第3次パワフル転生野球大戦ACE

青空顎門

074 クラブチーム圧倒

 2球目。外角低めギリギリに決まるスライダー。
 バッターの大法さんは勿論、キャッチャーの新垣さんも完全には変化に対応することができず、空振りからの後逸となってしまった。
 まあ、今回はランナーを考慮に入れていないのでパスボールでも別に問題ない。

「おいおい……」
「嘘だろ」

 その様子を観戦していた他の選手達が、思わずといった様子で声を漏らす。

「大法が当てられないだけならともかく、新垣さんが捕れないなんて」

 やはり大法さんのバットコントロールに難があることは共通認識のようだ。
 まあ、チームメイトとして間近で見ていれば当然だろうけれども。
 逆に新垣さんのキャッチングには一定の信頼性があるらしい。
 そんな彼のステータスはこれだ。

状態/戦績/関係者/▽プレイヤースコープ
・新垣九朗(成長タイプ:キャッチャー) 〇能力詳細 〇戦績
 BC:773 SP:747 TAG:762 TAC:871 GT:865
 PS:160 TV:877 PA:781
 好感度:1/100

 うーん……。
 いや、まあ、数値的には悪くない。
 特に【マイナススキル】もないしな。
 けど、これといって有用なスキルもない。
 もっと上のレベルに挑むなら、全体的に素の能力値を上げるか、ポジションに見合った【通常スキル】や【極みスキル】が欲しいところ。
 ちゃんとシナジーがあれば【特殊スキル】でもいい。
 だが、現状ではあくまでもクラブチーム相応といったところ。
 このチームのピッチャー相手なら普通に捕れる。それだけのことだ。

「3球目、行きます」

 球種とコースのサインを出し、投球動作に移る。
 次の球は低めからワンバウンドしてボールになるフォーク。

 多分、これも新垣さんは捕ることができないだろう
 だが、それはそれで構わない。
 彼に関しては分かり易いチグハグさがない。
 ということは、努力の方向性自体は間違っていないということだ。
 ならば、単純に彼自身がより発奮してハードな練習に励むしかない。
 中学生の球を捕れなかった屈辱を燃料にして貰いたい。

 そんなことを考えながら、人差し指と中指で挟み込んだ硬球をリリースする。
 一見するとストライクゾーンのやや甘いコース。
 既に2ストライク。
 このまま振らずにいればアウトと判断した大法さんは、当然当てに行く。

「なっ!?」

 そのタイミングでボールが落ち始めたのに気づく。
 だが、彼の低い【Bat Control】では今更対応することはできない。
 大法さんはなす術もなく、空振りしてしまった。
 俺からすれば分かり切った結果だった。
【マイナススキル】【追い込まれると弱い】のせいで尚更【Bat Control】が低下してしまっている彼には、切れ味鋭いフォークを打つのは無理な話だ。

「何だ、あのフォーク……」
「新垣さんが2球連続で後ろに逸らすようなキレの変化球を、あの年齢で?」
「本当に中学生か?」

 ざわつく球場。
 うーむ。こんな反応をされると少し気持ちよくなってしまうな。
 けど、慢心しないように自戒しないと。
 俺もまだまだ発展途上に過ぎないのだから。
 何せ【体格補正】のマイナスが大きくてステータス通りの球速が出てないのだ。
 合わせて変化球も相応のスピードでしかない。
 一通りスキルを見ても最高球速を上げる類のものだけはないから、もどかしい。
 ……まあ、その辺は今後の体の成長に期待するとして。

「勝負は着いたってことでいいですか?」
「……ああ。ぐうの音も出ない結果だ」

 マウンドからバッターボックスに近づいて尋ねると、大法さんは力なく認める。
 さすがに中学生に完膚なきまでに叩きのめされたことはショックだったようだ。
 そのまま黙り込んで俯き、ガタイのいい体は小さくなってしまっている。
 まるでしぼんだ風船かしなびた植物のようだ。

「す、すまない。さっきお嬢さんがキャッチャーを買って出ようとしていたが、もしかして君の球を全て受けられるのか?」

 と、そこへ新垣さんが横から問いかけてきた。
 彼は彼で中学生の球を捕れなかった事実に酷くプライドを傷つけられたようだ。

「当然。と言うか、しゅー君の変化球はまだまだある」

 1打席勝負が終わり、傍に来たあーちゃんが俺の代わりに答える。

「それも、さっき投げた球と同じぐらいの完成度の球がいくつも」

 その言葉に新垣さんは一層のこと衝撃を受けた様子。
 うなだれたその表情から激しい動揺が伝わってくる。
 過ぎたショック療法にならないことを祈るばかりだ。
 しかし、企業チームという壁に跳ね返されて何糞と思ってくれないのなら、いずれにしても多少の荒療治は不可欠だっただろう。

 それはともかく。
 当然ながら、これで話を終えるつもりはない。
 自分の力をひけらかすだけひけらかして、後は相手の自主性に任せるなんて無責任極まりない真似はできない。

 今回クラブチームの見学に来た目的は停滞してしまっているチーム状況に明確な変化をもたらし、明彦氏の心労を多少なりとも和らげるためだ。
 あーちゃんのおかげで始まったこの勝負により、俺の発言はどこの馬の骨とも知れない中学生の言葉から少しは信憑性のあるものに変わったはず。
 早速、今正に対戦した大法さんから始めるとしよう。

「大法さん、今の対戦とさっきのフリーバッティングを見ていて気づいたことがあるのですが、僭越ながらアドバイスをさせていただけますか?」

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