魔法令嬢アリスは星空に舞いたい

チョーカー

古代遺跡と怪しげな儀式

石を積み上げた作られた古代遺跡。 ピラミッドだ。

 とは言え、砂漠の国で王の墓とは別物。 神聖さには違いないが――――

「おそらく祭壇。つまり、大がかりな儀式が行われた場所だ」とミゲールが説明しながら進む。

 警戒は――――しているような、してないような。普通に歩いて入口らしき場所に進む。

「罠には気をつけな。お前の常時展開されてる風の防御魔法は、貫通されないだろうが……それでも、倒し方は幾つか――――」

 ミゲールは最後まで言えなかった。 なぜなら、内部に足を踏み入れた瞬間に罠が発動。 落とし穴に姿を消した。

「ミ、ミゲール先生!」と飛行魔法で穴に飛び込もうとしたアリスだったが――――

「落ち着け、アリス。 この程度の罠で取り乱すんじゃない」

 ミゲールは落ちた穴から、ジャンプした戻ってきた。

「――――っ」とアリスを驚かせたのは、その姿だった。

「なんだ? いい加減、私の魔法になれたらどうだい?」

「いえ、先生の変身魔法――――なんで人魚に変身したのですか?」

 落とし穴から戻ってきたミゲールは人魚に変身していた。

「下は水路だったからな。 下手に流されると戻ってくるのに厄介だろ?」

 彼女の魔法。 地属性から発展させた獣の紋章。

 その効果は主に、魔物への変身だったが……

(初めて会った時も、猫の獣人でした。どうして、先生の魔法は本人の性格とはかけ離れて――――可愛いとされる魔物に変身するのでしょうか?)

 そんな事を考えていると、表情に出たのだろうか?

「なんだい? 私の可愛い魔法について考察していたのか?」

「はい」とは言い難いミゲールの言葉だったが、アリスは素直に頷いた。

 ミゲールは人魚姿から、元に戻った。遺跡内部を進みながら、ミゲールは教師としてアリスに説明を――――授業を始めた。

「コイツは私の経験則だけどよぉ。魔法ってのは、本人の願望が反映されている。私はそう思うだ」

「願望の反映……ですか?」とアリスは、自分の紋章を見た。

「そうさ。私の地属性は頑丈さ。始まりは強さへの憧れ……だったのかも知れないね」

 いつも自信満々で『地上最強の魔法使い』と言われるミゲール先生。

 その魔法使いとしてのスタート地点が、強さへ憧れがあったと言われても、今では想像が難しいとアリスは思った。

「そう言う意味じゃ、地属性から獣属性に進化したのも納得だろ? 魔獣は人間よりも肉体的に強いからな」

「それは、ずいぶんと単純ですね」とアリス。 それは軽口ではない。
 
 複雑で精密な魔法は評価の対象となる。 

 それと同じ――――単純で強大な魔法も、評価は高い。

 だから、アリスの言葉は、どちらかと言えば称賛に等しい。 
 
 ミゲールは続けてアリスの魔法についてに移る。

「お前やモズリーの風属性は、自由への憧れ。あるいは強い目的意識……そうじゃねぇのか?」

「私の……自由への憧れ……強い目的意識……」

「お前は何かやりたい事があるんじゃないか?」

「私は――――」とアリスは思い出していた。

 初めて風の紋章が現れた日のこと。

 大人になるまで生きれないという死への恐怖。それと同時に強いイメージ……

 それは、夜空に浮かんだ満天の星空。だったら――――

(だったら、私は何をしたいのかしら? 星? 私は星に――――)

「おっと、自分探しは大切だけど、自分発見の前に命を失ったら意味がないぜ。そこを見ろよ」

 ミゲールの言葉に考え込んでいたアリスは、緊張感を取り戻した。

 ここは古代遺跡、危険地帯だ。どんな罠が――――

「え?」とアリスは驚いた。 そこには足跡が残っていたからだ。

 埃と砂。 その溜まりを踏み抜いたためにできた跡。

「この足跡、古くないぜ。たぶん、男性のサイズ――――もう少し、情報を取ってみるか?」

 そう言うと、ミゲールは獣の紋章を発動。 今度は獣人――――猫ではなく犬にも変身できるらしい。
 
 獣人化による優れた五感。特に臭いを辿る。

「来たのは2日前……偶然と言うよりも定期的に出入りしている人間が数人。 鍛えられている――――文明の臭いがしないね」

「文明の臭いがしない……ってどういう意味ですか?」

「鉄とか、洗剤とか、そういう臭いさ。獣のように生活してる人間――――つまり? どう思うか、我が生徒?」

「――――」とアリスは無言で考える。 出した答えは、

「まだ、ここを祭壇としてる人たちがいる? ここが公にされた後でも、隠れて儀式を続行している原住民?」

「あぁ、どう見ても滅んだ文明の残された遺跡だと思っていたが、まだ生きているなら――――コイツはヤバいかも事件だぜ! 大規模な儀式を行おうとしているぜ?」

「大規模な儀式――――何をしようとしていると思います?」

「――――昔は、この遺跡を作るほどに栄えていた町があったはずだ。それが痕跡がなくなるほどの何か――――周囲から人が逃げ出すほどの何かを起こした大魔法」

ミゲールの言葉を聞くとアリスは頭がクラクラしてきた。

「流石の私でも、想像がつかねぇ。邪神でも呼び出そうとしてるんじゃないか?」

「そんな、見る限り誰も立ち入ってない……何百年も人が来ていないように見えるのに、どうして今――――よりによって私たちが来ているタイミングで!」

「まぁ不思議だよな。隠れてコソコソと儀式を受け継いできた連中が、なんで今のタイミングなんだ?」 

 そう言いながら、ミゲールは考える。

「やっぱり、あれだ……調査の前に国政と周辺各国の情報集めをサボっちゃダメだな。まるで見当がつかねぇ!」

「き、期待させないでください」

「邪悪な妖術師に騙されたか? 現実的なのは、原住民が自然災害で壊滅的被害を受けた。あとは土地を奪われ追い出されようとしている国への怒りと怨み……そこら辺がよくあるパターンだな。私の経験則だけど」

「よくあるって言うほど、そんな経験を積んでいるんですか!」

「そうだ。私の弟子になった以上はお前も慣れておけ」

「慣れたくありませんよ、そんな事件に」

「おっと静かに――――声を出し過ぎたみたいだ。誰か来るぜ?」

「……誰のせいですか」とアリスは声を小さくする。

 そのまま、2人は物陰に隠れて様子を窺う。すると――――

 人影が現れた。 3人――――ゴブリンと見間違うような武装をした人間だ。

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