【完結】2番ではダメですか?~腹黒御曹司は恋も仕事もトップじゃなきゃ満足しない~
第五章 富士野部長の目標1
コンペの結果が出た翌日は、朝から富士野部長に連れ出された。
「どこに行くんですか?」
「んー、内緒」
今日は黒縁ハーフリム、車はSUVだ。
またショッピングかと思ったけれど、部長は買い物はだいたい家に来てもらうって言っていたから違うと思う。
……それに。
後部座席に鎮座するケーキの箱をちらりと見る。
家を出てすぐに、近くの洋菓子店に寄った。
そこで部長は大量にケーキを購入したのだ。
……実家、とか?
なら、納得できる。
お義母さんはセレブ仲間とよくお茶会を開くって言っていたし、ケーキの差し入れをしたら喜ばれそうだ。
一時間ほど走って着いたのは、タワーマンションだった。
玄関に入るとすぐにスーツ姿の男性が出てきて、部長が彼とひと言ふた言かわしただけで、中へと案内される。
エレベーターに乗り、部長は最上階である五十二階のボタンを押した。
「ええっと……」
「さっきのはここのフロントマン。
芸能人や大物政治家も住んでいるからな、ああいう取り次ぎがいるんだ」
壁に寄りかかり、階数表示を見たまま説明してくれるのはいいが、私の疑問はまったく解決していない。
ここがとんでもなくセレブマンションだっていうのはわかったけれど。
「こっちだ」
エレベーターはあっというまに最上階に着き、ドアが開く。
出て、部長の足で十歩ほど先にあるドアのインターフォンを彼は押した。
少しして、重そうにドアが開く。
その隙間から小さな女の子が顔を覗かせた。
「じゅんちゃん!」
「こら、響希!」
すぐに後ろから女性が追いついてきて、さらにドアを開ける。
「こんにちは、ねえさん」
「ようこそ、準くん」
「じゅんちゃん!
だっこ!
だっこ!」
「はいはい」
挨拶もそこそこに部長は女の子にせがまれ、抱き上げた。
「どうぞ、あがって」
「お、おじゃま、シマース」
私ごときがセレブなお宅にあがるなんて緊張する。
案内されてリビングに向かいながら前を歩くふたりを見る。
さっき、ふたりともにこやかに挨拶を交わしていたけれど、部長のほうは演技しているみたいだった。
なんでだろう?
「すぐにお茶淹れるから、ちょっと待っててねー」
「あ、ねえさん。
これ、よかったら」
キッチンへ向かおうとする彼女へ、部長が声をかける。
「まあ!
気を遣わなくてよかったのに。
ありがたくいただくわねー」
差し出された箱を受け取り、彼女は今度こそキッチンへ消えていった。
部長に勧められ、ソファーに座る。
部屋の中は部長のお宅と負けず劣らず広かった。
「じゅんちゃん。
うさたん!
うさたん、見て!」
「はいはい」
部長の腕から降りた女の子がうさぎのぬいぐるみを抱いてきて、部長に押しつける。
諦めたようにため息をつき、彼はそれを受け取った。
その間、私は完全においてけぼりだ。
たぶん、ここは部長のご兄姉の家、女の子の懐き方からいってよく来ているんだろうなっていうのは推測できた。
だからフロントもほぼスルーで入れたんだろうっていうのも。
しかし、謎はまだまだある。
「あの、部長?」
それでもこのわからない状況を説明してもらわなければどう振る舞っていいのかわからず、躊躇いつつも声をかけた。
「ああ。
これは姪の響希。
で、ここは……」
「じゅんちゃん!
うさたんすき?
うさたんすき?
ひびきもだーいすき!」
部長の膝によじ登った女の子――響希ちゃんが満面の笑みで部長の顔を見上げる。
「そうだ。
響希、お姉ちゃんにご挨拶しようか。
ほら」
それがいいアイディアだと思ったのか、部長が響希ちゃんを促したが。
「ヤダ」
ぷいっとそっぽを向かれてしまった。
「あー、えっと。
お姉ちゃんのほうから先に、ご挨拶したほうがいいかなー?」
とりあえず、適当に笑ってみる。
まあ、相手はまだ幼女だもんね。
もしかしたら人見知りするタイプなのかもしれないし。
「お姉ちゃんは紀藤明日美といいます。
富士野部長……じゅんちゃんの会社の人、です。
よろしくね?」
自己紹介してみたものの、響希ちゃんはちっともこっちを見てくれない。
これは完全に、ご機嫌を損ねちゃった……?
