【完結】2番ではダメですか?~腹黒御曹司は恋も仕事もトップじゃなきゃ満足しない~

霧内杳

最終章 私の一番は……2

翌日になって、さらに噂が増えた。
私はさせられただけで、命令したのは富士野部長だと。

「……なあ。
あの噂、聞いたか?」

「……ああ」

あちこちでこそこそと噂話がかわされ、社内の雰囲気は最悪だ。
しかし、当の本人はといえば。

「噂話もいいですが、稟議書が出てませんよ」

「は、はいっ!」

富士野部長に指摘され、弾かれたように男性社員が席へ向かう。

「現場流儀で発注書をあとで書くのはいいですが、それを忘れていたらお話になりません」

「す、すみません!」

さらに違う社員も指摘を受け、慌てて席へ戻る。

「皆さんも。
噂話をいくらしようとかまいませんが、仕事をおろそかにしないでくださいね」

全員を見渡して部長はにっこりと笑ったが、眼鏡の奥の目はちっとも笑っていない。
言葉遣いこそ対外モードだが、地が出かかっている。
あれはかなり、お怒りなんだろう。

「富士野くん、ちょっと」

「はい」

とうとう、部長は専務に呼ばれた。
たぶん、私と同じように上役たちに囲まれ、事情を聞かれるのだろう。

途中、私も別室に呼ばれた。
当然、富士野部長に命令されたのかと詰問されたが、否定する。
さらに、私も部長も他社に情報など流していないと主張した。
私はすぐに解放されたが、部長は終業時間を過ぎても帰ってこなかった。
どんな目に遭っているのか心配だ。

会社で彼を待つわけにもいかず、昨日のコーヒーショップに入る。
今日は少しでも頭を冷やそうと、アイスコーヒーにした。
きっとこれが、花恋さんの言っていた次の手だ。
部長にまで害がおよぶなんて、どうしたらいいんだろう。
私が、手を引くしかないのかな。
だいたい、私たちは愛のない偽婚約なんだし。

でもそれで、部長が花恋さんと結婚するのは嫌だな。
私が部長を好きだからっていうのもあるけれど、花恋さんと結婚したら部長、好きなことさせてもらえなさそうだもん。
あんなに楽しそうに夢を語っていたのに、あれが実現できないなんて嫌だ。

じゃあ、どうしたらいいのかな。
わかんない。
……わかんないよ。

不意に携帯が通知音を立て、画面を見る。
部長から、今から帰るとだけメッセージが入っていた。
慌てて、近くのコーヒーショップにいるから一緒に帰ると打ち返し、店を出た。

「わるいな、心配させて。
待っててくれたんだろ?」

車が走りだしてすぐ、部長の口から出たのはこれだった。

「大丈夫でしたか?
私、かなりつらかったので」

「そうだな。
かなり堪えたが、これに明日美も耐えたんだと思ったら、そっちのほうがつらかった」

苦しげに部長の顔が歪む。
やっぱり、こんなに優しい人につらい思いをさせるのは嫌だ。

「……これ全部、花恋さんが仕組んだことなんです」

「は?
待て待て待て。
話が飛躍しすぎている」

私の言葉に部長は混乱しているようだった。

「本人から聞いたんだから、間違いありません。
花恋さんに命令されて他社に情報を流し、噂を流している人がいます」

「だからなんで、アイツがそんなこと……あ」

なにかに気づいたのか、部長の顔が上がる。

「……俺と別れろと言われたのか」

その問いに黙ってこくんと頷いた。

「私、富士野部長と、婚約破棄しようと思います」

きっと私がいなくても、部長なら花恋さんとの結婚を断れるはず。
だいたい、それができるはずの部長が、そのために私と婚約者のフリをしようなんて提案してきたのが謎なのだ。

「ダメだ」

「でも」

「ダメだって言ったらダメだ」

なぜか部長がダメだと繰り返し、だんだんと腹が立ってくる。

「どうしてダメなんですか?
このままじゃさらに部長に迷惑がかかります」

「明日美が婚約破棄したら、アイツに結婚を迫られるだろうが。
どっちにしても迷惑がかかる」

「それは……」

確かに、花恋さんとの結婚を部長が断れるにしても、それなりに嫌な思いはするだろう。
でも、現状よりはずっとマシなはず。

「それに、こんな噂を流し、他社に情報を売ったヤツを見つければ、問題は解決だろ?」

「……は?」

ニシシと愉しそうに笑う部長を、思わず見上げていた。
この人はこんな状況でも、楽しんでしまうんだ。
そうだよね、会社を一流に押し上げて社長になるのが面白いゲームだって言うような人だもん。
この前向きさ、見習いたい。

「そう、ですね。
私も探します」

「ん、楽しくなってきたな!」

富士野部長を見ていたら、あんなに思い詰めていたのが莫迦らしくなってきた。
今は犯人捜しだけ考えよう。

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