魔法令嬢アリスは星空に舞いたい

チョーカー

 アリスはミゲールの弟子になる事になりました

ミゲールはゆっくりと動く。素手でアリスの結界に――――

「あっ、危ないですよ!」

 思わず彼女は声に出した。

 彼女の魔法に攻撃魔法はない。

 ……とは言え、彼女の結界は魔力を流した風によって攻撃を弾く物。

 高速で動き回る風。素手で触れれば、傷を負う。しかし――――

「大丈夫だ。私を誰だと思ってやがる?」とミゲールはアリスの結界に手を触れた。

 彼女の言葉とは裏腹に流血。 触れた指先から流れた血液が、アリスの結界に――――風に混ざって行く。

「こ、これは!」と彼女は自分の結界が赤く染まって行くのに驚いた。

(これは魔法媒体ですね。日常的に身に付けて物に魔力を流し続けることで、大規模な魔法が使用可能になる……ミゲール先生の血液そのものなら、その魔力はどれほどのものになるか?)

 アリスは確信していた。自分の結界魔法が必ず破壊されるほどの凄い魔法が執行される……と。 

 しかし――――

「悪いが、期待してる事は起きねぇよ。このくらいの結界魔法――――素手で殴り壊す!」

 ミゲールが行った事は単純だった。結界魔法を――――ぶん殴った!

 ただのパンチ。それだけ、それだけで――――

「わ、私の結界魔法が崩壊していきます」

 アリスの周囲を守っていた風の魔法に大穴が開く。 そこを中心に魔力の流れが乱れると、結界は消滅していった。

「どうでぇ? 魔法使いに大切なのは魔力とか魔法じゃない! それを使うために鍛えられた肉体だ!」

 それは、病弱な幼少期を過ごし、大人になるまで生きれないと言われたアリスにとって致命的とも思える言葉なのだが……

「す、すごい! 私もそれできるようになります?」

「あぁ、もちろんだぜ。私の弟子になったからには、教えれることは教えるつもりだぜ」

 こうして、アリスはミゲール・コットの弟子となった。

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・・

 ミゲール門徒への入門試験。無事、合格となったアリスは王城で予想外の人物とである。

「あれ? アリス! アリスじゃないか!」

 そう言って駆け寄って来るのはクロだった。 

「あれ? クロ! どうしてここにいるの?」

「どうして……ここは俺の家だぞ?」

 アリスは完全に失念していた。

 ここは王城。ならば、王位継承権のあるクロ――――エドワード・オブ・ブラックの家である。

「そうか、クロって王子様だもんね!」

「王子様……そういうガラでもないと思うけど」

 そんな2人のやり取りにミゲールが割り込んできた。

「なんだい、アリス。魔法剣士の王子とは知り合いだったのか?」

 宮廷魔法使いであるはずのミゲールの印象は、クロにとっても良くないものらしく、

「ゲッ! ミゲール・コット」

 そう言いながら、一歩下がっていたが、ミゲール本人は気にしていない様子。  

「なんでぇ、なんでぇ! お前らいい仲なのか、まだ若いのに隅に置けないね!」

「いえ、いい仲というよりも私とクロは婚約者なので」

 平然と言うアリス。対してクロは少し照れているように見える。

「……婚約者?」とミゲールは真顔になる。

「はい、いい仲か? って聞かれて答えるなら将来を誓い合った仲です」

「……将来を誓い合った仲?」

「そう言えば、ミゲール先生って若く見えますけど何歳なのですか?」

 それは、ミゲールが『まだ若いのに――――』と言った言葉から来た物であるが、ミゲールは心臓をナイフで刺されたような顔をしている。

 離れて聞いていたモズリーは、ゆっくりと近づいてアリスの肩をポン!と叩くと――――

「アリス……年齢の話は、それくらいにしておいてあげなさい」

「くっ! モズリー! お前だって同じ歳だぞ! なんだ、その余裕は! まさか、お前! 私の知らない間に――――」

「何を言うつもりですか! 子供たちの前で!」

「私の知らない間に大人の階段を上ってしまったのか……」

「……」と微妙な表情を見せるモズリー。

 アリスとクロは意味もわからず「?」と疑問符を浮かべていた。

 その時だった。 集団が歩いてくるのが見えた。

「グラハム王子……」とクロの呟き。それでアリスも気がついた。

 集団は取り巻き。 一番前を颯爽と歩く人物。

 グラハム王子は、この国の第一王子……つまり次期国王の最有力者になる。

(あの人が……そう言われてみるとクロに似ている)

「おや、エドワードじゃないか」と初めてそこにクロがいる事に気づいたように声をかけて来た。

「……」と顔を逸らすクロをグラハムは鼻で笑う。それだけで2人の力関係がわかる。

 グラハムは、アリスたちに視線を向ける。

「おや、客人かね? あぁ、彼女がウワサに聞くマクレイガー公爵の――――」

「私の弟子でもあるけどな」

 グラハムは、言葉の主に――――ミゲールに気づくと

「――――」と無言で顔を青く染めた。

「おう! 王様候補さんよ! 最近、私とは遊んでくれないじゃねぇか。まるで避けられてみたいで悲しいぜ。今度、手頃なダンジョンの最下層まで行って楽しもうぜ? キャンプとか、狩猟とかな」

「ミ、ミゲールさま、最近は忙しくて顔を見せれずに……えっと、時間が空けば今度――――さようなら!」

 そう言うとグラハムは、まるで逃げるように――――いや、実際に逃げて行ったのだった。

「やれやれ、グラハムちゃんも昔は可愛い男の子だったのにさぁ。何があって人の顔を見て逃げるような子になっちまったんだか」

「いや、貴方との会話を聞けば、だいたいの見当は付きますよ」

「マジか、モズリー! 教えてくれよ。私とお前の仲だろ!」

 そんな一幕もあり、ミゲールはアリスの師匠となった。

 もっとも、宮廷魔法使いであるミゲールはモズリーのようにマクレイガー公爵家に住み込みで家庭教師のような事は出来ない。

 基本的にアリスが王城に来て、ミゲールから指導を受ける。

 週に2日ほどは逆にミゲールがマクレイガー公爵家に指導に来る。

 そういう風に決まった。 それを聞いていたクロは――――

「そうか。それじゃ、アリスに会える回数が増えるのか」と呟いた。

 それを聞いていたミゲールとモズリーはニヤニヤとしていたが、

 アリスはよくわからず「?」と小首を傾げていた。

 しばらく、アリスはミゲールから魔法の指導を(相変わらず攻撃魔法の指導は受けれず)受けて過ごしていた。

 そんな時だった。 唐突にミゲールは――――

「暇だな……」

「いえ、魔法の指導中に暇とか言わないでくださいよ」

「ちぇ、真面目だね。いいだろ? 暇な時は暇なんだよ!」 


 まるで子供のように駄々をこねるミゲールだったが、急に思いついたらしい。

「そうだ! 現地調査だ! 魔法は机に向かって勉強してるだけじゃダメなんだぜ!」

「別に先生の授業、机に座って教える事ないじゃないですか?」

「屁理屈をいうな!」

「えぇ……」

「魔法の研究のために古代遺跡に行くぞ! 明日な、明日! 別の国だから、いろいろ用意しておけよ!」

 こうして、思いつきのようにアリスはミゲールと冒険に出かける事に決まった。 
 

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