「こら、響希」
「ヤダ!
ヤーダ!」
響希ちゃんは部長の胸に額を擦りつけ、ヤダヤダと盛んに頭を振っている。
どうしていいのかわからずに、笑顔のまま固まった。
「おまたせー」
膠着した空気をぶち壊すかのように、妙にのんきな声が響いてくる。
先程の女性がカップののったトレイを運んできた。
「コーヒーでよかったかしら?」
「はい」
差し出されたカップを受け取る。
大人はコーヒーだが、響希ちゃんはジュースのようだった。
ストローの刺さったカップをもらい、彼女は部長の膝の上で大人しく、ジュースを飲みだした。
「改めて紹介するな。
こちら、兄の奥さんの杏華さん」
「はじめましてー」
ふわふわうふふと杏華さんが笑う。
それは、とても可愛らしくて、女性の私でもぽーっとなった。
「義姉さん、こちら俺の部下……婚約者の、紀藤明日美さん」
「は、はじめまして……!」
紹介されて我に返り、慌てて頭を下げる。
「こちらが例の、明日美さんね……!」
紹介を受けて杏華さんの目がキラキラと輝く。
「いろいろお話はうかがっているわ」
「ん、んんっ。
義姉さん」
これ以上話をされないようにか、咳払いをして部長は話を遮った。
「あらあら、うふふ」
それに対して杏華さんは、なぜか楽しそうだ。
「今日はよろしくねー。
コーヒー飲んだら早速、始めちゃいましょ?」
「ハイ……?」
悪戯っぽく杏華さんは笑っているが、なにをいったい始めるんですかね……?
「じゃあ準くん、響希をよろしくねー」
「わかりました。
こちらこそよろしくお願いします」
「あっ……」
コーヒーを飲んだあと、説明もないまま杏華さんに別室へと連行された。
「どこに行くんですか?」
「んー、内緒」
今日は黒縁ハーフリム、車はSUVだ。
またショッピングかと思ったけれど、部長は買い物はだいたい家に来てもらうって言っていたから違うと思う。
……それに。
後部座席に鎮座するケーキの箱をちらりと見る。
家を出てすぐに、近くの洋菓子店に寄った。
そこで部長は大量にケーキを購入したのだ。
……実家、とか?
なら、納得できる。
お義母さんはセレブ仲間とよくお茶会を開くって言っていたし、ケーキの差し入れをしたら喜ばれそうだ。
一時間ほど走って着いたのは、タワーマンションだった。
玄関に入るとすぐにスーツ姿の男性が出てきて、部長が彼とひと言ふた言かわしただけで、中へと案内される。
エレベーターに乗り、部長は最上階である五十二階のボタンを押した。
「ええっと……」
「さっきのはここのフロントマン。
芸能人や大物政治家も住んでいるからな、ああいう取り次ぎがいるんだ」
壁に寄りかかり、階数表示を見たまま説明してくれるのはいいが、私の疑問はまったく解決していない。
ここがとんでもなくセレブマンションだっていうのはわかったけれど。
「こっちだ」
エレベーターはあっというまに最上階に着き、ドアが開く。
出て、部長の足で十歩ほど先にあるドアのインターフォンを彼は押した。
少しして、重そうにドアが開く。
その隙間から小さな女の子が顔を覗かせた。
「じゅんちゃん!」
「こら、響希!」
すぐに後ろから女性が追いついてきて、さらにドアを開ける。
「こんにちは、ねえさん」
「ようこそ、準くん」
「じゅんちゃん!
だっこ!
