異世界にタワマンを! ~奴隷少年は国王となり理想の国を目指した~
1-1-3. 神秘をまとう少女
「え……?」
「君だけじゃない、この星もろとも全てこの世から消し去るよ?」
シアンはニヤリと笑みを浮かべた。
レオは一瞬言葉を失い、口をパクパクとさせる。
ただ、シアンの瞳の輝きには純粋で鮮烈な力は感じるものの、悪意はみじんも含まれていなかった。
レオは大きく息をつくと言った。
「この星って……、この大地も街もみんなも全部……ですか?」
「そう、一切合切全部この世から消えるよ。それでもいい?」
レオは多くの人命を背負う重大な責任に一瞬気圧された。
「今まで……、そういうことはあったんですか?」
「見てごらん」
そう言うと、シアンは両手のひらを上に向け、地球儀のような青い惑星を浮かび上がらせた。
「これがさっき消した星だよ……」
すると、惑星の大きな海の真ん中に鮮烈な光の柱が立ち上った。
「えっ!?」
レオが驚いていると、光の柱のふもとが真っ赤に光を放ちながら海をどんどん侵食していく。
やがて浸食された部分が、腐った果物のように焦げ跡のような色になり、落ち込み始める。浸食はどんどんと惑星を蝕み続け、海をあらかた覆いつくした時だった、惑星は全体に真紅のヒビがつぎつぎと走り、ボロボロと崩壊を始めた。
「ああっ!」
レオが叫び声をあげた直後、惑星は全体がボロボロと粉々になって中心部に吸い込まれていき、やがてすべて消えていった。きっと何億人もの命が失われたに違いない。
呆然とするレオ。
「なんで……、なんでこんなことするの?」
レオは涙目になって聞いた。
「新陳代謝だよ。健康な星が元気に繁栄するためには、将来性のない星を間引かないといけないんだ。そしてそれが僕の仕事」
レオは唖然とした。多くの人の命を奪うことを仕事というこの少女。だが、そう言う彼女の瞳は再び水色に澄み渡り、邪な影は感じられない。シアンの中だというこの世界も清浄そのものであり、聖なる気配に満ちていた。
「どうする? それでも僕に頼む?」
「この星に……何しに来たんですか?」
レオは恐る恐る聞いた。
「ふふっ、カンがいいね。そう、この星はブラックリストに載ってるんだ」
レオは心臓が止まりそうになった。さっきの星のように自分達も滅ぼされてしまう……。
「も、もしかして、頼むのをやめたらすぐにこの星……消されますか?」
「まだ来たばっかりだから何ともだけど……、多分そうなるかな?」
シアンは首をかしげながら、恐ろしい事をさらっと言った。
「だとしたら選択肢など無いじゃないですか……」
「そうだね、君が救世主になるしか道はないね」
シアンは微笑んで言った。
レオは目をつぶり大きく息をついた。
なぜこんな大量虐殺が許されるのかレオにはさっぱり分からなかった。レオには全く理解が及ばない、はるか高みにある世界の営みなのだろう。
「やります。それが僕の理想だし、他に選択肢などないんですから」
「無理してやってもうまくいかないよ?」
「元々僕が言い出した話です。僕はみんなを笑顔にしたいんです。しっかりとやり遂げます。」
レオは覚悟を決めそう言って笑った。
「大変だよ?」
シアンはレオの目をのぞきこむ。
「やりたいことをやるだけです」
レオはまっすぐな目でシアンを見た。
「ふぅん……」
シアンはそう言ってしばらくレオの目を見つめる……。
そして、いきなり相好を崩すと、
「なら契約成立。一緒に国づくりだ――――!」
うれしそうにそう言うと、レオをぎゅっとハグして頬にチュッとキスをした。
レオはいきなりふわふわの柔らかな体に包まれ、目を白黒とさせながら言った。
「あ、ありがとう。シアンさん」
「『さん』なんて要らないよ……。シアンって呼んで」
「じゃあ、シ、シアン、よろしく!」
レオは立ち昇ってくる華やかな温かい香りに困惑しながら言った。
こうして失敗の許されないレオの理想郷づくりが始まった。それは数億人に及ぶこの星の住民の命が懸かったとんでもない勝負であり、また同時にこの星が新たなステージへ行けるかどうかの挑戦だった。
気が付くとレオ達は元の世界に戻っていた。
麦畑は風に揺れ、黄金のウェーブを描き、青空にはポッカリと白い雲が浮かんでいる。
冷静に考えると、なんだかすごい約束をしてしまったとレオは少し怖くなった。それでも物心ついてからずっと奴隷で悲惨な労働に明け暮れていた日々の中で、思い悩んでいたことの出口が見つかった思いがして、どこかワクワクしていた。
「最初はどうするの?」
シアンが聞いてくる。
「誰も住んでない場所を探したいな。でも……どこにあるかなぁ……」
国の基本は何と言っても国土である。しかし、奴隷の少年にはそんなもの心当たりもなかった。
「うーん、じゃ、ドラゴンに聞いてみようか?」
少女は人差し指を立て、ニコニコしながら言った。
「ドラゴン!? ド、ドラゴンって本当にいるんですか?」
「いるわよ。可愛いわよー」
「か、可愛い……んですか?」
「とーっても」
ニッコリと笑うシアン。
「そしたらドラゴンの所まで案内してくれませんか?」
「敬語なんていらないわ、行きましょ! ドラゴンに会いに」
シアンは微笑み、レオはうなずいた。
ビューっと爽やかな風が吹き、黄金色に実った小麦畑がウェーブを作る。まるで二人の挑戦を祝福しているようだった。
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