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【完結】2番ではダメですか?~腹黒御曹司は恋も仕事もトップじゃなきゃ満足しない~

霧内杳

第五章 富士野部長の目標7

日々は一見、穏やかに進んでいく。

「開発部に打ち合わせに行ってきまーす!」

新商品の製品化も順調だ。

「お茶、意外といけますね!」

「まあ、よく考えたら抹茶オレもあるので、そんなに意外じゃないんですけどね」

ははっと自嘲するかのように開発部の男性社員が笑う。

「あとは製品テストをクリアするだけですね」

「絶対にクリアしてみせます!」

言い切る彼が頼もしい。
これに合格すれば、晴れて製品として売り出せる!

部長との同居生活も相変わらず続いていた。

「できたぞー。
テーブルの上、片付けろー」

「はーい」

部長の声を合図に、勉強道具を片付ける。
資格取得も継続中だ。

「そういえば最近、男性社員が妙に優しくしてくれるんですが、なんでなんでしょう?」

前は重いものを運んでいていてもスルーだったのに、最近はすぐに手を貸してくれる。
いや、別に今までだって頼めばやってくれたので問題はなかったが。
でも今は頼まなくてもやってくれるので、謎だ。

「……はぁーっ」

なぜか大きなため息をつき、部長が箸を置く。

「自覚ないのか?
それは明日美が、綺麗になったから、だ」

「……ハイ?」

説明されたところでやはりわからなくて、首が斜めに傾く。
確かに杏華さんの手ほどきのあとはメイクも上手くなったけれど、それくらいで?

「男ってそれくらい、けっこうチョロいの。
だから明日美も、警戒しろ」

そーかー、男の人って美人に弱いんだ。
まあ、女性だってイケメンに弱いからどっちもどっちだよね。
それにしても箸で人を指すのは行儀が悪くないですか?

「はぁ。
じゃあ、気をつけます……」

まだちょっと、納得してないけれど。

「うん。
というか明日美、油断しすぎ。
アイツも、アイツも明日美を狙ってるだろーが」

「へっ?」

部長が名前を出したのは、最近ちょいちょい社食でごはん食べていたら同席してくる人と、ときどきお菓子をくれる人だった。
偶然にしては頻度が高いなと思っていたし、内緒だよって言われるのが謎だったが、そうだったのか。
それにしても。

軽く怒ったまま食事を続けている部長をちらり。
もしかして、ヤキモチ妬いてくれている?
だったらいいな。

自分の気持ちを隠したまま、部長との生活を続ける。
今は、これでいいんだと思う。
いつか、聞いてくれるって言っていたし。
そう、思っていたんだけれど――。



「他社に情報が漏れているらしい」

新商品リリース直前になって、その噂が流れてきた。
私が企画したご当地クリームソーダとそっくりな商品を、競合他社が開発中だというのだ。

それだけでもどうなっているのかわからないのに、さらに。

「情報を流したのは企画したヤツらしい」

そんな噂まで流れだす。
当然、上役たちに呼ばれて事情を聞く……というよりも尋問された。
きっと、査問会というのはああいう感じなんだと思う。
上役たちに囲まれて、休みなく質問攻めにされたら「自分がやりました」って言いそうになった。
でも、やっていないことを認めるのは腹立たしいから、耐えたけれど。

「大丈夫か」

家に帰ったら富士野部長が、慰めるようにぎゅっと私を抱き締めてくれた。

「大丈夫ですよ。
だって私は、やってないんですから」

部長の腕の中は温かくて泣きそうになったが、必死に耐えた。
泣いたら、弱くなる。
この先、戦えなくなる。

「わかってる。
俺が犯人を見つけてやる」

「……はい」

大丈夫、私には富士野部長がいるから大丈夫。
絶対に、負けないんだ。


向こうに発表される前にこちらが発表する。
急ピッチで準備が進んでいく。
けれど、私が発案者だというのに、この件からは外された。
会社はまだ私を疑っているようで、憂鬱になった。
それだけならまだしも、さらに。

――私は命令されてやっただけで、黒幕は富士野部長だという噂が流れだした。

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