第3次パワフル転生野球大戦ACE

青空顎門

001 9回表2アウト1点ビハインド

 抜けるような青空の下。
 世界最大のスタンドを埋め尽くした観客達から大歓声が上がる。
 それは彼らの苦しさの表れだろう。
 未だかつて直面したことのなかった大苦戦。
 しかし、ようやく。
 ようやく勝利に手が届くところまで来たのだから。

『山崎一裕。フルカウントまで粘りましたが、三振に倒れて2アウト。苦しい状況です。日本代表、後がなくなってしまいました』

 完全アウェーの球場。
 観客に味方はほぼいない。
 彼らは俺達の対戦相手アメリカ代表が勝利することを願い、試合を見守っている。
 後1人のアウト。それだけで勝負は決する。
 野球に支配された狂った世界。その国際情勢を左右する一大決戦。
 WBW――世界World野球Baseball大戦War決勝戦の勝敗が決まる。

『9回表2アウト、ランナーなし。ここで打席には日本が誇る究極のユーティリティープレイヤー、野村秀治郎が入ります』

 スコアは現在2-3。1点ビハインド。
 最低でも出塁できなければ、9回裏を迎えることなく俺達は敗北する。

『ピッチャー振りかぶって第1球……投げました! 野村、見送りましたが、アウトコース低めいっぱいストライク。ゾーンの外から鋭く入ったカットボールに手が出ませんでした』

 相対するピッチャーはアメリカ代表の抑えの切り札。
 相手チームのみならず、観客達からも最も信頼されているクローザーだ。
 俺達からすると彼が登板する状況は作りたくなかった。

『2球目、野村が踏み込んだところへ鋭く抉り込むインコース高めへのカットボールはボール。3球目、アウトコース高めへのストレートは振り遅れて……ファウル! 2球目が頭に残っていたのか。野村、追い込まれてしまいました!』

 1ボール2ストライク。
 観客のボルテージは最高潮だ。

『4球目、インコース低め。ギリギリ外れてボール! 野村、よく見極めました!』

 2ボール2ストライク。
 焦れたような呼吸が無数に重なり、球場全体を包み込む。
 間もなく迎える勝利の時を、今か今かと待っている。
 しかし、そんな彼らの望みを叶えてやるつもりは毛頭ない。
 そのためにこそ、俺はこの世界に転生させられたのだ。
 だから――。

『2ボール2ストライクから5球目……投げました!』

 ――カァン!!

『打った! これは大きい! 大きい! 打球はライトの頭上を越え――』

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