【完結】2番ではダメですか?~腹黒御曹司は恋も仕事もトップじゃなきゃ満足しない~

霧内杳

第二章 投資の理由3

毎日、夜は十時に寝て、朝は五時に起こされる。
部長が世話を焼いてくれるので、私は勉強に集中した。
そして次の土曜日。

「今日は出掛けるぞ」

「えー」

朝活あとの朝食で言われ、つい不満の声が出たが仕方ない。
だって来週には表計算とワープロソフトの検定が控えている。
とはいえ、日常的に使っているものなので、私がきっちり理解していれば問題はないのだけれど。
でも、コンペの案もまだ出ていないし、休日は有効に使いたかった。

「……なんか文句あるのか」

じろりと黒縁ハーフリムの奥から、富士野部長が私を睨みつける。

「いえ……」

曖昧に笑って文句は飲み込んだ。
部長の決定になにを言ったって無駄なのだ。

朝食後、店が開くにはまだまだ早い時間に車で連れ出される。
着いたのは――ヘリポートだった。

「さっさと乗れ」

「あっ」

ぽけっとヘリコプターを見上げていたら、ぽーいっと中に放り込まれた。
高所恐怖症ではないが初めて乗るヘリコプターは落ち着かず、大人しくシートに座る。

「あの」

「なんだ?」

部長はヘリコプターに乗るのが日常茶飯事なのか、暇そうに外を見ていた。

「失礼を承知のうえでお尋ねしますが、……富士野部長の収入ってどうなってるんですか?」

父親が大企業のCEOだというのは聞いた。
しかしこの部長が、親から援助を受けているとかなさそうな気がする。
だとしたら収入はお給料になるのだが、何度も言うが我が社は二流企業なので、部長といえどもそこまで高給ではない。

「投資と不動産収入」

怒られるのも覚悟していたが、窓の外を見たまま普通に答えてくれた。

「不動産だけで会社からもらう給料以上の収入があるから働かなくてもいいんだが、今の会社を超一流企業に押し上げて社長になるっていう面白いゲー……」

そこまで言って部長は、誤魔化すように咳払いをした。

「……目標があるからな。
だから仕事を辞める気はない」

今、〝面白いゲーム〟って言いかけましたか?
そーかー、部長にとって仕事はゲームなのか。
やっぱり、部長の考えはさっぱりわからない。

一時間ほどの空の旅で着いたのは、リゾート地にあるホテルだった。

「ええっと、富士野部長?
ここでなにを……?」

「観光」

「……観光?」

言われた言葉が理解できなくて、思わず繰り返してしまう。

「今、観光って言いましたか?」

「ああ」

さっさと歩きだした部長のあとを追う。
私にあれだけの資格試験の命令を出しておいて、のんきに観光?
こっちはコンペの案が出なくてうんうん唸っているのに、ただの観光?
私の都合を考えない富士野部長に、ふつふつと怒りが湧いてくる。

「……あのですねぇ」

私から出た声は、恐ろしく低かった。

「すぐに弱音を吐いて文句言うかと思ったのに、紀藤は黙って頑張ってただろ?
だからご褒美。
あと、気分転換したほうがコンペのいいアイディアも出る」

一歩前で立ち止まった彼が、どんな顔をしているかなんてわからない。
ただ、その眼鏡の弦がかかる耳が、真っ赤になっているのに気づいてしまった。

……もしかして、照れている?
でも、なんで?

「それは……ありがとうございます」

しかし、そんな気遣いが嬉しくないかといえば嘘になる。
それに来週の試験はさほど、切羽詰まっているわけでもない。

「うん」

一緒に並んで歩きだす。
今度は、私の歩幅にあわせてくれた。

そのあとは……食べ歩きに連れ回された。

「ソフトクリームって、もっと食べたいですよね……」

近くのソフトクリーム店で、ご当地のブルーベリーソフトを食べる。
濃厚なミルクとブルベリーの酸味が相まって、最高だ。

「じゃあもっと食べるか?」

「いやいや、夢であって一個でいいですって!」

本気で追加して買いそうな部長を慌てて止める。
たくさん食べたいが、とりあえずは一個で十分だ。

「遠慮しないでいいのに。
なら、次行くか」

食べ終わったゴミを捨て、部長が私の手を引っ張る。

「え……」

これで意識してしまうのって、私が男性と付き合ったことがないからかな……?

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