ヤクザで弁護士のあの人が、私の書いた恋愛小説を読んでいる。
05.彼らの日常2:夏樹side
神島さんに本を貸してから二日後の夜。
IDを交換し合ったアプリに、早速彼からのメッセージが届いていた。
『おすすめしてくれた本、まずは一冊読み終わりました。とても面白くて一気に読んでしまいました。どうもありがとう』
スタンプも絵文字もない、簡素な文章が私のスマホに表示される。
でも、冷たさは感じなかった。
抑揚のないその文が、逆に神島さんの誠実さをあらわしているような気がした。
(メッセだと敬語なんだ……なんだか、可愛いかも)
クスリと微笑み、すぐさま彼に返事を送る。
『どういたしましてです。読みやすさとか、どうでしたか?』
『地の文が結構堅めで、少女小説にしては重厚な物語でした。日浦さんの言った通り、政治劇としてかなり面白い部類に入ると思います』
「やった」
好感触な反応に気持ちが浮き立つ。
そのテンションのまま、続けて私は返信した。
『気に入ってもらえて良かったです! お貸しした本、私はもう何回も読んだやつなので、そのまま持っていていただいて、どうぞゆっくり楽しんで下さいね』
『ありがとう。ここだけの話、すでに二冊目を読み始めてしまっています』
「あはは。手が早いなあ」
スマホを抱えながら、ベッドの上に寝転んで頬を緩ませる。
笑顔で読んでいる彼の姿を想像すると、何故だかとても親近感が湧いた。
『その作者さんの本、まだありますから今度持って行きましょうか? 神島さん、やっぱりそういう系統のお話の方がいいですよね?』
『ぜひお願いします。ただ──』
けれど、次の返信に私は固まり、大きな声を出してしまうことになる。
『ただ、もし可能なら、『荊の檻の公爵令嬢』みたいに、恋物語に比重が置かれている本の方がいいかな。ああいう感じの気持ちが燃え上がるような物語が読みたいです』
「いば……ええええぇっ!?」
『でも、あの本の作者さん、凜藤アキノさんって、まだ他の本はないんですよね?』
「アキ……って、ちょっとそれ、私!」
思わずがばりと飛び起きてしまった。
凜藤アキノ、すなわちそれは私のペンネームだ。
いきなり自分の名前を呼ばれて、ものすごくびっくりしてしまう。
普段その名で呼ばれ慣れてない分、それと同時に背筋がむずむずする。
(というか、私の本……神島さん……そんなに気に入ってくれてたの……?)
『燃え上がるというか、作者さんの熱意を感じる話は、上手く言えないんですけど、とても心に響きます。日浦さんが思う、そういう熱さを持った作品を、よければ他にも教えてもらえませんか』
「ちょ……え、熱さって……こ、心に響くって……!」
やばいやばい。何これ。
何だかすごくドキドキしてしまっていた。
顔も熱くて、まるでやけどしそうな感覚。
別に、口説かれてるわけじゃないのに。
神島さん、その本を書いたのが私だって知らないはずなのに。
……ううん、そうじゃない。だからこそだ。
私だって知らないからこそ、社交辞令じゃない本気の言葉だから、こんなに響くんだ。
「えっと、えっと……そんなに読みたいなら……い、いいよね? お、教えちゃうよ……?」
不意にあることを思いつき、私はブックマークから一つのページを開いた。
それは、自作の小説を保管してある私のウェブサイト。
自分に言い訳しながら、手を震わせつつ、そのURLを神島さんへと送信する。
『その作者さんでしたら、自作小説をいくつかここに載せてるみたいですよ』と、他人事みたいな説明を添えて。
(なんだかいけないことをしてる気がするのは、なんでだろう……)
リンクを送信すると、一分も経たないうちに返事が返ってきた。
『ありがとう! なるほどこういう小説家の人は、自分のページを作ってそこに上げたりしているんですね。明日からまた楽しみが増えて、嬉しいです』
「あぁっ……ごめんなさいっ……! サイトで公開してる小説、まだ全然粗削りなやつばかりなんですっ……!」
つぶやいたその言葉をメッセで送ることはなく、私はスマホの前で手を合わせた。
けれど、そう言いつつも、私は彼に読んで欲しいと思った。
そして、願わくば楽しんでくれたらと──あわよくばもっと褒めてもらえたらと、心の中で期待してしまうのだった。
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