第3次パワフル転生野球大戦ACE

青空顎門

152 春季キャンプ開幕

 2月1日。
 1月1日を以って正式にプロ野球選手となった村山マダーレッドサフフラワーズの面々は、1月の自主練習期間を経て春季キャンプの開催地に集結していた。
 場所は定番の沖縄。久米島第2野球場。
 第2と来れば、当然第1もある。
 そちらでは宮城オーラムアステリオスが毎年春季キャンプを開催している。
 ちなみに、久米島にプロ野球の練習にも十分耐え得る設備が整った第2野球場なるものが存在しているのはこちらの世界だけだ。

 この野球に狂った世界では日本プロ野球の球団は公営12チーム、私営1部12チーム、2部24チーム、3部24チームの合計72チームある。
 前世における2軍、3軍に当たる公営2部、3部も当然別枠。
 それだけの数の球団が一斉に春季キャンプを行う2月は、日本の中では比較的温暖な南方の地域にとっては多額の経済効果を得るチャンスと言える。
 故に、設備が充実した球場が複数用意されているのがザラだ。
 この久米島第2野球場は以前、山形マンダリンダックスが利用していたところでもあり、本拠地に続いてこちらも引き継いだのだった。

 勿論、引き継いだなどと言っても別に球団の所有物ではない。
 なので、当然ながら使用料は支払わなければならない。
 その地域に多額の経済効果が生まれる理由は、そうやって球団が直ちょくで金を落としてくれるから、というのが大部分となる。
 逆に言えば、ザックリ30日弱の日程からなるこの春季キャンプは、球団にとっては費用面で相当な負担になるということに他ならない。
 施設使用料。宿泊費。食費。そしてユニフォームのクリーニング代。
 これが人数で掛け算される。
 帯同するスタッフが比較的少ない3部リーグでも億は下らないだろう。
 昇格し立てで、興行収入もグッズ収入もまだまだこれからな村山マダーレッドサフフラワーズにとっては相当な支出となってしまうところだが……。
 この世界の興行スポーツは野球狂神アレのせいで野球一強。
 本格的にシーズンが始まりさえすれば濡れ手で粟のボロ儲けだ。
 銀行もそれは分かっているので簡単に融資してくれるとのこと。
 俺達選手は必要以上に心配せず、黙々と練習に臨めばいい。

「さて。既に自主練習で共にしている方もいたかもしれませんが、改めて自己紹介をしていただきましょう。3人共、よろしくお願いします」

 久米島町の副町長による歓迎セレモニー(町長は宮城オーラムアステリオスの方に行っている)や首脳陣の挨拶の後。
 尾高監督が新しくチームに加わった選手達に自己紹介を促した。
 それを受けて、見覚えのある3人の男性が前に出てくる。
 元私営3部プロ、山形マンダリンダックス所属だった3選手だ。

「木村大成。31歳。内外野の守備をと乞われ、こちらのお世話になることにしました。元捕手の経験を活かし、1日でも早くチームの戦力になりたいと思います」

 しっかりした言葉とは裏腹に、表情にはほんの少しだけ迷いが見える。
 あの入れ替え戦を経て山形マンダリンダックスは降格して企業チームとなってしまったが、そのゴタゴタで実践的な守備練習ができていないのだろう。
 そのせいで守備適性の実感がまだ湧いていないのだ。
 この春季キャンプでは主にシートノックで内外野の守備の感覚を掴んで欲しい。

「山田真一。26歳。ピッチャーをやっていました。起用法は特に固定されていませんでしたので、言われればどこでもやります」

 意欲があるように聞こえる発言だが、声には覇気が感じられない。
 木村選手に言われた通り、やはりどこか意識が低いタイプなのだろう。
 お山の大将気質が多いピッチャーらしからぬ他人任せ具合だ。
 まあ、指示にしっかり従ってくれるなら俺としては構わないけれども。

「加隈道雄。25歳。同じく投手をしていましたが、チーム状況もあって先発、中継ぎ、敗戦処理とたらい回しにされていました」

 こちらはクソ真面目と評された通り、余計なことまで言ってしまっている。
 いくら起用法が迷走していたチームとは言え、敗戦処理はさすがにな……。
 勿論、大切な役割でもある。
 だが、現実問題その役割を担う選手の序列が高いということは普通ない。
 そんなことを口にしてしまったものだから、元からいる村山マダーレッドサフフラワーズの選手達に本当に戦力になるのかと疑念の目を向けられている。

