魔法令嬢アリスは星空に舞いたい

チョーカー

登場!? 邪神の神官

いろいろな出来事があり、ピラミッドの深層にたどり着いた。

「まさか、ミイラの大軍に襲られるとは思ってみませんでした」

「あぁ、私とお前のどちらかがら火属性魔法だったら、楽だったのにな。流石に殴り疲れちまったぜ」

「蛇女《ラミア》は強かったですよね? なんで、関節技を狙いにいったのですか?」

「あぁ、流石の私も蛇女に絞められて、ムキになっちまったぜ。逆に絞め落としてやろってな!」

「そんな事もあって、ここが行き止まり。最後の部屋ですね」

「そうだな。場所がピラミッドなら、祭壇は天辺にあると思っていたが……まぁ、太陽神に生贄を捧げるって目的じゃないみたいだから……見ろよ。アイツを」

 ミゲール先生は、部屋の奥を指差した。

 想像した通りの大規模魔法。その発動条件である儀式が行われている最中だった。

 魔法陣の中、大柄な男が仮面をつけ、神に祈りを捧げるように詠唱を行っている。

 ただし、その神はきっと邪神なのだろう。 魔法陣から排出される魔力の塊は、空中に――――邪神を召喚するための扉を作っていた。

「儀式を行っている男は神官ってやつだな。魔法使いとしてなら、こんな大規模魔法を最後まで見届けてやりたいって思わなくもないが……ありゃダメだ。世界がうっかり滅んでしまうレベルだぜ!」

「それじゃ、急いで止めないと――――ところで、あの男性。神官ですか? 妙に体が大きくないですか?」

 子供のアリスにとって大人は、自分の何倍も大きく見えてしまう。

 しかし、神官は、それを差し引いても大き過ぎる。

 通常の人間の2倍~3倍ほどのサイズ。 きっと、隣にトロールやオークが立っても神官と比較すれば、子供に見えてしまうかもしれない。

「魔力が逆流してる。私の変身魔法と似たような理屈か? そりゃ、魔法だけじゃなくて、きっと体も強いだろうな」

「ミゲール先生、わくわくしないでください。 滅んでしまいそうなのでしょ? 世界が」

「おっと、そうだ。 この楽しい世界が滅んでしまったら……つまらなくなっちまうからな! 最初から全力でいかせてもらうぜ。援護しろアリス!」

「はい!」とアリスは魔法を発動する。 

 防御専門の結界魔法。 ただし、今回は自身を守るための発動ではない。

 魔力を帯びた風魔法は、ミゲールの周辺を覆う。

「行くぜ! 吶喊!」 

 前に駆けだしたミゲールは通常よりも速い。 風が彼女の背中を後押ししている。

 十分な加速を得て、神官を――――ぶん殴る。

 それまで儀式に集中していた神官は、ミゲールとアリスの存在に気がついていなかった。

 不意打ちの一撃は、巨大化している神官を吹き飛ばした。

 通常の人間なら――――いや、通常の魔物であって即死してるだろうミゲールの一撃。 

 しかし、魔力の逆行で強化されている神官は、当たり前のように立ち上がる。

 この時、初めて侵入者であるミゲールとアリスに気がついたようだ。

 仮面で隠れていてもニヤっと笑っているのがわかる。 もしかしたら、2人を最後の生贄に相応しいと思ったのかもしれない。

「なんだ? その笑いは?」とミゲールは《《キレ》》ていた。

「久しぶり過ぎて忘れちまってたぜ、その嘲り笑いってやつをよ!」

 神官は、手にした武器――――杖をミゲールの頭部に向けて振るう。

 巨大化した肉体に加え、なんらかの武道の心得があるのかもしれない。
 
 まるで熟練の剣士のような横薙ぎの一撃。

 「だが、それは私に届かねぇよ!」

 ミゲールの言葉通り、神官の一撃は宙を切る。 空振りの勢いのまま、自身の力に振り回されるように、神官は地面に倒れた。

 投げ技……しかし、ミゲールは神官に触れていない。 触れずに神官を投げたのだ。

 その秘密は、彼女の紋章――――獣の紋章ではない。 彼女、本来の属性である地の紋章の力。

 彼女は、攻撃に合わせて神官の足元――――つまり、地を動かしたのだ。

 そのため、強制的に足を滑らせられた神官は、地面に衝突した。

「ぐっ!」とダメージを受けた彼は、体勢を直すために立ち上がろうとする。

 しかし、そうはさせない。 ミゲールの蹴りが顔面を捉える。

「そう簡単に立たせねぇよ。むしろ、その巨体……立ち上がるのに時間がかかるだろ?」

「あらよ!」とミゲールはジャンプ。 重力を利用して、両膝を神官の頭部に叩きんだ。

 ピシッと神官の仮面にヒビが走った。

「おやおや、その仮面に亀裂ができた途端に魔力にブレが生じたね。そいつが弱点か?」

 無論、神官は答えない。 ミゲールの攻撃から身を守るため、逆に攻撃に出る。

 ミゲールの肉体を掴もうと両手を広げた。 しかし、空振り。

 それどころか、彼女の姿は消えた。 どこに消えたのか?

 キョロキョロと左右に首を動かす神官。 見当たらない。

 離れていた戦いを見ていたアリスには、ミゲールがどこに消えたのかわかった。

(あの一瞬、刹那の時間でミゲール先生は地属性の魔法を使って、攻撃を避けると同時に、体を地面に――――《《潜った》》!?)  

 アリスが認識すると地面に変化が起きた。

 まるで蟻地獄。 

 ミゲールが地面にいると思われる場所。そこを中心に地面が細かな砂に変化した。

 神官は、必死に抵抗している。しかし、砂に飲み込まれていく。 もしろ、もがけばもがくほどに……

「けっけっけっ……どうだい? 私の蟻地獄は? 一緒に砂の中で私と踊ろうぜ?」 

「――――っ!」と神官。 今も手にした杖。 魔力が――――異常なほどの魔力が杖に灯った。

「てめぇ……火属性か? 私と相性は良くはないね」

 次の瞬間、爆発。 神官の魔法がミゲールの蟻地獄を吹き飛ばしたのだ。

「せ、先生?」とアリス。 彼女が施していた結界魔法は、既に消えている。

 自分の身を守るためならば、無尽蔵の魔力を発揮する強力な結界魔法。

 一度、彼女から離れて他者に付加《エンチャント》した場合は、その限りではない。

 しかし、アリスは悲観に暮れる余裕はない。

 神官は杖をアリスに向けたからだ。

「――――っ!(あの威力。私の結界魔法でも何度も耐えれるものではない。なんとか……)」 

 だが、神官の攻撃は行われなかった。

「おっと、パーティはまだ終わってねぇぞ。楽しい楽しいダンスタイムはここからだ」 

 神官が向けた杖をミゲールが握り、アリスへの攻撃を阻止したのだ。

「獣属性による強化。コイツは最強の変身魔法なんだが……少し、見た目が嫌いなんだよね。 太って見えるからな!」

 ミゲールの獣人化。 熊のように体が巨大化していた。

「オラぁ! 吹っ飛べや!」

 巨体である神官をミゲールは片手で投げ飛ばし、天井まで叩きつけた。

 天井から落下して行く神官に対して、拳を叩き込む。

「おっと、体を貫いてちまったかな? 幼い弟子に見せるにはグロテスクな光景になっちまうぜ」

 彼女の言う通り、ミゲールのパンチは神官の胴体を貫いていた。しかし――――

「むっ! コイツ、やべぇぞ! 意識を消して、邪神に肉体を受け渡しやがった!」

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