東京では皆一様に夜が暗い

ふかふかね

男は私の姿を見ると

男は私の姿を見ると、黙って席についた。

そして注文を取りに来た女に、ビールを一杯くれと言った。女は愛想笑いさえしなかったが、それでも黙って店の奥に入って行った。

男は運ばれてきたビールを飲みながら、私の顔を見ている。私は何とも言いようのない気持ちになって、思わず下を向いてしまった。

やがて男は、勘定を払うと出て行った。

私はその後姿をぼんやりと見送ったが、その時、店の奥で女の悲鳴が聞えた。驚いて行ってみると、女の姿は何処にもない。

床の上にコップが一つ転がっているだけだった。

翌朝、私は出勤するや否や、すぐに課長のところへ行って昨日の事を話した。すると、意外な答えが返って来たのだ。

実は昨日店に居たのは、私と彼一人ではなかった。

もう一人いたのだそうだ。但しそれが誰なのか、課長にも思い出せないというのだが、とにかくその人物は私の知っている顔なのだそうである。

一体どういう事なのか解らなかったが、兎に角誰かがいて、それが誰だか思い出せずにいるのだから仕様がない。

しかしそんな事よりも、私にはもっと気になる事があった。

それは例の男の正体だ。

一体あれは何者だったのだろう? 

私に何を言いたかったのだろう?

 それにしても、何故今頃になって現われたのか? 

考えれば考えるほどわからない事だらけなのだ。

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