ヤクザで弁護士のあの人が、私の書いた恋愛小説を読んでいる。

龍田たると

10.ごくありきたりなデートですけど:圭吾、大隈、翔子side


「……わっかんねえなー。全ッ然、フツーの女子って感じじゃないっすか。あれが本当に先生が狙ってる女なんすか?」

「確かにな……。素材は悪くねえけど、飛びぬけて美人ってわけでもない。というか、若頭カシラなら簡単に落とせそうなもんだが……。何でこんな回りくどい付き合い方をしてるんだろうな、若頭」

「あら、お二人とも。お言葉ですけど、女ってそんな単純なものじゃありませんよ? それに私、神島先生がああいう真面目そうな子が好みだと知って、逆に見直しましたわ」

 駅構内の柱からひょこりと顔を出して、夏樹と怜治を観察する人影が三名。
 それは、神島総合法律事務所の事務員たち。
 霧谷圭吾、大隈隆一郎、高峰翔子の三人である。

 彼らは全員、この日に怜治がデートであることは前もって聞いていたので、悪いことだとは思いつつも、休日返上で後を付けてきたのだった。

 三人ともに帽子を目深にかぶり、サングラスやマスクをつけて、申し訳程度の変装をしている。

「デートコースは……美術館入って、喫茶店入って……何の変哲もない、これも普通のカップルって感じっすね」

「俺、美術館って何が面白いかわかんねーんだよな……。若頭もよくあんな退屈なところに付き合えるもんだ」

「お、大隈さん……。それはちょっと……」

「で、お次は本屋っすか。マジ変わり映えしねー感じっすね」

「ただ二人とも、ピンクの背表紙のコーナーでずっと立ち止まってるな。何だあれ……。まさかエロ本じゃねえだろうし……少女漫画、か……?」

「あの女の子の趣味に合わせてあげてるのかしら。それにしては神島先生も、すごく楽しそうですけど……」

「何だかあの女子より、先生の方が笑ってないっすか?」

「うーん、ますます意味がわかんねえな……」

 彼らは怜治の趣味が少女小説だということを知らない。
 本屋での二人の会話も、距離が離れて聞こえることはなく、それゆえに何故怜治がそんなに楽しそうなのか理解できなかった。

 そして、彼らは気付いていない。
 怜治と夏樹にバレないようにと隠れて尾行してはいたものの、服装も含めてその様子は明らかに不審者のそれであった。

 しかも、三人のうちの大隈は二メートル近い長身であり、一般人には見えない厳つい風貌であるため、逆に周囲からはものすごく目立ってしまっていた。
 ──そんなこんなで、夕方まで二人を観察し続けて。
 ディナーの予約を取ってあるホテルに怜治たちが入ろうとするのを見て、不意に圭吾が声を上げた。

「あっ、クマさん、翔子さん。俺気付いちゃったんすけど、このまま後付けるのヤバくないっすか?」

「えっ?」

「何がだ」

「美術館とか喫茶店はともかく、この流れだと俺らも最上階のレストラン入らないといけないっすよ。あそこ軽く数万は飛ぶと思うんすけど、経費で落ちるんすか、これ?」

「圭吾くん……経費で落とすの意味、分かってる?」

「だいたい仕事じゃねえんだから、そんなん最初から無理だぞ」

「マジすか!? 余計ヤバいじゃないっすか! つーか俺、持ち合わせねえっすよ!?」

 その声に、回転ドアをくぐろうとしていた怜治が思わず振り返る。

「あれっ」

「「「──あ」」」

 そして、怜治と三人の目線が合い、彼らが思わず同時に声を漏らした直後──

「「「「あぁーっ!」」」」

 息ぴったりに揃った四人のさらに大きな声が、駅前のホテルに響き渡ったのだった。

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