【完結】2番ではダメですか?~腹黒御曹司は恋も仕事もトップじゃなきゃ満足しない~
第一章 一番にはなれない私4
「着替え、置いとくな」
「あっ、はい!」
声をかけられ、意識が過去から現在へと戻る。
昨日はあれでいいと思ったが、今は富士野部長にどんな顔をしたらいいのかわからない。
置いてあった着替えはTシャツとハーフパンツだった。
とはいえ私が着ると、Tシャツはミニワンピ丈だし、ハーフパンツも七分丈くらいになったが。
「着替え、ありがとうございました……」
リビングへ行ったが部長の姿はない。
ダイニングの壁向こうから音が聞こえるので、横の通路から覗いたらそこにいた。
「もうできるから待ってろ」
そこはキッチンで、部長はフライパンからお皿に料理を移している。
「なにか手伝います」
「そうか?
じゃあ、もうパンが焼けるからそこの皿にのせて持っていってくれ」
「はい」
彼が視線を向けた先にはトースターがあり、お皿も準備してあった。
すぐにチン!と音が鳴り、中に入っていたバケットを皿に移す。
そのあいだに部長は料理をダイニングに運んでいた。
「おまたせしました」
「わるいな」
私がダイニングテーブルにお皿を置くのを見計らったかのように、コーヒーを注いだマグカップを置いて部長が座る。
「じゃあ、食べようか」
「はい」
ふたり、向かいあって朝食を取る。
具だくさんのオープンオムレツと添えられた野菜、あとはベーコンと白菜のスープとバケット。
どれも味がよく、部長は料理上手らしい。
それにしても。
黙々と食べながら目の前に座る部長をちらり。
彼とふたりでこうやって朝ごはんを食べているなんて、なんか不思議な気分だ。
食後、なんか気まずくて速攻で帰ろうと思ったのに、部長がお代わりのコーヒーを入れてくれるので仕方なく留まる。
「それで、昨日の話なんだけどな」
私としては昨日のあれはすでに忘れてしまいたい過去なのだ。
なのに改めて切り出され、カップを持つ手がぴくりと反応した。
「あの。
昨日は無理を聞いていただき、ありがとうございました。
その、もうそれは、大丈夫ですので」
部長のおかげで、あんなに痛んでいた胸の傷は完全に塞がっていた。
もう、次に裕司さんとは、普通に義理の妹として会える。
「いや、それじゃなくて。
あ、いや、紀藤の役に立てたんならいいけどな」
眼鏡の下で彼が、目尻を下げる。
それはとても嬉しそうで、頬がほのかに熱を持つ。
それにしてもいつも敬語の彼が、口調が違うのが気にかかった。
「昨日、『どんなに努力しても、姉が一番で私は二番』って言ってただろ。
紀藤はそれでいいのか」
部長は真剣だが、なにを言いたいのかわからない。
「別に私は、姉からあの人を奪いたいとかそんなことは……」
「違う」
首を横に振られたって、私の気持ちに嘘はない。
それに勝手に否定されて、むっとした。
「違いません」
「違う。
俺が言いたいのはそんなことじゃない。
紀藤はいつまでも、二番に甘んじていいのか、ってことだ」
やはり、部長がなにを言いたいのか理解できない。
私が二番に甘んじている?
「紀藤はどんなに頑張ったって、姉に、誰に絶対に敵わないって、諦めているんじゃないのか」
「それは……」
部長の指摘にドキッとした。
彼の言うとおり、私はいくら努力したって無駄なんだってどこかで諦めていた。
諦め、努力することをやめていた。
それに富士野部長が気づくなんて。
「このままずっと、所詮私は誰かに敵わないんだって、いじけたまま生きていくのか」
「いじけていません!」
反射的に否定したものの、これはただの見栄だ。
私は姉に、誰かに敵わないのだといじけていた。
部長に言われ、初めて自分の気持ちに気づいた。
「紀藤は、一番になりたくないのか」
レンズの向こうから真っ直ぐに富士野部長が私を見据える。
その強い視線に射られ、目は一ミクロンも逸らせない。
「私は……」
どくん、どくん、と心臓が自己主張する。
硬く握った拳の中は、じっとりと汗を掻いていた。
喉がからからに渇き、言葉を疎外する。
一度、唾を飲み込み、再び口を開いた。
「……一番になりたい、です」
それが、なんの一番かなんてわからない。
ただ、上を見上げて私はあそこへ行けないのだと諦めるのはもう嫌だと思った。
もし諦めなければ、裕司さんとの関係だってなにか変わっていたかもしれない。
その結果が同じでも、私はもっと早くに彼を吹っ切って、新しい恋に進めていたかもしれない。
だからもっと、自分に自信が、欲しい。
「わかった。
なら俺が、一番にしてやる」
右の口端をつり上げ、ニヤリと笑う富士野部長を、ただ見ていた。
「あっ、はい!」
声をかけられ、意識が過去から現在へと戻る。
昨日はあれでいいと思ったが、今は富士野部長にどんな顔をしたらいいのかわからない。
置いてあった着替えはTシャツとハーフパンツだった。
とはいえ私が着ると、Tシャツはミニワンピ丈だし、ハーフパンツも七分丈くらいになったが。
「着替え、ありがとうございました……」
リビングへ行ったが部長の姿はない。
ダイニングの壁向こうから音が聞こえるので、横の通路から覗いたらそこにいた。
「もうできるから待ってろ」
そこはキッチンで、部長はフライパンからお皿に料理を移している。
「なにか手伝います」
「そうか?
