第3次パワフル転生野球大戦ACE

青空顎門

274 出張、ピッチングマシン

 全体ミーティングを終えて大会議室を出た俺達は、そのままダグアウトを通ってフォスフォライトスタジアム那覇のグラウンドに足を踏み入れた。
 当然ながら、練習は野手と投手とでメニューが大幅に異なる。
 一緒になるのは守備連携やシートバッティング、紅白戦ぐらいのもの。
 同じ野手や投手の中でも個別練習は基本、スケジュールも練習場所も別々だ。
 とは言え、1日の始まりは何はともあれウォーミングアップから。
 これは野手であろうと投手であろうと変わらない。
 まあ、だからと言って同じ場所でやる必然性は特にないのだが……。
 この沖縄のどこまでも広がっていくような青空の下。
 日本代表選手とコーチングスタッフはグラウンドに勢揃いしていた。
 それは1つ、ファンサービスの意味も含まれていた。

「……何とも壮観ね」
「実質キャンプみたいなものに、凄い観客の数っす」

 スタンドを見回した美海ちゃんと倉本さんの感想に内心同意する。
 特別強化合宿と銘打ってはいても、身も蓋もないことを言えば練習に過ぎない。
 にもかかわらず。

「満員御礼?」
「って、さっき球場スタッフの人が言ってたな」

 写真撮影や全体ミーティングの間に、観客の入場が行われていたとのことだ。
 フォスフォライトスタジアム那覇の収容人数30000人の観客席は、ザッと見た限りでは空席なくギチギチに埋まっている。
 立ち見客もいるようだ。
 ここに集まってくれた彼らにとって、特別強化合宿は単なる練習ではないのだ。
 熱心な野球ファンの熱烈な視線を受け、尚のこと身が引き締まる。

「特別・・強化合宿、だもんね」
「その通り。全てのリーグのスターが一堂に会する場は……希少な機会なのサ」

 昇二に対する同意と補足を、何とも妙な間を作りながら演技っぽく行う大松君。
 しかも、フィンガースナップからの指差し付きだ。
 それから観客の方に向かって珍妙なポーズを取ってアピール(?)をしている。
 とは言え、割と見慣れた光景なので俺達はスルー。
 観客からの反応も特にない。
 誰も気づいていないのか、あるいは見慣れていて飽きられているのか。
 いずれにしても、さすがに少し可哀想に感じたようで……。

「オールスターでも1球場に集まるのは2リーグからの選抜選手。4リーグからの選抜はWBWの予選が国内で行われる時か壮行試合ぐらい。うん。特別だ」

 謎のポーズについては触れなかったものの、磐城君が彼の発言を拾って言った。

 よく使われる特別強化合宿という言葉。
 今回、その何が一体特別なのかと言えば。
 まずは正に彼らが口にした通り、集まった面子だ。
 国内全ての野球選手達の上澄みの上澄みである日本プロ野球のトップリーグ。
 そこから更に選りすぐられた、正に超1流の選手達が同じ空間で練習を行う。
 加えてコーチングスタッフは勿論、サポートを行う裏方もまた国内最高峰。
 日の丸を背負うのに、これ以上ない人材が一ヶ所に揃っているのは間違いない。
 野球ファン垂涎の状況と言えるだろう。
 だからこそのこの盛況っぷりという訳だ。
 今生であれば収容人数30000人を埋め尽くしても何ら不思議な話ではない。

「観客にとっての特別はそれ。僕達にとっては、やっぱり練習環境かな」

 トップレベルの選手同士やコーチングスタッフとの交流は勿論のこと。
 練習器材のレベルもそこに含まれる。

「今回の合宿のために球場の隅々に計測機器を置いたり、ドローンを飛ばしたりしてデータ収集をして、専門家も呼んでバッチリ解析するんだってね」
「沖縄クリアオーシャンズは完全に棚ぼたよねえ。いきなり自分とこの本拠地球場の設備がアップグレードされたんだもの」
「管理してる那覇市もっす。国の予算で持ち出しゼロ、付加価値爆上がりっす」

 更に言えば、後半使用する琉球ライムストーン球場の方も同様の設備機器が導入されて使用できる状態になっている。
 それらを活用することができるデータアナリストは別に用意する必要があるものの、モノが揃っているのと揃っていないのでは天と地程の差がある。
 美海ちゃんが棚ぼたと評価するのも分かろうというものだ。

「猫に小判。豚に真珠。そうならないといいけど」
「逆に、うまく使えば昇格も目指せるかもしれないぞ」

 後者の方が日本野球界には有益だ。
 是非ともそうなって欲しいと思う。

「……得られたデータはリアルタイムで共有されて解析され、コーチ陣が持つタブレットに送られてくる。そして、それを基に指導を行う、か」
「いやはや、凄い時代になったものだね」
「磐城君、またそんな年寄りみたいなこと言って」

