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【完結】2番ではダメですか?~腹黒御曹司は恋も仕事もトップじゃなきゃ満足しない~

霧内杳

第一章 一番にはなれない私5

話が終わったあと、部長はマンションまで私を送ってくれた。

「あの。
今日も眼鏡、違うんですね」

「ん?
ああ」

部長の車は黒のSUVだった。
車体に付いているエンブレムはドイツの有名スポーツカーメーカーのものだ。
たぶん、社長の乗っている高級外車Cクラスよりも高い。

「こっちはプライベートで、会社でかけているのは仕事用」

「そうなんですね」

今日も彼は、黒縁ハーフリムの眼鏡をかけている。
さらにスリムフィットのVネック黒カットソーと白のスキニーパンツがそのスタイルのよさを強調していた。

「聞きたいのはそれだけか」

「えっ、あっ」

意地悪く、ニヤッと彼が笑う。
おかげで頬がかっと熱くなった。
たぶん、私が気になっていることなんてお見通しなんだ。

「会社のであれは対外用で、こっちが素に近い俺」

聞かなくても部長が、私の疑問に答えてくれる。

「それって、演技しているってことですか?」

私たちは部長にずっと欺かれていた?
ジェントルなんて呼んで慕っている私たちは、さぞ滑稽だっただろう。

「いや?
言葉遣いが違うだけで、特に演技とかしてないぞ。
いつも敬語なのは敵を作らないためだな」

「ああ……」

それは心当たりがあるだけに、納得だった。
私の直属の上司である生野いくの課長は富士野部長よりも十も年上で、なにかと敵対心を抱いている。

「大変、ですね」

「まあな」

その割に彼の声は、軽かった。

一時間ほどかかって私の住んでいるマンションに着いた。

「いろいろありがとうございました。
それじゃあ」

「五分で準備しろ」

「……は?」

唐突になにを言われたのかわからなくて、まじまじと彼の顔を見る。

「今日から俺の家で生活できるように、五分で準備してこい」

「えっと……?」

部長の家で生活とか聞いていないし、それに五分で準備なんて無理に決まっている。

「300。
299,298……」

「えっ、待って!」

戸惑っている私を無視して、無情にもカウントダウンが始まる。
なにもわからないまま慌てて車を飛び降り、自分の部屋へ向かった。

「おまたせしました……」

キャリーケースを出す余裕もなく、手近にあった紙袋に必要最低限の着替えと化粧品などを詰め込んで車に戻る。

「遅い」

車に寄りかかり、腕を組んで待っていた部長は私の手から紙袋を取り、トランクに詰んだ。
遅いと言われても、たった五分で準備してこいなんて言うほうが間違っている。

「服とか生活用品とか買うからいらない。
着替えてくるだけでいいのに、どうして十五分もかかるんだ」

「そんなの、聞いてませんよ!」

自分勝手な言い草に、つい噛みついていた。
最初からそう言ってくれていれば、五分は無理でももっと早く戻ってこられていた。

「聞いてないなら、聞け。
一から十まで説明してくれるとは思うな」

どういうことなのか聞こうとしたのに、カウントダウンを始めたのは部長だ。
なのにこれって。

「聞く隙を与えてくれなかったのは誰ですか!?」

「そうだっけ?」

涼しい顔で彼は車を出し、頭が痛い。
部長は会社では演技をしているわけではないと言っていたが、嘘だ。
絶対に猫かぶっている。

そのまま部長の家にUターン……ではなく、お洒落なセレクトショップに連れていかれた。
彼が店員とひと言ふた言話しただけで、裏の個室へと案内される。
コーヒーが出され、それを飲んでいるあいだにいくつもの商品が運び込まれた。

「着てみろ」

「はぁ……」

部長から渡された服を手に試着室へ入る。
スキッパーカラーのブラウスにベージュのワイドパンツなんて、普段の私なら絶対に着ない。

「どうですか……?」

「ん、次」

着替えてカーテンを開けたら、一瞥だけして部長がすぐに別の服を押しつけてくる。
それはしばらく続き、終わった頃にはぐったりと疲れて新たに入れられたコーヒーを啜っていた。

「こっちのラックの服と、靴は買います。
あとはいいです」

と、部長が指した先には、ラックが二台と靴も十足ばかり並んでいた。

「富士野部長!
買いとか言われても、私そんなにお金は……!」

ちらりと見た値札には、勝負服でもなければ買わないような金額が書いてあった。
それを、しかもあんな枚数買えるわけがない。

「俺が買うんだからいいだろ」

「あっ……」

それ以上なにも言わせず、部長はさっさと会計をしてしまった。

「買ってもらう理由がありません」

少し前を歩く彼を追いながら、抗議する。

「投資」

「投資って、なんの!?」

「紀藤をいい女にするための投資」

「意味がわかりません!」

しかしいくら言ったところで部長にはまったく聞いていない。
そのうち、ぴたりと足を止めた彼は振り返り、私を見下ろした。

「いい加減にそのうるさい口を塞がないと、……キス、するぞ?」

腰を少し屈めて顔を近づけ、むにっとその手で私の頬を潰してくる。
本気でキスされそうな気がして、心理的に一歩後ろに下がっていた。

「……黙ります」

「わかったらなら、いい」

私から手を離し、再び歩きだした彼を追う。
こんなことをして彼になにか得があるんだろうか。
私にはさっぱりわからない。

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