だっこ!」
「はいはい」
挨拶もそこそこに部長は女の子にせがまれ、抱き上げた。
「どうぞ、あがって」
「お、おじゃま、シマース」
私ごときがセレブなお宅にあがるなんて緊張する。
案内されてリビングに向かいながら前を歩くふたりを見る。
さっき、ふたりともにこやかに挨拶を交わしていたけれど、部長のほうは演技しているみたいだった。
なんでだろう?
「すぐにお茶淹れるから、ちょっと待っててねー」
「あ、ねえさん。
これ、よかったら」
キッチンへ向かおうとする彼女へ、部長が声をかける。
「まあ!
気を遣わなくてよかったのに。
ありがたくいただくわねー」
差し出された箱を受け取り、彼女は今度こそキッチンへ消えていった。
部長に勧められ、ソファーに座る。
部屋の中は部長のお宅と負けず劣らず広かった。
「じゅんちゃん。
うさたん!
うさたん、見て!」
「はいはい」
部長の腕から降りた女の子がうさぎのぬいぐるみを抱いてきて、部長に押しつける。
諦めたようにため息をつき、彼はそれを受け取った。
その間、私は完全においてけぼりだ。
たぶん、ここは部長のご兄姉の家、女の子の懐き方からいってよく来ているんだろうなっていうのは推測できた。
だからフロントもほぼスルーで入れたんだろうっていうのも。
しかし、謎はまだまだある。
「あの、部長?」
それでもこのわからない状況を説明してもらわなければどう振る舞っていいのかわからず、躊躇いつつも声をかけた。
「ああ。
これは姪の響希。
で、ここは……」
「じゅんちゃん!
うさたんすき?
うさたんすき?
ひびきもだーいすき!」
部長の膝によじ登った女の子――響希ちゃんが満面の笑みで部長の顔を見上げる。
「そうだ。
響希、お姉ちゃんにご挨拶しようか。
ほら」
それがいいアイディアだと思ったのか、部長が響希ちゃんを促したが。
「ヤダ」
ぷいっとそっぽを向かれてしまった。
「あー、えっと。
お姉ちゃんのほうから先に、ご挨拶したほうがいいかなー?」
とりあえず、適当に笑ってみる。
まあ、相手はまだ幼女だもんね。
もしかしたら人見知りするタイプなのかもしれないし。
「お姉ちゃんは紀藤明日美といいます。
富士野部長……じゅんちゃんの会社の人、です。
よろしくね?」
自己紹介してみたものの、響希ちゃんはちっともこっちを見てくれない。
これは完全に、ご機嫌を損ねちゃった……?
「こら、響希」
「ヤダ!
ヤーダ!」
響希ちゃんは部長の胸に額を擦りつけ、ヤダヤダと盛んに頭を振っている。
どうしていいのかわからずに、笑顔のまま固まった。
「おまたせー」
膠着した空気をぶち壊すかのように、妙にのんきな声が響いてくる。
先程の女性がカップののったトレイを運んできた。
「コーヒーでよかったかしら?」
「はい」
差し出されたカップを受け取る。
大人はコーヒーだが、響希ちゃんはジュースのようだった。
ストローの刺さったカップをもらい、彼女は部長の膝の上で大人しく、ジュースを飲みだした。
「改めて紹介するな。
こちら、兄の奥さんの杏華さん」
「はじめましてー」
ふわふわうふふと杏華さんが笑う。
それは、とても可愛らしくて、女性の私でもぽーっとなった。
「義姉さん、こちら俺の部下……婚約者の、紀藤明日美さん」
「は、はじめまして……!」
紹介されて我に返り、慌てて頭を下げる。
「こちらが例の、明日美さんね……!」
紹介を受けて杏華さんの目がキラキラと輝く。
「いろいろお話はうかがっているわ」
「ん、んんっ。
義姉さん」
これ以上話をされないようにか、咳払いをして部長は話を遮った。
「あらあら、うふふ」
それに対して杏華さんは、なぜか楽しそうだ。
「今日はよろしくねー。
コーヒー飲んだら早速、始めちゃいましょ?」
「ハイ……?」
悪戯っぽく杏華さんは笑っているが、なにをいったい始めるんですかね……?
「じゃあ準くん、響希をよろしくねー」
「わかりました。
こちらこそよろしくお願いします」
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