第3次パワフル転生野球大戦ACE

青空顎門

057 必要なこと

 翌日。
 授業と授業の間の休み時間。

「ねえ、さすがに説明して欲しいんだけど」

 野球道具を借りる時の言い訳で不安が増してしまったのか、美海ちゃんが問う。
 珍プレー再現はちょっと意味が分からな過ぎたか。
 まあ、察しろというのが無理な話だ。

「ああ。けど、昇二にも説明した方がいいだろうし……昼休みにしよう」
「……分かったわ」

 で、昼休み。
 向上冠中学高等学校は牛乳だけ配られるミルク給食なので、基本は弁当持参だ。
 昼食を持ってきていなければ学食か購買行きとなる。
 俺達は全員弁当を持ってきているので、そのまま教室で食べる。
 話をする約束なので机を動かし、後ろの席の美海ちゃんとくっつけておく。
 そこへあーちゃんもやってきた。

「しゅー君、はい」
「ありがとう、あーちゃん」
「ん」

 コクリと頷いて、俺の机の上に弁当箱を2つ置くあーちゃん。
 彼女は学食に行った近くの生徒の椅子を借りて俺の隣に座った。
 そして、ちょっと誇らしそうに弁当箱の蓋を開けて中を見せる。

「春休み練習した成果」
「……うん。凄くおいしそうだ」

 べちゃっとなっていない野菜炒め。
 卵焼き。
 タコさんウインナー。
 梅干しが1個乗った白飯。
 果物もある。
 バランスのいい弁当だ。

「おいしそうじゃなくて、おいしい。ちゃんと味見したから」

 自信満々なあーちゃんが微笑ましい。
 自然と頬が緩んでしまう。

「じゃあ、いただきます」

 手を合わせてから箸を持ち、まずは一口。
 ……うん。
 嘘偽りなく、うまい。
【以心伝心】で伝わったのか、あーちゃんは無表情を完全に崩して嬉しそうだ。

 俺の母さんに直談判までして弁当を作る役を譲って貰ってたからな。
 週に3回はあーちゃんの弁当になる予定だ。
 加奈さんからだけでなく、母さんからも休みの日に料理を教わってたから味つけは両家のハイブリッドだ。

「これが将来のウチの家庭の味、かな」
「ん」
「……はー、もう、あてられるわー」

 やさぐれ気味に自分の弁当箱からおかずを口に運ぶ美海ちゃん。
 昇二は四方の結界4人の女子に阻まれ、自分の席で身を縮めて食べている。
 そのせいで、美海ちゃんは1人俺達のいちゃいちゃを見せつけられる羽目に。

「お揃いの弁当箱にお箸。手作り弁当。もう新婚夫婦じゃない」
「新婚じゃない。私達はずっと前から夫婦」
「あー、はいはい。ごちそうさま」
「おそまつさまでした」

 あーちゃんと美海ちゃん。それテンプレにしようとしてないか?
 ……まあ、いいや。
 そんなじゃれ合いをしている内に、昇二を封じる結界は解かれたようだ。
 4人の女子生徒は1ヶ所に集まって話をしている。
 どうやら元から知り合いだったらしい。

「秀治郎……」

 脱出してやってきた昇二の顔からは、精神的疲労が感じられる。
 ……強く生きてくれ。

「さて。本題に入ろうか」
「ええ。結局、貴方は何を考えてるの?」
「俺はいつだってWBWに出場してアメリカを倒すことしか考えてないさ」
「あの部に入ることが、それに繋がるって言う訳?」
「少なくとも、俺達にとっては有益だと思うぞ」

【成長タイプ:マニュアル】には王道か邪道かなんて関係ないからな。
 勿論、単純に【経験ポイント】を稼ぐだけなら王道の方がいい。
 しかし、仕様の穴とでも言うべきか。
【成長タイプ:マニュアル】は他に比べて消費【経験ポイント】が少なくて済む。
 何せ、意図的にステータスを抑えておけば維持費を大幅に節約できるからな。
 賢く割り振れば、他の成長タイプに比べてトップレベルへの道は短くできる。

「自分で言うのも何だけど、俺達は身体性能的に恵まれてるんだ」
「恵まれてる? 僕も?」
「ああ」

【超晩成】持ちの昇二の問いかけに自信を持って頷く。
 勿論、伸び代を含めた総合的な話だが。

「順応性も高い。そんな俺達に必要なのは、過酷なトレーニングよりも座学だ」
「ざ、座学?」
「座学って、つまり勉強?」
「そう。状況ごとにどういった行動が求められるのか。そういうことを頭に叩き込んでから実践する。だから、練習は基本的にケース練習がメインになる」

 ケース練習。
 つまりケースバッティングやケースノックのように特定の状況を意図的に作って行う、より試合形式に近い練習のことだ。

「珍プレーの再現ってのは――」
「年に1回あるかないか、みたいな特殊な状況も網羅しないといけないからな。結果的に珍プレーが何故起こったのかってとこも分析することになる」

 部活動紹介で陸玖ちゃん先輩が言っていたようなことをやる訳だ。
 で、再現できるものは再現して、珍プレーを発生させない対策を立てていく。
 これから先の俺達にはそうしたことが必要だと判断しての入部だ。

 事前に大まかに野球部の内訳を聞いていたので、入学前から目星をつけていた。
 まあ、さすがに陸玖ちゃん先輩1人になっていたとは思わなかったけど。
 最初から野球脳を鍛えるのが目的だった。

 ゲーム的に例えるなら。
 キャラのレベル上げはもう目途が立ったから、キャラを操作するプレイヤーのスキルを重点的に磨きましょう。ってところだ。

「……意図は何となく分かったわ」
「でも、野球は9人いないとできないよね?」
「ああ。ケース練習をするんならバッターとランナーも必要だから、合計13人は欲しいな。そこは勧誘して数を揃えないといけない」

 これもまた不可欠だが、元々織り込み済みだ。
 既に【プレイヤースコープ】でステータスを見て候補をリストアップしている。

「後は、実戦経験も積まないといけない。けど、まあ、そこは数が揃って試合ができそうなぐらいになってからだな。一応、考えてはいるけど」
「…………うん。信じるわ」
「まあ、ここに入学した時点で信じるしかない訳だけど」

 とりあえず疑問は解消できたようだ。
 しかし、昇二の言う通り。
 もはや2人の人生も預かっているようなもの。
 なるべく早く、この学校でよかったと思って貰えるように頑張るとしよう。

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