【BL】眠れない夜
眠れない夜 後編
そして、井上君の住む高級マンションに連れてこられた。アイドル時代買ったのだろうか。
「先輩、いらっしゃい。まずお風呂ですね」
そう言われて、無駄に広々した浴室で体を清めた。
リラックス効果のあるハーブの香りの入浴剤入りだ。
多分掃除も自分ではしていないだろう。ハウスキーパーくらいは今の会社でも稼げるはずだ。このマンションを分割払いで買ったとしたら、多分払いきれないと思うが大丈夫なのだろうか。
自分で買ったのではなくパトロンにもらったのかもしれないし、私がいくら考えても答えは出ない。
大人しくぼんやり入浴した。
そして、風呂から出ると井上君が用意してくれたトランクスと触り心地の良い綿のパジャマを着た。
リラックスしたし眠いのに眠れそうにない。
「先輩、俺もお風呂入ってきますから、ベッドで待っていてくださいね」
「うん」
無駄に広い寝室に、無駄に広いベッドがどどんと鎮座していた。
私はそこの隅っこに横たわってみた。
高級ホテルのベッドのようだと思うのに、睡魔なんてかけらも押し寄せてこない。
どうすればいいのだろう。
そう考えていたら、作り付けのクローゼットの扉がパタンと音を立てて開いた。
こんな高級マンションなのに建て付けがよくないのだろうか。
そして、そこからピンク色の長細いウサギの抱き枕がぽとんと落ちた。
随分可愛らしい趣味だ。
私はその抱きまくらをクローゼットに戻しておいてあげようと立ち上がり、手に取った。
「あれ……?」
触れた瞬間に意識が飛んでしまいそうになった。
これは睡魔だろうか。理性では抗えないくらい強力な睡魔が私の中を駆け巡ったとでも言うのだろう。
しかし、勝手にクローゼットの中を漁ったと思われるのは嫌だからと、理性でウサギをクローゼットに押し込んで扉を閉めた。
先程のは何だったのだろう。
私以外の人は、毎夜あのような抗えないものに襲われて睡眠に至るのだろうか。
「先輩、お待たせしました。添い寝しましょ」
井上君はいつもきっちり決めている髪を下ろしていて、少し子供っぽいと言うか可愛らしい。
「うん。よろしくね」
井上君に抱きしめ合ってベッドに入った。
先程のウサギに触れた時のような衝動はない。
私よりも背が高くて筋肉質で体温の高い井上君に抱きしめられると……。
固い。暑い。鬱陶しい。
せっかく気を遣ってくれている後輩へ、こんな感想を抱いてしまう。
「ぐぅぐぅ……うがががっ……ぐぅぅぅぅぅ…………………あがっ………ぐぅ……」
正直、井上君のいびきがうるさくてリラックスの一つもできる気がしない。
心臓の音のリラックス効果云々も、このいびきの不快感には勝てるわけがない。
私は爆睡している井上君のがっちりとしたホールドを無理やり解いて、クローゼットからウサギを取り出した。
あああ……。
私が求めていたのはこれだ。
私は井上君が大の字に寝ているベッドに戻って、ウサギの抱き枕を抱きしめた。
ああ、これが睡眠の快楽だ……。
久々に夢を見た。
井上君が「先輩好きだ! 夢の中くらい好きにしたっていいじゃないですか!」とパンツ一丁で襲い掛かってきた。
そんな井上君をウサギの抱き枕が体当たりで吹っ飛ばした。
「な、何だと? 貴様は天使の使いか!? 封印したはずなのにどうしてここへ……。淫魔と夢魔の血を引く俺の邪魔をしてくるとは……。まだ天界の奴らも懲りてはいないらしいな!」
井上君は頭から鹿みたいなツノをニョキっと生やして、背中からはコウモリの翼のような物を出現させながら中空を舞い、ウサギに手刀で攻撃を始めた。
「くっ……! こしゃくな。俺が世界で一番大好きな先輩の夢と性欲をもらいたい時に限って現れるなんて! あのさ、別に殺したりしないから今回は帰ってくれない? 俺、先輩とイチャイチャしたいだけなんだよ。リアルだと恥ずかしくて無理だし、夢の中くらいいいじゃん! ねえ、俺初恋なんだよ!? こんなに美人で優しくて、俺の淫魔のフェロモンにまったく反応しないのに俺に優しくしてくれる希少な人で、本当心から大好きで幸せになってもらいたいんだ。だから、夢の中くらい好きにやらせてくれたっていいじゃないか!」
井上君は暴論に暴論を重ねながらウサギに殴りかかったが、ウサギは軽くかわして井上君に体当たりをして遥か遠くに吹っ飛ばした。
「ウサギさん、ありがとね」
私は考えることを放棄して、ウサギを抱きしめて夢の中でも目を閉じた。
翌朝は、とてもすっきりした気持ちで目が覚めた。
変な夢を見たが、あれは何だったのだろうか。
私の深層心理なのだろうか。本当は井上君に抱かれたいとか思っている可能性は……どうだろう。
だが、何にしてもイケメンの井上君は添い寝屋さんには勤められないだろう。
「ぐががが……ウサギめ…………先輩ぃ、好き…………」
そんないびきと寝言がうるさい井上君が、淫魔と夢魔の血を引く存在なんてことはあるだろうか。
そもそも淫魔と夢魔とは何なのだろう。
まあ、どうでもいい。
しかし、本当に私のことが好きなら夢の中ではなくて現実でアピールしてもらいたいものだ。
そんな風に物事を考えられるくらい、昨夜はよく寝られたようだ。
私はまだ早いことだし、ウサギをクローゼットにこっそり戻してから井上君の腕の中に収まってみる。
心臓の音のリラックス効果はわからないが、意外と心地いいかもしれないなんて思ってしまった。