じゃあ、もうパンが焼けるからそこの皿にのせて持っていってくれ」
「はい」
彼が視線を向けた先にはトースターがあり、お皿も準備してあった。
すぐにチン!と音が鳴り、中に入っていたバケットを皿に移す。
そのあいだに部長は料理をダイニングに運んでいた。
「おまたせしました」
「わるいな」
私がダイニングテーブルにお皿を置くのを見計らったかのように、コーヒーを注いだマグカップを置いて部長が座る。
「じゃあ、食べようか」
「はい」
ふたり、向かいあって朝食を取る。
具だくさんのオープンオムレツと添えられた野菜、あとはベーコンと白菜のスープとバケット。
どれも味がよく、部長は料理上手らしい。
それにしても。
黙々と食べながら目の前に座る部長をちらり。
彼とふたりでこうやって朝ごはんを食べているなんて、なんか不思議な気分だ。
食後、なんか気まずくて速攻で帰ろうと思ったのに、部長がお代わりのコーヒーを入れてくれるので仕方なく留まる。
「それで、昨日の話なんだけどな」
私としては昨日のあれはすでに忘れてしまいたい過去なのだ。
なのに改めて切り出され、カップを持つ手がぴくりと反応した。
「あの。
昨日は無理を聞いていただき、ありがとうございました。
その、もうそれは、大丈夫ですので」
部長のおかげで、あんなに痛んでいた胸の傷は完全に塞がっていた。
もう、次に裕司さんとは、普通に義理の妹として会える。
「いや、それじゃなくて。
あ、いや、紀藤の役に立てたんならいいけどな」
眼鏡の下で彼が、目尻を下げる。
それはとても嬉しそうで、頬がほのかに熱を持つ。
それにしてもいつも敬語の彼が、口調が違うのが気にかかった。
「昨日、『どんなに努力しても、姉が一番で私は二番』って言ってただろ。
紀藤はそれでいいのか」
部長は真剣だが、なにを言いたいのかわからない。
「別に私は、姉からあの人を奪いたいとかそんなことは……」
「違う」
首を横に振られたって、私の気持ちに嘘はない。
それに勝手に否定されて、むっとした。
「違いません」
「違う。
俺が言いたいのはそんなことじゃない。
紀藤はいつまでも、二番に甘んじていいのか、ってことだ」
やはり、部長がなにを言いたいのか理解できない。
私が二番に甘んじている?
「紀藤はどんなに頑張ったって、姉に、誰に絶対に敵わないって、諦めているんじゃないのか」
「それは……」
部長の指摘にドキッとした。
彼の言うとおり、私はいくら努力したって無駄なんだってどこかで諦めていた。
諦め、努力することをやめていた。
それに富士野部長が気づくなんて。
「このままずっと、所詮私は誰かに敵わないんだって、いじけたまま生きていくのか」
「いじけていません!」
反射的に否定したものの、これはただの見栄だ。
私は姉に、誰かに敵わないのだといじけていた。
部長に言われ、初めて自分の気持ちに気づいた。
「紀藤は、一番になりたくないのか」
レンズの向こうから真っ直ぐに富士野部長が私を見据える。
その強い視線に射られ、目は一ミクロンも逸らせない。
「私は……」
どくん、どくん、と心臓が自己主張する。
硬く握った拳の中は、じっとりと汗を掻いていた。
喉がからからに渇き、言葉を疎外する。
一度、唾を飲み込み、再び口を開いた。
「……一番になりたい、です」
それが、なんの一番かなんてわからない。
ただ、上を見上げて私はあそこへ行けないのだと諦めるのはもう嫌だと思った。
もし諦めなければ、裕司さんとの関係だってなにか変わっていたかもしれない。
その結果が同じでも、私はもっと早くに彼を吹っ切って、新しい恋に進めていたかもしれない。
だからもっと、自分に自信が、欲しい。
「わかった。
なら俺が、一番にしてやる」
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