【完結】2番ではダメですか?~腹黒御曹司は恋も仕事もトップじゃなきゃ満足しない~
第二章 投資の理由1
昨日と同じアラームの音で目が覚めた。
「サクラ、ストップ」
隣から聞こえてきた声で、アラームが止まる。
静かになって二度寝を決め込もうとしたものの。
「おら、起きろ!」
……無情にも富士野部長から布団を引っぺがされた。
「……起きろって何時ですか……?」
眠い目を擦りつつ携帯で時間を確認する。
「まだ五時じゃないですか……」
いくらなんでも早すぎる。
とはいえ昨晩は「俺はもう寝るからお前も寝ろ」って強制的に十時にベッドへ入れられたので、睡眠は足りているんだけれど。
いや、なぜか同じベッドに連れ込まれたので落ち着かず、ぐっすり眠れなかったというのはある。
「早く起きてできた時間で勉強するに決まってんだろうが」
「あいたっ」
その長い指でデコピンされ、痛む額を押さえる。
しかしそれで、完全に目が覚めた。
並んで歯磨きをして顔を洗ったあとは、ダイニングテーブルで向かいあって勉強をする。
「今日はとりあえずこれ読んどけ」
富士野部長から渡されたのは、経済学の本だった。
「わかりました」
受け取ったものの、これがどう私が最高の女性になるために結びつくのかわからない。
なんの説明もないまま部長は私の前で、タブレットを見ている。
「ええっと、富士野部長?
これがどう、私の役に立つんですか?」
「いい女は中身もいい女に決まってんだろ。
紀藤は俺の指示に従ってればいいんだ。
つべこべ言わずにそれを読め」
タブレットに視線を向けたまま、邪険に彼が言い放つ。
「はぁ……」
納得はしてないが、これ以上聞いても無駄なので諦めた。
昨日も何度か同じように聞いたけれど、しつこく食い下がると最後には「キスするぞ」って脅される。
そうなれば、黙るしかないわけで。
そういう理由でどうして同じベッドなのか謎のままだ。
黙々と渡された本を読み、部長が作ってくれた朝食を食べて出勤の準備をする。
「服はこれな」
昨日買った服の中から部長が選んで渡してくる。
少しだけ持ってきた服は、ここに来て速攻で捨てられた。
『最高の女にこんなダサい服はいらない』
それに対して反論できたかといえば、自分に服のセンスがないのはわかっていたのでなにも言えなかった。
「その、化粧をしないほうがマシなメイク、どうにかしないとな」
「うっ」
自分でも自覚があるだけに、部長の言葉がぐさりと胸に突き刺さる。
姉の結婚式は美容院でそこまで全部してもらったのでよかったが、私はメイクが苦手なのだ。
しかも裕司さんの「化粧をしなくても可愛い」との言葉を真に受けて社会人になるまでノーメイクだったとなれば、救いようがなかった。
部長の車で一緒に出勤する。
会社で目立たないためか、出勤は国内メーカーの白のセダンだった。
「眼鏡、変えるんですね」
「仕事なんですから、当たり前ですよね」
部長の上げた眼鏡が得意げに光る。
運転する彼の眼鏡は、会社で見慣れた銀縁オーバルになっていた。
ついでに、言葉遣いまで家とは変わっている。
眼鏡にオンオフのスイッチでも付いているんだろうか。
ひょんなことから富士野部長との同棲生活が始まったが、仕事はいつもどおりだった。
「これ。
また品証部に無断でベタ付け、しましたね」
私と同期の男性社員を呼び、富士野部長の注意が始まる。
ちなみに品証部は品質保証部、ベタ付けとは商品に付いてくるおまけのことだ。
「でも、ある程度は営業部裁量が許されてますし」
注意を受けているというのに、男性社員は完全にふて腐れていた。
「品証部を通せばこんなマスコットシールではなく、保冷バッグが付けられましたよね?
それでもっと大々的にキャンペーンが打てたはずです」
「そう、です、ね……」
最初は食い気味に反論していた彼も、部長のもっともな指摘で次第に落ち込んでいく。
「でも、こうやって切り込んでいく姿勢はいいと思います。
けれど、その場の勢いに流されずに、一度立ち止まって最大限の効果を上げるにはどうしたらいいか、考えるようにしましょう」
にっこりと部長が、彼に笑いかける。
「はい!
