呪われた令嬢の辺境スローライフ

第16話 幽霊屋敷

 不動産屋を訪れたクロエの担当をしてくれたのは、ミレイという水色の髪をした眼鏡の女性だった。

「本当にこの条件で良いんですか?」

 ミレイは、クロエが出してきた物件の条件に頭を悩ませていた。

 クロエが出した条件は3つだ。

 1つ、人目につかない街の外にあること
 2つ、風呂が付いてること
 3つ、金貨1,000枚以下で購入できること

「はい、この3つだけです!他ならいくらでも妥協しても大丈夫です」

 クロエとしては、先ずは何よりも人の目を避ける必要があった。
 街中では、どこで見られてるか分からないし、変に関心を集めたくは無い。
 それに、人との接触も最小限にしたかった。
 また、お風呂は絶対に譲れない。
 贅沢だと分かっていても、女の子として、清潔に保つ事は必要だ。
 後は、金銭的な問題だ。
 今のクロエの手持ちは金貨2000枚程度だ。
 王国騎士の年収で金貨400枚程度なので、5年は遊んで暮らせる金額だ。
 
 流石に手持ちを全て使うわけにはいかないので、今出せるのは、半分の金貨1000枚までが限界だ。

「街の外となると、物件はかなり限られますし、治安の問題が・・・」

 イステリアは、辺境の地であるが故に犯罪者や逃亡奴隷が逃げてくる土地だ。
 海辺と言う事もあり、海賊崩れなども住んでいるので、決して治安が良い街では無い。
 それに、街の外となると、魔物が襲ってくる可能性も高くなる。
 イステリアには、強い魔物が多く生息しているので、女性1人で街の外に住むのは薦められない。

「大丈夫です、こう見えて冒険者ですので」

 クロエは、Cランクの冒険者カードを見せた。
 Cランクの冒険者は、特別凄いと言うわけでは無いが、それなりに経験のある冒険者の証明ではあった。
 クロエが冒険者である事を知り、ミレイは真剣な表情に変わる。

「分かりました、街の外の空家は全部で10戸ありますが、その中で風呂付きの物件は2つです」
 
 そう言って、ミレイはそれぞれの間取りや外観の写真を載せた資料を見せてくれた。

「あら、素敵な屋敷ですね!」

 見せてくれた物件は、2つとも貴族が住む様な立派な建物だ。

 一つは海辺に建てられた別荘の様なウッド調の屋敷だ。
 外観は素敵だが、その分値段も金貨10,000枚とかなりの高額だ。
 流石にクロエにも手の届かない価格だった。

 もう一つは、森の中に建てられた屋敷で周囲を塀で囲まれた堅牢な作りの建物だ。
 庭や池も有り、人目にもつきにくい。
 しかも、地下水を引いているので、水には困らない。
 なのに、値段は金貨500枚とかなり安い。

「なんでこんなに安いんですか!?」

 明らかに一つ目よりも高そうな物件なのに、値段があまりにも安過ぎる。
 何か裏があるんじゃ無いかと勘繰ってしまうのは当然だ。

「実は・・・その屋敷は呪われていまして」

 ミレイは、気まずそうに呟いた。
 
「呪われている?」

 何でこうも呪いと縁があるのだろうか?
 クロエは、仮面の下で苦虫を噛み締める様な顔をした。
 
「そうなんです!夜中に黒い影がいたと言う話やひとりでに物や扉が動くと言った話まで、様々な幽霊の目撃情報があり、誰もこの屋敷には近づきたがらないんです」

 ミレイは、脅かす様にクロエに説明した。
 実際、この屋敷を買おうとした人間は数多く居たが、全員行方不明になってしまった事故物件だ。

「買ったわ!」

 クロエは、即決で購入する事にした。
 幽霊は気になるが、誰も近づきたがらないなら、クロエにとってはメリットでしかない。
 幽霊も所詮は下級のアンデットだろう。
 今のクロエなら問題無く駆除できるはずだ。
 それに、この安さは破格だ。
 買わなきゃ損だと判断した。

「はい?今、なんと?」

 まさか今の話を聞いて購入するとは思っていなかったミレイは、思わず聞き返してしまった。
 
「この屋敷を購入するわ!」

「ほ、本気ですか?」

「ええ、気に入ったわ!」

 クロエの表情には、一切の迷いが無かった。

「で、ですが、この屋敷は現金一括払いでしか購入できませんが・・・」

 クロエには伝えていなかったが、この屋敷を以前購入した人間は、直ぐに消息を絶ってしまい、金の回収が出来なかった事から、先払いでしか購入出来ない決まりになっていた。

「はい、金貨500枚よ!数えてくれる?」

 クロエは、テーブルの上に山積みの金貨を置いた。

「はい!?一体どこからこんな大金を!?」

 よく見ると、クロエの持っているカバンが収納ボックスである事に気付いた。

「こんな貴重な魔導具まで持っているなんて・・・」

 収納ボックスの魔導具は、かなりの高級品だ。
 正直、庶民どころか貴族ですら滅多に手に入れられない貴重な物だ。
 それを目の前の怪しい仮面の女性が持っている。

 一体、彼女は何者なのだろうか?

 冒険者だと名乗っていたが、Cランク程度の冒険者の収入では、絶対に買えない代物だ。

 きっと、お忍びで来た有力貴族の娘なのかも知れないとミレイは悟った。
 しかし、それにしては護衛も居ないのは、気になるが、今は目の前の金貨の山に目が釘付けだった。

「す、直ぐに権利書と屋敷の鍵を準備致します!」

 ミレイは、慌てて鍵を取りに行った。

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