 まあ、仕方のない部分もあるけれども。
 前世では既に定番化している手法だが、つい最近まで指導に関しては脳筋寄りだった今生ではまだまだ普及し切っていないからな。
 数々の指標の話も含め、個別の技術は一通り揃っていたようではあるけれども。
 現場では中々それらを組み合わせて使われてこなかった。
 一部の極めて頭の柔らかい選手や指導者がパーソナルな部分で利用する程度だ。
 トレーニング手法としては最先端と言っても過言ではない。

 しかし、アメリカ一極集中による陰謀論染みた歪みが明らかになったことに端を発し、そこに更に俺の普及活動やWBWでの惨敗などが重なったおかげか。
 ここ1、2年で一気に普及してくれたように思う。
 全てはWBWで勝利する。その至上命題のために。

「秀治郎君のアレも貸すことになったんでしょ?」
「ん。出張ピッチングマシン」
「ああ。V&R野球盤で使ってた奴だな。俺も出演したかったゼ」

 目立ちたがり屋な大松君が羨ましそうに言う。
 彼に限らず、あの番組に出演したいプロ野球選手は多いらしい。

「あれ、相当反響があったらしいね。兵庫ブルーヴォルテックスも早速導入する方向で検討を始めているって聞いているよ」
「東京プレスギガンテスもだゼ!」
「宮城オーラムアステリオスもです。しかし、その反面。同機種に注文が殺到して納期が大幅に遅れてしまって春季キャンプには間に合わないと聞いています」

 と、横から口を出したのは近くでストレッチをしていた山崎選手。
 声量を落としていた訳ではないので、普通に聞こえていたようだ。

 まあ、わざわざV&R野球盤に出演してあのピッチングマシンを使ったのは、正にそういった状況になることを期待してのことだ。
 だが、彼の言う通り効果があり過ぎたらしい。
 この特別強化合宿ではメーカーからレンタルする計画でいたそうなのだが、そもそも実機が存在しない事態となってしまっていた。
 一方で昨シーズン。契約更改の下交渉直後に追加発注していた俺のところには合計4台の同型機が存在する状態となっていて……。

「まさか秀治郎選手が3台も持ち込むとは思いませんでした」

 山崎選手の言う通り、落山監督から乞われる形で3台のピッチングマシンをこの特別強化合宿のために貸与することにしたのだった。

「仙台港からの海上輸送で約10日。球場でのセッティングとオペレートについては、メーカーから技術者を呼んで行って貰うことになっています」

 ちなみに、残りの1台に関しては我らが村山マダーレッドサフフラワーズの春季キャンプ用として尾高監督に預けてきた。

 ……それはともかくとして。
 これでこの特別強化合宿では全員、WBW代表級の球で打撃練習ができる訳だ。

「正直、楽しみです」
「ええ。堪能して下さい」

 ある意味、今日のトレーニングの目玉もそれだろう。
 思う存分使って欲しい。とは言え――。

「今日の俺と美海ちゃん、磐城君、大松君は投手メニューですけど」
「わたしも。しゅー君につき合う」
「ウチもみなみんと一緒っす」
「僕もブルペンキャッチャーをして欲しいって言われてるよ」

 ピッチャーは全員、初日からブルペン入りする予定。
 あーちゃんと倉本さん、昇二の練習もそれに合わせたものとなっている。
 俺達はまずキャッチボール。続いてフィールディング。
 それからブルペンで投球練習を行う。
 その後はランニングでクールダウンし、午後は個別のメニュー。
 磐城君と大松君はそこでバッティング練習を行うはずだが……。
 俺は他のピッチャーのブルペンキャッチャーをお願いされている。
 今日、俺があのピッチングマシンを使う機会はないだろう。
 まあ、自分の持ち物だ。
 普段、全力で使い倒しているので別に構わないが。

「それはそうと、5日後の紅白戦。1戦目の予定メンバーを見ましたか?」
「……ええ」

 好戦的な表情を浮かべて俺を見る山崎選手に、笑みを浮かべながら応じる。
 全体ミーティングの後で掲示板に張り出されていたものだ。

「落山監督も、大胆なことをするものです」
「ん。しゅー君&わたしVS皆」

 あーちゃんの言った通り。
 俺とあーちゃんは紅組。
 一方で美海ちゃん、倉本さん、昇二、磐城君、大松君、山崎選手は白組。
 そんな割り振りとなっていた。

 ちなみに紅組の他のメンバーは前回WBWでの主力選手。
 白組の他のメンバーは今回初招集の選手や前回控えだった選手だ。
 その部分を取っても、落山監督は中々思い切ったことをしたと本心から思う。

「あの日本シリーズから早2ヶ月半。リベンジする機会が来たって訳だね」
「俺も何もしてなかった訳じゃないってとこ、見せてやるゼ」

 大松君が気合十分なのは当然として、磐城君もまた闘志を燃やしている。
 日本シリーズという大舞台での敗北から2ヶ月半。
 彼らもまた思考をとめずにここまで来たのであれば、また新しい武器を持ってこの特別強化合宿に臨んでいるかもしれない。

 海外代表チームとの特別強化試合の前にまずは紅白戦。
 少し楽しみだ。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品