これから気をつけるようにします!」
勢いよく頭を下げ、こちらを振り返った彼はすっきりとした顔をしてた。
これが、富士野マジックなのだ。
注意はする、けれどそれだけじゃなくどこか絶対に褒める。
しかも柔らかい物言いで、最後ににっこり笑顔とくれば、反発していた人も落ちる。
――しかし。
……家とは別人、だよね。
黒縁ハーフリムの部長は人の話、聞いてくれないし。
同じ人だとは思えない。
「紀藤さん、これ発注頼む」
「わかりました」
営業社員から注文書を受け取り、発注をかけていく。
営業事務の私の仕事は、伝票切ったり発注かけたりという雑用が主な仕事だ。
入社二年も経てばすっかり慣れた。
上昇志向なんてない私は、このままそつなく仕事をこなし、生きていくのに少し余裕のあるお給料さえもらえればいいなんて考えていた。
「そういえば社内コンペの話聞いたか」
「誰でも参加OKなんだろ」
少し離れた場所で話している男性社員の声が聞こえる。
職場では今日は発表された、新商品の社内コンペの話で持ちきりだった。
採用されたら金一封出るとなると、誰もが浮ついてしまう。
そういう私はコンペに関心などなく、いつもどおり仕事をこなしていた。
「サクラ、ストップ」
隣から聞こえてきた声で、アラームが止まる。
静かになって二度寝を決め込もうとしたものの。
「おら、起きろ!」
……無情にも富士野部長から布団を引っぺがされた。
「……起きろって何時ですか……?」
眠い目を擦りつつ携帯で時間を確認する。
「まだ五時じゃないですか……」
いくらなんでも早すぎる。
とはいえ昨晩は「俺はもう寝るからお前も寝ろ」って強制的に十時にベッドへ入れられたので、睡眠は足りているんだけれど。
いや、なぜか同じベッドに連れ込まれたので落ち着かず、ぐっすり眠れなかったというのはある。
「早く起きてできた時間で勉強するに決まってんだろうが」
「あいたっ」
その長い指でデコピンされ、痛む額を押さえる。
しかしそれで、完全に目が覚めた。
並んで歯磨きをして顔を洗ったあとは、ダイニングテーブルで向かいあって勉強をする。
「今日はとりあえずこれ読んどけ」
富士野部長から渡されたのは、経済学の本だった。
「わかりました」
受け取ったものの、これがどう私が最高の女性になるために結びつくのかわからない。
なんの説明もないまま部長は私の前で、タブレットを見ている。
「ええっと、富士野部長?
これがどう、私の役に立つんですか?」
「いい女は中身もいい女に決まってんだろ。
紀藤は俺の指示に従ってればいいんだ。
つべこべ言わずにそれを読め」
タブレットに視線を向けたまま、邪険に彼が言い放つ。
「はぁ……」
納得はしてないが、これ以上聞いても無駄なので諦めた。
昨日も何度か同じように聞いたけれど、しつこく食い下がると最後には「キスするぞ」って脅される。
そうなれば、黙るしかないわけで。
そういう理由でどうして同じベッドなのか謎のままだ。
黙々と渡された本を読み、部長が作ってくれた朝食を食べて出勤の準備をする。
「服はこれな」
昨日買った服の中から部長が選んで渡してくる。
少しだけ持ってきた服は、ここに来て速攻で捨てられた。
『最高の女にこんなダサい服はいらない』
それに対して反論できたかといえば、自分に服のセンスがないのはわかっていたのでなにも言えなかった。
「その、化粧をしないほうがマシなメイク、どうにかしないとな」
「うっ」
自分でも自覚があるだけに、部長の言葉がぐさりと胸に突き刺さる。
姉の結婚式は美容院でそこまで全部してもらったのでよかったが、私はメイクが苦手なのだ。
しかも裕司さんの「化粧をしなくても可愛い」との言葉を真に受けて社会人になるまでノーメイクだったとなれば、救いようがなかった。
部長の車で一緒に出勤する。
会社で目立たないためか、出勤は国内メーカーの白のセダンだった。
「眼鏡、変えるんですね」
「仕事なんですから、当たり前ですよね」
部長の上げた眼鏡が得意げに光る。
運転する彼の眼鏡は、会社で見慣れた銀縁オーバルになっていた。
ついでに、言葉遣いまで家とは変わっている。
眼鏡にオンオフのスイッチでも付いているんだろうか。
ひょんなことから富士野部長との同棲生活が始まったが、仕事はいつもどおりだった。
「これ。
また品証部に無断でベタ付け、しましたね」
私と同期の男性社員を呼び、富士野部長の注意が始まる。
ちなみに品証部は品質保証部、ベタ付けとは商品に付いてくるおまけのことだ。
「でも、ある程度は営業部裁量が許されてますし」
注意を受けているというのに、男性社員は完全にふて腐れていた。
「品証部を通せばこんなマスコットシールではなく、保冷バッグが付けられましたよね?
それでもっと大々的にキャンペーンが打てたはずです」
「そう、です、ね……」
最初は食い気味に反論していた彼も、部長のもっともな指摘で次第に落ち込んでいく。
「でも、こうやって切り込んでいく姿勢はいいと思います。
けれど、その場の勢いに流されずに、一度立ち止まって最大限の効果を上げるにはどうしたらいいか、考えるようにしましょう」
にっこりと部長が、彼に笑いかける。
「はい!
これから気をつけるようにします!」
勢いよく頭を下げ、こちらを振り返った彼はすっきりとした顔をしてた。
これが、富士野マジックなのだ。
注意はする、けれどそれだけじゃなくどこか絶対に褒める。
しかも柔らかい物言いで、最後ににっこり笑顔とくれば、反発していた人も落ちる。
――しかし。
……家とは別人、だよね。
黒縁ハーフリムの部長は人の話、聞いてくれないし。
同じ人だとは思えない。
「紀藤さん、これ発注頼む」
「わかりました」
営業社員から注文書を受け取り、発注をかけていく。
営業事務の私の仕事は、伝票切ったり発注かけたりという雑用が主な仕事だ。
入社二年も経てばすっかり慣れた。
上昇志向なんてない私は、このままそつなく仕事をこなし、生きていくのに少し余裕のあるお給料さえもらえればいいなんて考えていた。
「そういえば社内コンペの話聞いたか」
「誰でも参加OKなんだろ」
少し離れた場所で話している男性社員の声が聞こえる。
職場では今日は発表された、新商品の社内コンペの話で持ちきりだった。
採用されたら金一封出るとなると、誰もが浮ついてしまう。
そういう私はコンペに関心などなく、いつもどおり仕事をこなしていた。
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