【完結】2番ではダメですか?~腹黒御曹司は恋も仕事もトップじゃなきゃ満足しない~
第二章 投資の理由5
そのあともいつぞやのように何軒ものお店をはしごさせられた。
「投資はいいですが、こんなに買ってどうするんですか」
散々買い物をして気が済んだのか、ぷらぷら歩きながらアウトレットモールを出る。
全部送りにしたので実感はないが、どこのお店でも少なくて1ラックは買っていた。
かなりの数になっているはずだ。
このあいだだってしばらくは毎日違う服が着られそうってくらい、買ったのに。
「ん?
紀藤は可愛いから、つい買いたくなるんだよなー」
「……可愛い」
さらりと可愛いなんて言われて、ほのかに頬が熱くなっていく。
家族と裕司さん以外の男性に、可愛いなんて言われたのは初めてだ。
「私は可愛い、ですか?」
「紀藤は可愛いに決まってんだろ」
即答されたうえに、むにっと鼻を摘ままれた。
「痛いです……」
ヒリヒリと痛む鼻を私が押さえ、部長は笑っている。
「あとは化粧と髪型をどうにかすれば、見た目は最高になるけどな。
まあ、そっちも考えてあるから任せておけ」
自信満々に部長が頷く。
彼がそう言うのなら、なにか策があるのだろう。
アウトレットでのお買い物でお腹に余裕もでき、少し早めの夕食で鰻屋に連れてきてくれた。
「うな重ってやっぱり、鰻があってこそですよね」
個室で、近くで獲れる国産鰻をいただく。
鰻は肉厚だがふわふわ柔らかく、最高だった。
「なに当たり前のこと言ってるんだ?
鰻がなかったらうな重じゃないだろうが」
しみじみと鰻を噛みしめる私に、なに莫迦なことを言ってるんだって感じで部長が言ってくる。
「あー……。
このあいだ、どーしても鰻が食べたくなったんですがお金なくて、ご飯に鰻のタレだけかけたのと、松茸のお吸い物で済ませたんですよねー。
あれはあれで美味しかったですが」
「お前、鰻が食べられないほど、貧乏なのか?」
私の発言で、大きな口を開けて鰻を頬張ろうとしていた部長が止まる。
「あ、いや、別に、そこまで貧乏なわけじゃないですよ。
会社からはしっかり、お給料もらっていますし。
ただ、本につぎ込んだのとお給料日直前だったので、お財布の中身がすっからかんだっただけで」
笑って、理由を説明する。
私の趣味は読書で、恋愛小説からビジネス書まで興味が湧いたものはなんでも読む。
さすがに最近は置き場に困って電子書籍に切り替えたので、部長の家でも勉強の息抜きにタブレットで楽しんでいた。
「ふーん。
本ってなにを読んでるんだ?
まんがか?」
心配がなくなったからか、また食べながら部長が聞いてくる。
「そうですね、まんがも小説も読みます。
最近読んだのは、映画化されたあの経済小説ですね」
「あれか。
俺も読んだ。
映画は観たか?」
「それが、都合があわなくて、見に行けないうちに終わってしまって」
「そうか。
なら、今度家で一緒に観よう」
嬉しそうに部長が頷く。
彼が、一緒の本を読んでいるなんて思わなかった。
経済小説なのでビジネスマンの彼ならその可能性もあるが、あれはどちらかというとエンタメ色が強いのだ。
もしかしたら本の趣味があうのかも。
今度、どんな本を読んでいるのか聞いてみようかな。
美味しい鰻を堪能して店を出る。
たまに食べる安い鰻よりこっちのほうが断然美味しくて、ほんとに同じ鰻なのか疑いたくなった。
そのまま、また歩いて今朝のホテルから帰りもヘリコプターに乗る。
「はぁーっ、帰ったらコンペの書類、作らないとですね……」
今日の食べ歩きでなにかが掴めた気がする。
いいアイディアを出して、せめて一次審査は通過したい。
「紀藤なら絶対、採用されるアイディアが出せるだろ」
なぜか自信満々に言いきり、部長がプレッシャーをかけてくる。
これは、責任重大だ。
「外、見てみろ」
コンペのアイディアをぐるぐると考えていたところに声をかけられ、窓の外を見る。
眼下には街の明かりが、地上の星のように煌めいていた。
「綺麗……!」
「これを一番、見せたかったんだ」
私の肩越しに、部長も一緒に夜景を眺めている。
ふわりと、甘いラストノートの香りが私を包む。
すぐ近くに感じる彼の体温にどきどきした。
「富士野、部長?」
「ん?」
僅かに首を傾け、不思議そうに彼が私の顔を見る。
「あっ、えっと。
……なんでもない、です」
結局、なにも返せずにもじもじと俯いた。
今の台詞はいったい、なんだったんだろう。
まるで、好きな人相手のような。
部長にとって私は、ただの部下、で。
きっと私を磨いてくれているのは、似た境遇の私をただ同情してくれているだけ、で。
それ以上の理由なんてないはずだ。
ヘリポートが近づき、シートに座り直した彼を盗み見る。
私が彼の描く最高の女性になれたなら。
部長は私を、意識してくれるんだろうか。
なぜか、そんなことを考えていた。
「投資はいいですが、こんなに買ってどうするんですか」
散々買い物をして気が済んだのか、ぷらぷら歩きながらアウトレットモールを出る。
全部送りにしたので実感はないが、どこのお店でも少なくて1ラックは買っていた。
かなりの数になっているはずだ。
このあいだだってしばらくは毎日違う服が着られそうってくらい、買ったのに。
「ん?
