御解迦説話集

ふかふかね

とある山の麓にある小さな村

さて、ある日の事、一人の男がとある山の麓にある小さな村を訪れました。彼はそこで一晩泊めてもらうことにしたのです。そして翌朝になると、すぐに山を登り始めました。すると間もなく大きな湖のほとりに出ましたが、そこから少し離れたところに一軒の小さな家を見つけたので、そこへ行ってみることにしました。ドアをノックして出てきたのは一人の老婆でしたが、その男を見ると驚いて尋ねました。「あんたさんどなたかね?」男は答えました。「私は通りすがりの旅の者ですが、もしよろしければ一晩宿をお借りしたいと思いまして」すると老婆は答えて言ったものです。「ああそうですかい? それならお好きなようにして下さいまし」そうして家の中に入れてもらいました。ところが男が入った後でドアを閉めた途端、いきなり大声を出して叫んだのです。「ああ恐ろしや! 何て恐ろしいことをしてしまったんだろう!」それを聞いて男は尋ねました。「どうしたのですか? 何か恐ろしいことでもあったのですか?」すると老婆は震えながら言いました。「ああ恐ろしいことですとも! あんたはご存じないかもしれないが、実はこの家には悪魔が住んでいたんですよ!」それを聞いた男は驚いて言いました。「何だって? それは本当ですか?」けれどもそれに答える代わりに、彼女は再び叫び声を上げました。
「あああ、神様助けて下さい! あの悪魔は私が留守の間にやって来て、家を乗っ取って行ったんですわ!」そして続けざまにこうも言いました。「お願いです、どうかあの悪魔の悪行を止めて下さいまし!」そして祈るような仕草をした後、その場に崩れ落ちてしまったのです。一方、外に残された男は考え込んでいました。(いったいどういう事だろう? 悪魔だって?)そこで彼は決心して、もう一度家の中へと入って行きました。そして大声で呼びかけました。「もしもし、どうか開けていただけませんか?」しかし返事はありません。そこで彼はもっと大きな声で呼びながら、どんどんドアを叩いていきました。それでも何の応答もありません。そこで彼はドアのノブを回してみたところ、鍵がかかっていないことが分かりました。それで思い切ってドアを開けてみると、部屋の中では一人の女がベッドの上に座っていましたが、その女の顔を見たとたん、彼は思わず息を飲みました。なぜならその女は美しかったからです。その上、その美しさときたらこの世のものと思えないほどでした。しかもその顔はどこか悲しげであり、その目は憂いに満ちていました。しかもその姿は透き通るように白く、髪の毛はまるで絹糸のようであり、その肌は輝くばかりに艶めいています。また身に着けているものも素晴らしく豪華でした。そのドレスは純白で、しかも精巧な刺繍が施されていましたし、その帽子もまた同じでした。またその靴までもが真っ白で、しかも見事な細工が施されているのです。しかも彼女の髪は長く美しい黒髪でしたし、その瞳はサファイアのようでした。また唇は桜貝のような淡いピンクでしたし、爪は鮮やかなルビーのように紅く輝いておりました。またその手はシルクのように滑らかでしたし、その足は象牙のように細かったのです。また身体全体が優美で均整が取れており、またその体つきはとてもしなやかでした。
そんな彼女を見ているうちに、男の胸は再び高鳴り出しました。と同時に、彼の心の中で欲望が大きく膨らんできたのです。そこで彼は彼女に近寄り、そっと声をかけました。「こんにちは」ところが彼女は返事をしません。そこで彼は続けて言いました。「はじめまして」けれどやはり何も言いません。そこで彼は彼女が眠っているのかもしれないと思い、ベッドのそばへ行って顔を覗き込みました。ところが彼女の顔は青白く、息もしていないではありませんか。それで男はびっくりして叫び声を上げました。


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