魔法令嬢アリスは星空に舞いたい

チョーカー

ジャングルを冒険しよう!

 翌日――――

「なんで普段と同じドレスで来てるんだよ!」

 王城で待っていたミゲールはサファリスタイルで怒鳴った。

「昨日、ジャングルに行くって言っただろ!」

「――――いえ、言ってませんよ?」

「あれ? そうだったかな……まぁいいだろ。行こうぜ!」

「えっと、もう少し説明をお願いします。古代遺跡に行くとしか聞いてませんよ?」 

「仕方ねぇな。さて、どこから説明したらいいか――――」

 ミゲールは説明を始めた。

 この世界には、まだまだ未知の魔法が存在している。

 例えば、今回の目的のような古代遺跡――――要するにダンジョンだ。

 そういう場所には、儀式や媒体を利用した大規模魔法の痕跡が残っている。

「今回は、特別立ち入り禁止になってる危険度最高クラスのダンジョンだ!」

「帰っていいですか?」

「コラッ! ちょっと待て、帰るな。帰るな。他ならぬ私が行くんだぞ? 安心して構わないぞ」

「ミゲール先生と一緒だから不安なんですよ」

「そんな鉄壁な防御魔法を持っていて、不安視する要素はないだろ? それに――――」

「それに、なんです?」

「お前の風魔法は便利なんだよ。移動に空飛べる。ジャングルで快適に寝れる」

「私の魔法で野宿するつもりですか!?」

「おいおい、そんなに露骨に嫌そうな顔をするな。魔法の研究するなら実地調査は必要だぞ」

「わかりましたよ。旅行の準備はしてきましたので」

「いいね! お前がいてくれて助かるぜ! 荷物はいくらあっても問題ないからな」

「――――はい?」

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・

「よし! 飛べ!」

「……はい」とアリスは死んだ目で答える。

 彼女の周囲には、ミゲールが用意した荷物が大量に散らばっている。

 加えて、ミゲール本人は豪華な椅子に座っている。

 アリスは風の紋章に力を込める。 

 結界魔法と同じで、彼女の周囲は風で覆われていく。 違うのは、彼女の体が浮いていくこと――――いや、それだけではない。

 ミゲールも椅子に座ったまま浮き上がる。 彼女の荷物も同様だ。

「そうだな。目的地の方向は――――あっちだったな」

「本当に大丈夫です?」

「心配するな、地図は持ってる」

「……世界地図じゃないですか!」

「あん? 当たり前だろ? 国内のダンジョンで手軽に済ますとでも思っていたのかよ」

「か、海外旅行! 許可は取っているのですか!?」

 ミゲールは宮廷魔法使い。

 アリスは公爵家の1人娘。

 勝手に海外に行くのはまずい……というよりも、

「……と言うよりも、私が魔法で国を越えたら不法入国になるのでは?」

「細かい事は良いんだよ! 金がない時は、走って、泳いで海外の古代遺跡までいってたんだぞ!」

「無茶しすぎでは!」

「構わねぇよ。目的地の王族は、だいたい私のダチみたいなもんだ。捕まっても、釈放される」

「捕まることが既に嫌なんです!」

 そんなやり取りを繰り広げていたが、口でアリスはミゲールは勝てない。

「――――わかりました。飛びます……」

 アリスは納得してない。 納得してないが、あきらめてミゲールに従う事にした。

 風魔法を使用して、浮き上がった体を高速で飛ばす。

「やっほー!」とミゲールは楽し気に声を上げた。

 それから彼女は鉱石ラジオから流れる音楽を楽しみながら――――やがて、寝ていた。

「人に働かせて、自分は惰眠を貪る……師匠でなければ殴ってるところですよ!」

 ブルブルと拳を握りながら言う、アリスの言葉は聞こえてないだろう、きっと…… 

 それから2、3時間。

「もう到着か。風属性の連中は、移動に使えて便利だな!」

 ジャングルだ。視界には森林が広がる。

 人工物……それも建設物は見えない。

「本当に、ここが目的地なんですか? 古代迷宮なんて見当たりませんよ?」

「いやいや」とミゲールは首を振り、こう続けた。 

「旅行ってのは、自分の足で歩かないとな。まだ若いのに楽なんてしちゃいけないぜ!」

「よく言えます。2時間以上も私に飛行魔法を使わせておいて」

「私から言わせてもらうと、お前こそ、『よく言えますね』って感覚だぜ。2時間どころか2日は空を飛べるくせに――――今だって、結界魔法を利用しながら、同時に飛行魔法で浮いてるじゃねぇか」

「魔法の燃費が良すぎて、反論できない自分の才能が憎い――――でもでも、結界と飛行を同時で使ってるのは自衛のためですよ。こんな軽装でジャングルを進んで、変な虫や獰猛な魔物に襲われたらどうするんですか?」

「まぁ、環境に適応できなきゃ死ぬだけだからな。私の弟子なら、そのくらい覚悟してついてきな!」

「はいはい」とアリスはミゲールの後ろをついてジャングルを進んで行く。すると―――― 

「おっと……良い物を発見したぜ。コイツは私の好物だ!」    

「好物? 何のことですか?」

「アリス、お前はそこで止まっていろ。私はちょっと、おやつタイムだ」

 そう言うとミゲールは足を高く上げる。

「一体、なにを――――」とアリスは最後まで言えなかった。

 ミゲールは勢いよく、地面を踏み抜いた。 

 地震。

 彼女の脚力で大地が揺れる。

 すると、ミゲールの頭上に何かが落ちて来る。黒い何か……

「黒い雨?」

「違うぜ、アリス……こいつは黒い雨じゃない。蟻《あり》だ!」

 大量の蟻を雨のように頭上に浴びて、彼女の全身は見えなくなっている。

「気をつけな。こいつは、大食いだ。巨大なトロールだってコイツ等に囲まれたら秒で骨になっちまう。 それに多くて小さいから、お前の結界魔法の隙間から中に入り込んでくるかもしれないぜ」

「トロールですら食べてしまう蟻って……大丈夫なんですか! いや、大丈夫そうなので頭がおかしくなってしまいそうなんですが?」

「私をトロールと同じ程度の生物だと思っているのかい? お前の師匠を信じろ……私は、コイツ等より大食いだぜ?」

「まさか、そんな……ミゲール先生? もしかして、蟻を食べてません?」

「あぁ、基本的に酸っぱいのに、意外と甘い個体もいて……お前も食べてみるか? 癖になる味だぜ?」

「結構です!」

 そんなやり取りもありながら、ジャングルを進むと目的地が見えた。

 古代遺跡。

 石造りの建設物。 建設されて、数千年は経過しているように見える。

 要するにピラミッドとか言われる建物だった。

 

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