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【完結】2番ではダメですか?~腹黒御曹司は恋も仕事もトップじゃなきゃ満足しない~

霧内杳

第三章 同じ時間を過ごしたふたり4

妙な展開から週が明けて。
私は会社で、そわそわと落ち着かなかった。

「結果が発表されました。
営業部からは紀藤さんの案が一次審査を通過しました」

夕方になり、立ち上がった富士野部長が皆に聞こえるように発表する。

「え……?」

今、私の案が通過したって聞こえた気がするですが、気のせいでしょうか……?

「おめでとうございます、紀藤さん」

席まで来た部長が、祝うように私の肩をぽんぽんと叩く。

「あ、ありがとう、ござい……ます」

それでようやく、実感が湧いてきた。
部長からは絶対に採用されろと脅されていたし、そのための努力もした。
それでも、私の案なんて……と、自信がなかったのも否めない。
なのに、一次を通過したなんて。

じわりと嬉しさで涙が滲んでくる。
しかしまだ採用されたわけではないのだ。
感動で泣くのは、今じゃない。

「私も見せてもらいましたが、よい企画書でした。
次のプレゼンも突破して、正式な商品になるように頑張りましょう」

優しい笑顔で褒められ、気分があがっていく。

「はい!
頑張ります!」

こんなふうに部長に褒められたら、頑張るしかないな!
などと誓った数時間後。

「明日美!
なんだあの、企画書は!」

会社でのあの優しい富士野部長はどこへやら。
家に帰った途端、めっちゃ怒られた。

「データは不足してるわ、誤字脱字は多いわ。
このあいだ、検定試験に受かったのはただのまぐれか?」

「ううっ」

もっともな指摘なだけに反論できない。

「で、でも。
試験詰まってて余裕なかったですし……」

それでも言い訳したのがマズかった。

「はぁっ?
いい女ならどんなときでも最善を尽くすのが当たり前だろうが」

「うっ」

はぁっと呆れたように短くため息をつかれ、さらに言葉に詰まる。

「次のプレゼンは俺も手伝ってやるから、完璧にするぞ。
他のヤツなんか蹴散らして、明日美のが採用だ」

にかっと実にいい笑顔で部長が笑う。

「はい!」

それで今までけちょんけちょんに言われたのが帳消しになっている私って、チョロいんだろうか。

「でもまあ、着眼点はよかった。
ご当地クリームソーダ、か。
面白いこと考えるな」

こほんと小さく咳払いをしたあと、部長はなぜか私から目を逸らした。
照れているように見えるが、なんでだろう?

「前に富士野部長と観光に行って、食べ歩きしたじゃないですか。
あのとき食べた、ソフトクリームが美味しくて。
そういえば観光地行ったらだいたい、ご当地のソフトクリームがあるなって気づいたんです。
ソフトクリームをジュースにするのは難しいので、クリームソーダならいけるんじゃないかと思いつきました」

地元のいちごに、クリームソーダ定番のメロン。
あとはブルーベリーやキワモノでお茶なんかも出してみた。
自分としては面白いと思っていたが、こうやって部長に褒められると嬉しくなってくる。

「そうか。
観光、行ってよかったな」

「はい。
連れていってくださり、ありがとうございます」

部長の手が伸びてきて、私の頭をくしゃくしゃと撫でる。
眼鏡の陰にはくしゃっと笑い皺がのぞいていた。

「ええっと。
……部長?」

「えっ、……ああ」

困惑気味な私の声で自分の行為に気づいたのか、部長の手が離れる。

「明日美は可愛いなー、と思って」

「はぁ」

「食事の準備をしよう。
ある材料でできるものだったら、なんでも作ってやる」

などと言いながら、足早に部長がキッチンへと向かっていく。

「あっ、だったらこのあいだの、たらこパスタが食べたいです!」

「たらこがあったらなー。
明日美はできるまで、プレゼン資料を考えてろ」

一度はキッチンへ引っ込んだのに、再び顔を出して釘を刺してくる。

「りょーかいでーす!」

ひとりになり、なぜか肩から力が抜けた。
私、なにに緊張していたんだろう……?
それにしても、〝可愛い〟って。
部長が私を可愛いって言ってくれた。
それがこんなに嬉しいのって、私が部長を好きだからなんだろうか……?

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