解決し、部長と一緒に家に帰る。
食事のあと、今日はお祝いだからと少しだけふたりでワインを飲んだ。

「……これで婚約解消ですね」

花恋さんが諦めたのなら、もう婚約の意味はない。
それに、報われないこの気持ちを抱えたまま部長の傍にいるのはつらかった。
だから、この件が解決したら、婚約を破棄してもらおうと考えていた。

「それだけどな。
婚約はこのまま続行だ」

「……ハイ?」

グラスを置き、意味がわからなくてまじまじと彼の顔を見つめた。

「明日美と婚約しておけば、見合いさせられないだろ?
だから婚約は継続だ」

軽く言って、グラスを口に運ぶ。
人の気持ちも考えない部長に、ふつふつの腹の中が沸騰した。

「……私の気持ちも」

私の口から出た声は、恐ろしく低かった。

「私の気持ちも知らないで!
私の気持ち、少しは考えたことありますか!?
なんで私ばかり、こんなにつらい思いしないといけないんですか!
富士野部長なんか、好きになんかならなきゃよかった……!」

出てくる涙に気づかれたくなくて、ぐいぐい顔を拭う。
こんなつらい思いをするなら、富士野部長なんて好きにならなきゃよかった。
後悔ばかりが思い浮かぶ。

「……わるい」

気づいたら。
部長の腕の中にいた。
逃れようと暴れるが彼の力は強く、離してくれない。

「そろそろ俺も、自分の気持ちに正直にならないといけないな」

つらそうな部長の声で、身体が止まる。

「俺は明日美が……好き、だ」

証明するかのように、きゅっと彼の腕に力が入った。
とくん、とくん、と心細そうな心臓の鼓動が聞こえる。
それが酷く、私の胸を締め付けた。

「前に言っただろ、目標を達成するまでは恋なんかしないって決めているって。
……でも」

腕の力を緩め、部長が私に視線をあわせさせる。

「こんなにも明日美を好きになっていた――」

眼鏡の向こうの瞳が泣きだしそうに歪み、私まで泣きたくなった。

「明日美は俺の、家族へのコンプレックスをわかってくれた」

私の涙を拭うかのごとく、部長の手が私の頬を撫でる。

「明日美も俺と同じ気持ちを抱えて生きてきたんだと思ったら、これ以上ないほど愛おしくなった」

赤子のように無垢な目からは少しも視線を逸らせない。
ただじっとその目を見つめ、彼の言葉を聞いた。

「でも、明日美を好きだと認めてしまったら、夢が叶わなくなるんじゃないかと怖くて認められなかったんだ」

両手を伸ばし、その顔に触れる。

「叶いますよ、きっと。
だって私が、絶対に叶えさせてみせますから」

少しだけ背を伸ばし、彼の唇に自分の唇を重ねた。
顔を離し、にっこりと部長に微笑みかける。

「……そうだな」

今度は目尻を下げた彼が唇を重ねてきた。
何度も重なるそれは、次第に熱を帯びたものへと変わっていく。
そしてとうとう、私が甘い吐息を落としたタイミングで侵入してきた。

「……ん、……んん」

部長が私に触れるたび、身体が歓喜で震える。
今日のキスは今までしたどのキスよりも甘く、――熱かった。

「……富士野、部長」

熱で浮かされた目で彼を見上がる。

「バカ、煽んな」

右の口端を持ち上げ、ニヤリと彼が笑う。
眼鏡を外した下からは熱く蕩けた瞳が出てきて、ドキリとした。
ベッドまで待てないらしく、そのままソファーに押し倒される。

「好き、富士野部長が好き」

彼に翻弄され、うわごとのように好きだと繰り返す。

「バカ、こういうときは名前で呼べ」

「でも……」

そうしたいのはやまやまだが、前に部長は自分の名前が嫌いだと言っていた。
ならば名前で呼ぶのは躊躇われる。

「いいんだ、明日美に呼ばれるなら受け入れられる」

「ああーっ」

彼に貫かれ、小さく悲鳴が漏れた。
そのまま余裕なく、ガツガツと身体を揺らされる。

「じゅん、いち、ろう、さん」

「ん?」

「準一朗さんを、愛してる」

あの日と違い、ちゃんと彼に愛を告げる。

「俺も明日美を愛してる」

その瞬間、深い幸福感が私を襲ってきた。
……ああ。
本当に好きな人に抱かれるのって、こんなに幸せなんだ。

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