ジャンルごちゃ混ぜ小説詰め合わせ 3

笹椰かな

人質姫は帝国の第四皇女と友達になる 1

「はぁ~~~~」

 この場に誰もいないのをいいことに、エメリーヌはビロード貼られたソファの上でだらしなく姿勢を崩しながら盛大に溜め息を吐き出した。
 ブロウ帝国に人質としてやってきてから三ヶ月。ようやっと今の生活に慣れてきた。先ほどの溜め息は、その事への安堵から出てきたものだった。

 そもそもエメリーヌがこの国に人質としてやってきたのは、自国たるツィリル王国がブロウ帝国の属国となったからだった。

 ツィリル王国は同盟を結んでいた少数の国々とのんびりと外交し、のんびりと自給自足するような小国だった。
 けれども、北のブロウ帝国と南のヴェロニーカ王国が対立して起きた大戦争のせいでこれまでのようには行かなくなり、のんびりしてはいられなくなってしまったのだ。事態を傍観していては、いずれはブロウかヴェロニーカの勢力によって侵略されてしまう――そんな状況だった。

 ブロウにつくか、ヴェロニーカにつくか――エメリーヌの父親であるツィリル国王は悩んだ。その末に同盟国に倣い、攻め入られる前にブロウ帝国の属国にくだる道を選択したのだった。

 しかしブロウは慎重な国家のようで、書面に調印をするだけでは足りないのだと告げ、属国としての忠誠心を示すことをツィリルに求めてきた。
 その結果として、髪の色が淡い緑色をしていることから磨かれた翡翠のように美しいと名高い第二王女のエメリーヌが、人質としてこの国で暮らす羽目になってしまったのだが――

「人質って……何歳までやったら引退できるのかしら」

 エメリーヌなぽつりと呟いてから、もう一度溜め息を吐き出した。今のは先ほどとは別の理由から出た溜め息……いわゆる嘆息だ。

 ちなみに人質と言ってもこの通り、牢獄に放り込まれて鎖で繋がれたりしている訳ではない。
 人質としてこちらに来てからずっと、帝国の第三皇子が管理している立派な古城で日々を過ごしているだけだ。使用人たちから意地悪をされたりもしていないし、労働させられている訳でもない。

 ただ、やはり環境の変化というものは身体にも精神にも負荷がかかるのだろう。エメリーヌは三か月の間、心身ともに休まる日はほとんどなかった。
 ここに来てから親しくなれた人もおらず、ひどく寂しい思いもしている。

「友達が欲しい……」

 ぽつりと呟かれた言葉はひとりぼっちの室内で霧散し、はかなく空気に溶けた。

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