紀藤は可愛いから、つい買いたくなるんだよなー」
「……可愛い」
さらりと可愛いなんて言われて、ほのかに頬が熱くなっていく。
家族と裕司さん以外の男性に、可愛いなんて言われたのは初めてだ。
「私は可愛い、ですか?」
「紀藤は可愛いに決まってんだろ」
即答されたうえに、むにっと鼻を摘ままれた。
「痛いです……」
ヒリヒリと痛む鼻を私が押さえ、部長は笑っている。
「あとは化粧と髪型をどうにかすれば、見た目は最高になるけどな。
まあ、そっちも考えてあるから任せておけ」
自信満々に部長が頷く。
彼がそう言うのなら、なにか策があるのだろう。
アウトレットでのお買い物でお腹に余裕もでき、少し早めの夕食で鰻屋に連れてきてくれた。
「うな重ってやっぱり、鰻があってこそですよね」
個室で、近くで獲れる国産鰻をいただく。
鰻は肉厚だがふわふわ柔らかく、最高だった。
「なに当たり前のこと言ってるんだ?
鰻がなかったらうな重じゃないだろうが」
しみじみと鰻を噛みしめる私に、なに莫迦なことを言ってるんだって感じで部長が言ってくる。
「あー……。
このあいだ、どーしても鰻が食べたくなったんですがお金なくて、ご飯に鰻のタレだけかけたのと、松茸のお吸い物で済ませたんですよねー。
あれはあれで美味しかったですが」
「お前、鰻が食べられないほど、貧乏なのか?」
私の発言で、大きな口を開けて鰻を頬張ろうとしていた部長が止まる。
「あ、いや、別に、そこまで貧乏なわけじゃないですよ。
会社からはしっかり、お給料もらっていますし。
ただ、本につぎ込んだのとお給料日直前だったので、お財布の中身がすっからかんだっただけで」
笑って、理由を説明する。
私の趣味は読書で、恋愛小説からビジネス書まで興味が湧いたものはなんでも読む。
さすがに最近は置き場に困って電子書籍に切り替えたので、部長の家でも勉強の息抜きにタブレットで楽しんでいた。
「ふーん。
本ってなにを読んでるんだ?
まんがか?」
心配がなくなったからか、また食べながら部長が聞いてくる。
「そうですね、まんがも小説も読みます。
最近読んだのは、映画化されたあの経済小説ですね」
「あれか。
俺も読んだ。
映画は観たか?」
「それが、都合があわなくて、見に行けないうちに終わってしまって」
「そうか。
なら、今度家で一緒に観よう」
嬉しそうに部長が頷く。
彼が、一緒の本を読んでいるなんて思わなかった。
経済小説なのでビジネスマンの彼ならその可能性もあるが、あれはどちらかというとエンタメ色が強いのだ。
もしかしたら本の趣味があうのかも。
今度、どんな本を読んでいるのか聞いてみようかな。
美味しい鰻を堪能して店を出る。
たまに食べる安い鰻よりこっちのほうが断然美味しくて、ほんとに同じ鰻なのか疑いたくなった。
そのまま、また歩いて今朝のホテルから帰りもヘリコプターに乗る。
「はぁーっ、帰ったらコンペの書類、作らないとですね……」
今日の食べ歩きでなにかが掴めた気がする。
いいアイディアを出して、せめて一次審査は通過したい。
「紀藤なら絶対、採用されるアイディアが出せるだろ」
なぜか自信満々に言いきり、部長がプレッシャーをかけてくる。
これは、責任重大だ。
「外、見てみろ」
コンペのアイディアをぐるぐると考えていたところに声をかけられ、窓の外を見る。
眼下には街の明かりが、地上の星のように煌めいていた。
「綺麗……!」
「これを一番、見せたかったんだ」
私の肩越しに、部長も一緒に夜景を眺めている。
ふわりと、甘いラストノートの香りが私を包む。
すぐ近くに感じる彼の体温にどきどきした。
「富士野、部長?」
「ん?」
僅かに首を傾け、不思議そうに彼が私の顔を見る。
「あっ、えっと。
……なんでもない、です」
結局、なにも返せずにもじもじと俯いた。
今の台詞はいったい、なんだったんだろう。
まるで、好きな人相手のような。
部長にとって私は、ただの部下、で。
きっと私を磨いてくれているのは、似た境遇の私をただ同情してくれているだけ、で。
それ以上の理由なんてないはずだ。
ヘリポートが近づき、シートに座り直した彼を盗み見る。
私が彼の描く最高の女性になれたなら。
部長は私を、意識してくれるんだろうか。
なぜか、そんなことを考えていた。
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