「先輩、いらっしゃい。まずお風呂ですね」
そう言われて、無駄に広々した浴室で体を清めた。
リラックス効果のあるハーブの香りの入浴剤入りだ。
多分掃除も自分ではしていないだろう。ハウスキーパーくらいは今の会社でも稼げるはずだ。このマンションを分割払いで買ったとしたら、多分払いきれないと思うが大丈夫なのだろうか。
自分で買ったのではなくパトロンにもらったのかもしれないし、私がいくら考えても答えは出ない。
大人しくぼんやり入浴した。
そして、風呂から出ると井上君が用意してくれたトランクスと触り心地の良い綿のパジャマを着た。
リラックスしたし眠いのに眠れそうにない。
「先輩、俺もお風呂入ってきますから、ベッドで待っていてくださいね」
「うん」
無駄に広い寝室に、無駄に広いベッドがどどんと鎮座していた。
私はそこの隅っこに横たわってみた。
高級ホテルのベッドのようだと思うのに、睡魔なんてかけらも押し寄せてこない。
どうすればいいのだろう。
そう考えていたら、作り付けのクローゼットの扉がパタンと音を立てて開いた。
こんな高級マンションなのに建て付けがよくないのだろうか。
そして、そこからピンク色の長細いウサギの抱き枕がぽとんと落ちた。
随分可愛らしい趣味だ。
私はその抱きまくらをクローゼットに戻しておいてあげようと立ち上がり、手に取った。
「あれ……?」
触れた瞬間に意識が飛んでしまいそうになった。
これは睡魔だろうか。理性では抗えないくらい強力な睡魔が私の中を駆け巡ったとでも言うのだろう。
しかし、勝手にクローゼットの中を漁ったと思われるのは嫌だからと、理性でウサギをクローゼットに押し込んで扉を閉めた。
先程のは何だったのだろう。
私以外の人は、毎夜あのような抗えないものに襲われて睡眠に至るのだろうか。
「先輩、お待たせしました。添い寝しましょ」
井上君はいつもきっちり決めている髪を下ろしていて、少し子供っぽいと言うか可愛らしい。
「うん。よろしくね」
井上君に抱きしめ合ってベッドに入った。
先程のウサギに触れた時のような衝動はない。
私よりも背が高くて筋肉質で体温の高い井上君に抱きしめられると……。
固い。暑い。鬱陶しい。
せっかく気を遣ってくれている後輩へ、こんな感想を抱いてしまう。
「ぐぅぐぅ……うがががっ……ぐぅぅぅぅぅ…………………あがっ………ぐぅ……」
正直、井上君のいびきがうるさくてリラックスの一つもできる気がしない。
心臓の音のリラックス効果云々も、このいびきの不快感には勝てるわけがない。
私は爆睡している井上君のがっちりとしたホールドを無理やり解いて、クローゼットからウサギを取り出した。
あああ……。
私が求めていたのはこれだ。
私は井上君が大の字に寝ているベッドに戻って、ウサギの抱き枕を抱きしめた。
ああ、これが睡眠の快楽だ……。
久々に夢を見た。
井上君が「先輩好きだ! 夢の中くらい好きにしたっていいじゃないですか!」とパンツ一丁で襲い掛かってきた。
そんな井上君をウサギの抱き枕が体当たりで吹っ飛ばした。
「な、何だと? 貴様は天使の使いか!? 封印したはずなのにどうしてここへ……。淫魔と夢魔の血を引く俺の邪魔をしてくるとは……。まだ天界の奴らも懲りてはいないらしいな!」
井上君は頭から鹿みたいなツノをニョキっと生やして、背中からはコウモリの翼のような物を出現させながら中空を舞い、ウサギに手刀で攻撃を始めた。
「くっ……! こしゃくな。俺が世界で一番大好きな先輩の夢と性欲をもらいたい時に限って現れるなんて! あのさ、別に殺したりしないから今回は帰ってくれない? 俺、先輩とイチャイチャしたいだけなんだよ。リアルだと恥ずかしくて無理だし、夢の中くらいいいじゃん! ねえ、俺初恋なんだよ!? こんなに美人で優しくて、俺の淫魔のフェロモンにまったく反応しないのに俺に優しくしてくれる希少な人で、本当心から大好きで幸せになってもらいたいんだ。だから、夢の中くらい好きにやらせてくれたっていいじゃないか!」
井上君は暴論に暴論を重ねながらウサギに殴りかかったが、ウサギは軽くかわして井上君に体当たりをして遥か遠くに吹っ飛ばした。
「ウサギさん、ありがとね」
私は考えることを放棄して、ウサギを抱きしめて夢の中でも目を閉じた。
翌朝は、とてもすっきりした気持ちで目が覚めた。
変な夢を見たが、あれは何だったのだろうか。
私の深層心理なのだろうか。本当は井上君に抱かれたいとか思っている可能性は……どうだろう。
だが、何にしてもイケメンの井上君は添い寝屋さんには勤められないだろう。
「ぐががが……ウサギめ…………先輩ぃ、好き…………」
そんないびきと寝言がうるさい井上君が、淫魔と夢魔の血を引く存在なんてことはあるだろうか。
そもそも淫魔と夢魔とは何なのだろう。
まあ、どうでもいい。
しかし、本当に私のことが好きなら夢の中ではなくて現実でアピールしてもらいたいものだ。
そんな風に物事を考えられるくらい、昨夜はよく寝られたようだ。
私はまだ早いことだし、ウサギをクローゼットにこっそり戻してから井上君の腕の中に収まってみる。
心臓の音のリラックス効果はわからないが、意外と心地いいかもしれないなんて思ってしまった。
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