「3人共、野村選手兼投手コーチのお眼鏡に適った選手です。心配いりませんよ」

 尾高監督の苦笑気味の言葉を受け、元々のチームメイト達の間には「まあ、そういうことなら」というような空気が流れた。
 これまでコツコツと積み上げてきた実績のおかげだな。

 ちなみに選手兼投手コーチというのは聞き間違いではない。
 私営3部プロ昇格に合わせて組閣を行ったものの、結局目ぼしい人材を発掘することができず、投手コーチには俺が配置されることになったのだ。
 山形マンダリンダックスの指導者達が指導力不足なのは分かり切ってたからな。
 分かり易く浮いた人材だが、残念ながら引き抜こうという気にはなかった。
 そのせいもあって、他のコーチ陣も間に合わせの様相を呈している。
 村山マダーレッドサフフラワーズの今季の組閣は次の通りだ。

 監督:尾高権蔵
 ヘッドコーチ:新垣九朗(選手兼任)
 打撃コーチ:大法豊(選手兼任)
 守備走塁コーチ:村木純助(選手兼任)
 投手コーチ:野村秀治郎(選手兼任)

 見ての通り、選手兼任ばかりだ。
 外部から見れば頭がおかしいと思われるかもしれない。
 しかし、外様の変な指導者を入れて余計な口出しをされるよりはマシだ。
 僭越ながら、俺はこのチームに関わった当初から指導の真似事をしてきた。
 それで成果を上げてきている以上、わざわざ手を加える必要はない。
 同じ認識を上層部も持ってくれていたようだ。
 球団の方から打診を貰ったので、ありがたく受けさせて貰った。

 ちなみに、前世の日本プロ野球における最年少監督は兼任ではあるが25歳。
 最年少投手コーチは、こちらも兼任で24歳。鉄腕と称された偉大な投手だ。
 大リーグの最年少監督だと、1800年代にやはり兼任で20歳の監督がいる。
 球団やチームメイトが認めてくれて結果も出せるのなら、17歳の投手コーチが存在しても別に問題はないだろう。

 と言う訳で、投手コーチの立場から一言。

「山田選手、加隈選手。お2人には新しい変化球を覚えていただきます。それと制球力を上げるためにフォームの微調整を行っていきましょう」
「分かりました」「新球……ですか?」

 ノータイムで受け入れる山田選手と、訝しげに問う加隈選手。
 対照的な反応だ。

「まあ、騙されたと思って試してみて下さい。損はさせませんから」
「はい」「……やってみます」

 とは言え、結論は同じ。
 元々3部リーグ万年最下位のチームの所属だった上に、そこですら起用法が安定せず、時に敗戦処理に回されたりと燻っていたピッチャーなのだ。
 プロ野球界で生き続けるにはそれ以外にないことは、重々承知しているだろう。

 ……にしても、年下の人間に偉そうに言われて思うところがあるかと心配したけど、特に表情からそういった感情は感じ取れなかったな。
 まあ、入れ替え戦で徹底的に分からせたようなものだし、今回はわざわざ別にマウンティングタイムを取る必要はなさそうだ。
 素直に指示に従ってくれるのなら、お互いWin-Winな結果になるように俺も鋭意努力していく所存だ。
 プロ野球球団村山マダーレッドサフフラワーズ創設メンバーの一員として、しっかりと後世に名を残して貰おう。

「まあ、より具体的なところは追々。尾高監督、続きをどうぞ」

 尾高監督は1つ頷くと、一同を見回してから改めて口を開いた。

「今年の目標は前期での2部昇格。そして後期での1部昇格です」

 その言葉に、久米島第2野球場にちらほらいた報道関係者がどよめく。
 ネットではその可能性がまことしやかに囁かれているが……。
 監督が明言したのは今回が初めてのこと。
 だからだろう。
 しかし、対照的に新入り3人を除いたチームメイトの顔に驚きはない。
 そこまでは共通認識。単なる既定路線に過ぎないのだから。

「万全の準備をしてシーズンの開幕を迎え、圧倒的なパフォーマンスを見せつけることができるように日々レベルアップに励んで下さい」
「「「「「はいっ!」」」」」「「「うっす!」」」

 さあ。春季キャンプ開幕だ。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品